↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャリオット  作者: さだきち
第十五章:虚構の魔城、狂乱の旋律

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/115

第75話:予期せぬ戦果、英雄たちの困惑


「クリストフ!!」


トリスタンは一目散に駆け寄り、雪の上に倒れているクリストフの体を必死に揺さぶった。

直後、ティーガーのハッチが跳ね上がり、フリントが梯子を滑り降りてくる。ヴリトラの重厚なドアも開き、ヴァレリアが息を飲んで近寄ってきた。


「クリストフ……お願い、しっかりして!!」

トリスタンが抱きかかえ、切実な声で呼びかける。


すると、クリストフの瞼がぴくりと動き、はっと目が見開かれた。

「トリスタン……トリスタンか! 良かった、無事だったのか……!」


クリストフはゴツゴツとした大きな手でトリスタンの頬を触り、そこに確かな温もりを感じ取ると、生きている実感を噛みしめるように深く安堵の息を吐いた。


しかし次の瞬間、クリストフの表情が一変し、唐突に大声を上げた。


「わあああっ!? 俺のカタナは!? どうなった、どこだ!?」

クリストフは必死の形相で立ち上がろうとし、辺りを見回す。


すぐ近くでフリントが、横倒しになっていたカタナを起こし、静かに状態を点検しているのが見えた。

クリストフは足をもつれさせながら駆け寄り、すがるように尋ねる。


「ど、どうだ!? もうダメか? 壊れちまったか!?」


「そうですね……フレームが少し曲がっちゃった部分はありますが、まあ、大丈夫でしょう」

フリントは冷静に各部を叩きながら見立てを口にする。

「ただ、もうほとんどバウンダリー・ハル(魔導障壁)が残っていません。これじゃ雨すら防げない状態です。本当に奇跡ですよ、この衝撃で原形を留めているなんて」


フリントは作業服の袖を捲り上げた。

「この場でとりあえずの応急処置をして……今できるエングラムゲートを強制発動し、バウンダリー・ハルだけ少し戻しましょう」

そう言うと、フリントはティーガーに載せてある工具箱を取りに走った。


「良かった……カタナがこれでスクラップになったらどうしようかと……」

クリストフが胸を撫で下ろそうとした、その瞬間――。


「いい加減にしなさいよ、あなたたち!!」


ヴァレリアが物凄い剣幕で叫んだ。


「わあぁっ!? な、なんだよ急に!?」

あまりの迫力に、クリストフとトリスタンはビクッとして思わずのけぞる。


「アイゼンはどうしたの!? あの巨大なドラゴンも大変だったけど、アイゼンはいたの!? いなかったの!?」

ヴァレリアが肩を怒らせ、猛烈な勢いでまくしたてる。


「ああ……それな……」

クリストフとトリスタンは顔を見合わせた。


「なぜかここに、先に『絶魔の猟犬(スペル・ハウンド)』のカイエンが訪れていたらしくてな……」


「カイエン……?」

それがどうしたと言わんばかりに、ヴァレリアがギロリとクリストフを睨みつける。


「あいつがな……俺たちより先にここへ乗り込んで、アイゼンをやっつけちまったらしいんだよ」


「は……? え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! カイエンって何者なの!? 黄金の光もないのに、どうやって魔将軍を倒したのよ!?」

あまりの唐突さに狼狽えるヴァレリアの脇を、大量の工具を抱えたフリントが淡々と通り過ぎていく。


「俺が知るかよ……。でも、カイエンはあのヴァルガスを倒した伝説の男だ。魔将軍を倒す力があったって不思議じゃないさ」


クリストフは溜息混じりにヴァレリアへ答えると、カタナの手配に取り掛かろうとしているフリントへ声をかけた。

「おい、フリント……あの無線機はあるか?」


「はい? これですか?」

フリントはポケットから無線機を取り出し、クリストフの手へと手渡した。


「私たちは……結果的に、あの黒いドラゴンを倒すためにここへ来たってこと……?」

ヴァレリアは未だに状況が飲み込めない様子で、雪の上に横たわる巨大な黒竜――レイドールの惨状を見つめる。


「まあな……しかもあいつは黒本党の最高幹部だ。それを手違いと偶然でぶっ殺しちまった。魔法教会が総力を挙げて探し回っている最重要人物をな」


クリストフは重い溜息をつき、無線機の通話ボタンを押して応答を待った。


「バレルさんに連絡するの?」

トリスタンがクリストフの顔を覗き込む。


「ああ……こんな大事件、すぐに知らせねえと割と一大事だからな」


やがてノイズが晴れ、スピーカーの向こうから馴染み深い声が響いてきた。

『どうしたフリント!? アイゼン城で手こずっているのか!? 助けがいるのか!?』

応答したバレルから、立て続けに焦った質問が飛んでくる。


「あ、いや……俺だ俺、クリストフだ。今な、想定外の事態が起きててな」


『想定外だと!? どうした、大丈夫か!? 誰か怪我でもしたのかっ!?』

バレルの心配が膨れ上がり、思わず大声になる。


「落ち着けよ……まあ確かにギリギリだったが、なんとか全員、五体満足でぴんぴんしてるぜ」


クリストフは一呼吸置き、後頭部を掻きながら言った。


「それより……あのな。俺たち、あのレイドールを殺しちまったみたいなんだよ……」


――ガラガラガッシャーン!!!


無線機の向こうから、何かが大量に崩れ落ちる凄まじい破壊音が聞こえてきた。


「おーい、大丈夫か? バレル、おーい?」

クリストフが語気を強めて呼びかける。


『お……お前、何を言っているんだ!? レイドールだと!? 正気かッ!?』

バレルが狂乱したように無線機へ怒号を返す。


「俺が知るかよ……なんでこんなことになったか、こっちが一番聞きたいよ」

クリストフは諦めたような口調で吐き捨てた。


かつて魔将軍アイゼンの威容を誇った雪の中の居城は、今や英雄たちの深い混乱と戸惑いの中に包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。