第70話:掃討の咆哮、深層への足跡
トリスタンのグラスホッパーが重厚な駆動音を響かせ、激しい雪煙を上げながらバルフィートの群れの中へと切り込んでいく。その三本の腕から繰り出される無数の魔導矢が、敵の陣形を次々と穿っていった。
回り込むように追撃するクリストフのカタナ。そのカタナを包み込むように、ヴァレリアのヴリトラが神秘的な黄金の光を解き放ち、敵の火炎攻撃から完璧に援護する。
さらに最後方からは、地鳴りのような轟音とともにフリントのティーガーによる正確無比な主砲が放たれた。
凄まじい連動攻撃の前には、5台あったバルフィートも形無しだった。瞬く間に大破・炎上し、残るはわずか2台。
そのうちの1台をティーガーの主砲が容赦なく撃ち抜き、盛大な爆炎が巻き起こる。残り1台となったバルフィートは、立ち上る黒煙に隠れるようにして、這う失意のまま城門へ向けて逃走を始めた。
すると、その逃走するバルフィートを取り囲むように、城の中からぞろぞろと無数の兵士たちが整列し始める。
だが、その様子は明らかに異常だった。兵士たちは手にしていた剣や槍を、捨て置くように雪の上に投げ捨てていく。
直後――彼らの肌が禍々しい漆黒へと変色し、指先から鋭い爪が伸びていった。
黒本党の真の姿である「魔物」たちが、正体を現したのだ。
『ま、まずい! ものすごい数だ! 一旦、こっちも横一列に整列しましょう!』
フリントの切迫した声がスピーカーから響き、ティーガーが猛烈な速度で前進してくる。
「クリストフ! フリントの指示通り、一旦下がろう!」
トリスタンが呼びかける。
「なんだあ?」
カタナが急旋回し、グラスホッパーの隣へと滑り込んだ。
『なによ? バックすればいいってこと!?』
ヴリトラが旋回し、チャリオットの隊列の中央へとバックで下がっていく。
フリントの指示通り、4台のチャリオットは綺麗に横一列へ整列した。
「で? どうすんの!?」
ヴァレリアが通信越しに尋ねる。
『よし! 魔導銃を全開で一斉掃射だ!!』
フリントの声と同時に、ティーガーの魔導銃が咆哮を上げ、魔物たちへ向かって火を噴いた。
それを合図に、残る3台の魔導銃、ガトリング砲、ビームブラスターが一斉に火を噴き、夥しい数の弾丸の雨が雪原を掃射していく。
蜂の巣にされた黒本党の魔物たちが次々と倒れていく。しかし、倒れる魔物の影に重なるようにして、後続の魔物たちが死体を踏み越え、一気に距離を詰めてくる。
人間を超えた脅威のスピード――その中の3体が、激しい弾幕をくぐり抜け、チャリオットに向かって高く跳躍した。
トリスタンは片手でガトリング砲を撃ち続けながら、冷静に弓を上空へ向ける。
限界まで引き絞られた魔導矢が解き放たれ、3体の中央に位置する魔物へと直撃した。
――ズガアァァンッ!!
強烈な爆風が上空で巻き起こり、躍りかかってきた3体の魔物は一瞬にして木っ端微塵に吹き飛んだ。
『このまま! 魔導銃を撃ち続けたまま、少しずつ前に進みましょう!』
フリントの掛け声とともに、4台のチャリオットは横一列の美しい陣形を崩すことなく、じりじりと前進しながら魔物たちを蹂躙していく。
圧倒的な火力と鉄壁の連携の前に、黒本党の魔物たちはみるみる数を減らしていき、城の大門付近に到達する頃には、一体残らず全滅していた。
大門のあたりは、かつてデイルのハイエイシェントによって崩壊していたが、黒本党の手によって瓦礫が綺麗に撤去され、修復のために平整された綺麗な石畳が敷き詰められていた。
4台のチャリオットは、エンジン音を低く響かせながら、ゆっくりと城内へと侵入していく。
その時、城の奥に潜んでいた最後のバルフィートが、残された主砲を中央のヴリトラに向けて発射した。
だが、ヴリトラの即座の迎撃によって主砲弾は空中で撃ち落とされる。間髪入れず、お返しとばかりにティーガーの重厚な主砲が火を噴いた。
もはや耐えられるバウンダリー・ハルを残していなかったバルフィートは、その一撃であえなく木っ端微塵に砕け散り、完全に沈黙した。
直後、城壁の陰に潜んでいた残りの魔物たちが一斉に飛び出してきた。
カタナが前進し、2メートルを超える巨大な光の剣――『エクスカリバー』が黄金の光を放って展開される。
カタナは華麗なスピンを繰り返し、城の中庭でエクスカリバーが眩い光の弧を描いた。
襲いかかった魔物たちの胴体が、その圧倒的な光の刃によって次々と分断され、崩れ落ちていく。
……やがて、城の中庭に静寂が訪れた。
4台のチャリオットが中庭の中央まで侵入し、カタナとグラスホッパーが静かに停車する。
クリストフがカタナのコクピットから降り立つと、ティーガーの重厚な装甲ボディをコンコンと軽くノックした。
「城内は、さすがにチャリオットじゃ入れねえな。俺とトリスタンで中を見てくるわ。二人はここで待っててくれ」
クリストフは周囲を見回しながら言葉を続ける。
「まあ……黒本党の残党が残ってるかもしれねえが、チャリオットに乗ってりゃ安全だろ?」
『わかった。俺とヴァレリアはここで待機します。……くれぐれも気をつけてください』
ティーガーの外部スピーカーから、フリントの慎重な応答が聞こえる。クリストフは「任せろ」と言うように、再度コンコンとティーガーのボディを叩いた。
クリストフが城の内部へと向かって歩き出す。グラスホッパーから降りたトリスタンが、背中に弓を背負いながら走って近寄ってきた。
「気をつけろよ、トリスタン。黒本党と手を組んでいるとは予想外だった。あいつらの身体能力とスピードは、人間の域を遥かに超えてる」
「ああ……」
「俺たちの予想を越えてくるぞ」
クリストフが真剣な眼差しで告げると、トリスタンは深く頷いた。
「わかった」
二人は静かに武器を構え、黒本党の不気味な気配が漂う城内へと足を踏み入れた。




