第73話:男たちの誓い、狙撃の構え
城門から息せき切って駆け出してくる少年の姿があった。トリスタンだ。
「トリスタン!」
ティーガーのハッチを開け、身を乗り出したフリントが大きな声を張り上げる。
トリスタンはフリントのもとへ駆け寄ると、ティーガーの重厚な装甲に両手をつき、荒い息を吐きながら肩を上下させた。
「クリストフはどうした!?」
「城の中に……っ! 今、すごく危険な状態なんだ! 早く助けに行かないと!!」
トリスタンが悲痛な声を上げる。
「状況を話せ」
フリントは冷静な眼差しを崩さず、トリスタンに問うた。
「城の中に……レイドールっていう真っ黒で巨大なドラゴンがいたんだ! その灼熱のブレスから、命からがら逃げてきた……! 今もクリストフはあのドラゴンに追われてるんだよ! 早く助けないと殺されちゃう!!」
トリスタンは切実な眼差しで救出を訴えかける。
「ま、待て……クリストフは、何か言ってなかったか!?」
フリントはトリスタンを制するように、言葉を重ねた。
「さ、作戦だって言ってた……」
「作戦!? クリストフが確かに『作戦だ』と言ったんだな!?」
フリントの目が鋭く光る。
「そんなの嘘に決まってるだろ!! 僕を逃がすための方便だよ! クリストフは……あいつはそういう奴なんだ!!」
トリスタンが声を荒らげた瞬間、フリントはティーガーの車体から飛び降りると、トリスタンの両肩を力強く掴み、まっすぐに見つめつめた。
「何してるんだよ! 早く、早く助けに行かないと……!」
トリスタンは溢れんばかりの焦燥感を抱え、城の奥を強く指さす。
「トリスタン、聞け!!」
フリントは肩を掴んだまま、まっすぐにトリスタンの目を見据えた。
「クリストフは……俺たちに『生きろ』と言ったんだ。ここで待てと。それが……あいつの作戦なんだよ!」
「そ、そんな……っ!」
切なさに満ちた視線を向けるトリスタンに、フリントは静かに語りかける。
「落ち着いてくれ、トリスタン……ここは戦場なんだ。わかってくれ。俺だってクリストフを無駄死にさせたくはない……!」
フリントは言葉を噛み締めるように続けた。
「戦場では時に、個人の命の優先度を下げなければならない瞬間がある。だがそれは、崇高な目的を何としてもやり遂げるためだ。俺たちが感情任せに城へ突っ込んで、全員で無駄死にする……それがクリストフの望んだことだと思うか? 頼む……頼むからわかってくれ、トリスタン」
トリスタンの目から、ぽろぽろと涙が溢れ出した。その涙は止まることを知らなかったが、フリントの痛切な言葉を受け止め、静かに、深く頷いた。
「ぼ、僕は何を……何をすればいい……?」
弱々しい声を、トリスタンはようやく絞り出した。
「ティーガーで、城から飛び出してきたドラゴンを叩く。ここで迎撃準備をするんだ。……グラスホッパーを移動させてくれ」
フリントの言葉に頷くと、トリスタンは涙を拭い、グラスホッパーへと乗り込んだ。
一方、フリントはカタナに乗り込むと、城壁のすぐ近くまで機体を操縦して移動させた。
グラスホッパーを移動させ、機体から降りてきたトリスタンがフリントに尋ねる。
「そのカタナは……どうするの?」
「さあな……どうなるかはわからない。だが、カタナのサイコドライブなら、10メートル前後離れていてもクリストフの意思に反応するはずだ。……俺たちは、クリストフを信じて待つしかない」
トリスタンはフリントの力強い言葉に、深く頷いた。
駆け出したフリントは素早くティーガーへ乗り込むと、機体を好条件の位置へと移動させ、主砲の角度を城の出口に向かってぴったりと合わせた。
トリスタンも静かに歩み寄ると、ティーガーの傍らに佇む。
そして大きく深呼吸をして息を整えると、完全に落ち着いた手つきでロングボウに魔導矢を番え、まっすぐに城の方角へ向かって弓を引き絞った。




