第77話:深層の暗流、権限の行使
魔法協会の最奥に位置する、特に秘匿性の高い会議室の一室。
重厚な防音障壁が施された広い室内の大きなテーブルの隅に、ドワーフのバレルと、威厳を纏った執行官オズワルドが向かい合って座っていた。
「レイドールが、殺されただと……?」
オズワルドが神妙な面持ちで、目の前のバレルに事実を確認する。
「ああ。クリストフ率いる4人の手によってな。あいつらは、例のランドリエからイゾルデの案内で、かなり強力な『チャリオット』という兵器を手に入れたんだ」
「なるほど……それで、あのレイドールを討伐できたというわけか……」
オズワルドは顎に手を当て、複雑な眼差しで高い天井を見上げた。
「問題は、なぜレイドールがアイゼンの城にいたか、ってことだよな」
バレルが腕組みをし、深く鼻を鳴らす。
「それで……その当の魔将軍アイゼンはどこへ行ったんだ?」
オズワルドがバレルを力強く見つめる。
「それがな……あのカイエンが、アイゼンの城に乗り込んできたらしいんだ」
「カイエンが……!?」
「まあ、クリストフ自身が直接それを見たわけじゃないんだが……どうやらカイエンが先に城へ着いてアイゼンを倒して……」
「それで、すれ違いでレイドールを殺したと……?」
オズワルドの目が大きく見開かれた。
「ま、まあ……そうなんだよ。アイゼンはともかく、なぜレイドールがそこにいたんだっていう疑問が残るがな……」
バレルは腕組みをしたまま、伏し目になり深く考え込む。
「……まあ、これでヴァルガスへの手がかりは、完全に潰えたように思えるな」
――オズワルドがぼそりと呟く。
「ま、待ってくれ! クリストフたちは悪気があってやったわけじゃないぞ! やらなきゃ殺されていた極限状態の――」
思わず感情を高ぶらせ、椅子を蹴るように立ち上がって声を荒げるバレル。
その言葉が終わる前に、オズワルドも静かに立ち上がり、掌を向けてそれを制した。
「まあまあ、落ち着けよ。何もクリストフたちを責めているわけじゃない。むしろ魔法教会にとっちゃ大手柄だ。十分すぎる報酬を用意している」
言われたバレルは荒い息を吐き、再び二人は会議室の椅子に深く腰を下ろした。
「ただな……どうにも引っかかるんだよ。あれほど蜜月だった腹心の部下を、そんな風にあっさり死なせるものだろうか」
「ただの偶然じゃない、と……?」
バレルがオズワルドの表情を探るように見つめる。
「もし……ヴァルガスが何かを恐れているとしたら……? わざと自分に繋がる腹心の部下を、切り捨てたのではないか……」
「まさか……! あのヴァルガスが何を恐れるってんだ!?」
「さあな。……ところで、そのカイエンはアイゼンを倒した後、どこへ向かったんだ?」
「それは……わからん。相変わらず足取りがつかめねえよ」
バレルが困惑混じりに首を振る。
「うーん、あいつが今何を追っているかが最大の鍵なんだがな……」
オズワルドが苦々しげに頭を掻いた。
「オズワルド……魔法教会の特別権限を行使できる状況か?」
バレルが鋭い眼光を向ける。
「強制権限なら、いくらでも発動していい状況だが……そんなものを使ってどうするんだ?」
オズワルドが訝しげな顔をする。
「実はな、俺の弟子のロンが、カイエンに物資や金を送り続けているんだよ。魔法教会の連絡所宛てにな」
「えっ!? じゃあ、それでカイエンの足取りが掴めるじゃないか!!」
オズワルドの声が跳ね上がり、少し興奮した口調になった。
「まあ……しかし、連絡が不定期でな。物資や金は送っているが、奴がいつ受け取ったかまでは確認できていねえんだ」
バレルは腕組みをしたまま、上目遣いにオズワルドを見る。
オズワルドは迷いなく頷いた。
「よし、お前に無制限の特別捜査権限を与える。全ての連絡所の情報取得、立ち入りを許可しよう。……それで、お前の弟子のロンからは何か聞いていないのか? カイエンから連絡があったとか」
「さあな。なにせ、いつ連絡があるかもわからない状態だからな。だが、自分の工房に戻ったら早速聞いてみるよ」
秘匿された会議室の中で、二人の男は同時に立ち上がり、互いの手を固く握りしめた。
「じゃあ頼んだぞ、バレル。俺はアルフレート議長に事態を報告してくる。とにかく、お前だけが頼りだ」
「まあ、任せておけよ。何か進展があったらすぐに連絡する」
固い誓いを交わすと、二人の男はそれぞれの任務を果たすため、静かに動き出したのだった。




