第69話:黄金の盾、破邪の一撃
トリスタンのグラスホッパーがクリストフのカタナの前へと滑り込み、眩い黄金の光の壁を展開して迫り来る熱波を防ぎ止める。
しかし相手は、魔将軍のブレスの出力を模した5台ものバルフィートによる一斉放射。吹き荒れる火炎の圧倒的な質量は、まさに魔将軍5人分に匹敵する恐ろしい熱量であった。
グラスホッパーの背後に身を隠すカタナの魔導障壁は、余波の熱気だけで激しく消耗し、まさに風前の灯火。
だがその猛烈な火炎に反応し、その身から黄金の光を解き放つ者がもう一人いた。
ヴリトラのコクピット内――目立たぬ位置にいながらも、ヴァレリアの全身が神々しい黄金の輝きに満たされていく。
「ここで、あの二人を失うわけにはいかないのよっ!!」
輝きを纏ったヴァレリアは鋭い眼光を走らせ、ハンドルの中心に嵌め込まれた高純度詠唱石を強く握り締めた。
直後、ヴリトラのルーフ前方に鎮座する中央ビームブラスターから、眩い黄金の光線が広範囲へと放射される。
その光はグラスホッパーとカタナの前方を覆い尽くす巨大な盾となり、5台のバルフィートから放たれた極限の火炎放射を、一滴たりとも通さず完全に防ぎ切ってみせた。
「どうよ!? 全自動の補助に頼らない、これが私の本当の実力よ!!」
ヴァレリアがコクピットで快哉の叫びを上げる。
「よくやった、ヴァレリア!! よし、トリスタン行くぞ、俺を援護しろ!」
「おうっ!!」
グラスホッパーがカタナの側面に滑り込み、かばうようにして並走を開始する。
トリスタンはバルフィートの火炎を黄金の光で相殺し続けながら、下の右手一本で手際よくハンドルを操作。シートを低い位置に維持したまま、上の右手と左手で素早くロングボウを引き絞り、魔導矢を番えた。
腕が三本あるとはいえ、戦場の生死を分ける極限状態の中で、まさに閃きのごとき天才的な連動を見せるトリスタン。
彼の手から放たれたのは、バレルがアップグレードを施した、まだ試したことのない最新型の魔導矢であった。
――ズガアァァンッ!!!
「おわあぁぁっ!!?」
矢を解き放ったトリスタン自身が、着弾と同時に巻き起こった桁違いの爆炎と衝撃波に驚き、思わず背をのけぞらせた。
鋼鉄の塊である重量級バルフィートの巨体が、たった一発の魔導矢がもたらした絶大な威力によって宙へわずかに浮き上がり、激しく傾いて叩きつけられる。
「うわあ! な、なんだ!? 何が起こった!?」
「あいつら、一体どんな新兵器を積んでやがるんだ!?」
バルフィートの乗員たちが、車内を狂ったように飛び交う警報音の中で混乱に陥る。
その隙を逃さず、影から飛び出したカタナの刀身から、2メートルを超える巨大な光の刃――『エクスカリバー』が伸長した。カタナはすれ違いざまにバルフィートの側面を切り裂き、バウンダリー・ハルを眩く飛散させながら一気に削り取っていく。
「くそっ! やばい、特殊砲の角度を上げろ! 旋回させろ!」
バルフィートの火炎特殊砲が重々しく回転を始めるが、カタナは可動域を超えた真後ろの完全な死角へと影のように滑り込んでいた。
ドッ、と岩石に乗り上げて跳ね上がるグラスホッパー。
トリスタンは空中でも黄金の光を纏いながら、次なるバルフィートに向かって強力な魔導矢の雨を降らせた。
連続する凄まじい爆発に、バルフィートの車体が悲鳴を上げて激しく揺さぶられる。もはや操縦席は猛烈な縦揺れによって立っていることすらできず、主砲の照準どころか特殊砲の操作すら完全に不可能となっていた。
そこへ――ヴリトラの後方から、大地を破砕するような重低音が轟いた。
ティーガーの放つ、正確無比な主砲の一撃である。
カタナのエクスカリバーによってバウンダリー・ハルをすり減らされていたバルフィートは、ティーガーの砲弾を正面から受け、絶大な爆炎を上げてあえなく大破・沈黙した。
カタナがエンジンを唸らせ、追撃のために隣のバルフィートへと肉薄する。
慌てたバルフィートから至近距離で火炎が撒き散らされるが、間髪入れずヴァレリアの黄金の光がバルフィートの巨体をすっぽりと包み込み、その熱量を完全に無効化した。
昇り立つ凄まじい爆炎と、夜空のように眩く飛び散るバウンダリー・ハル。
降り積もっていた積雪が瞬く間に溶け落ち、蒸発していくほどの激しい戦火が、白銀の街道を赤く染めていた。




