第68話:白銀の砲声、雪上の咆哮
ブラッドラインの街道を抜け、果てしなく続く雪道の中を、4台のチャリオットが重厚なエンジン音を轟かせて駆け抜けていく。
先頭をひた走るカタナのコクピットから、クリストフが通信機越しにヴリトラに乗るヴァレリアへと尋ねた。
「魔将軍アイゼンの居城までは、あとどのくらいだ?」
『実は……もう既に彼らのテリトリーには入っているんだけどね。何かあっさり通り抜けられたわね』
ヴァレリアは通信の向こうで少し首をかしげたが、深く追及することなく言葉を続けた。
『このまま行けば小さな村があるわ……そこを抜けたら、もうすぐよ』
「そうか……この道なりに行けばいいんだな。よし、トリスタン、先を急ごう」
『そうだね……この天候が穏やかなうちに抜けちゃおう。急に吹雪いてきたら厄介だからね』
先頭を行くカタナとグラスホッパーが一段とスピードを上げると、その力強い軌跡を追うようにヴリトラとティーガーもエンジン音を高く響かせて続いた。
◇
その頃、城の奥深く――。
レイドールの眠る豪奢な寝室の扉が突然開かれ、血相を変えた高官が駆け込んできた。
「お休みのところ、大変申し訳ございません! 緊急事態です!」
「ん……? んん……ふわぁぁ……。で、何事だ?」
レイドールは不機嫌そうに眠い目をこすりながら、入り口に立つ高官を睨みつけた。
「て、敵のチャリオット4台が、この城に向かって爆進中との報告が!」
「チャリオット……? 敵にもそのような鉄の乗り物を操る者がいるのか?」
「それが……過去の戦闘記録でもかなりの強敵と報告されている連中でして……! し、城を捨てて一旦退避なされますか!?」
「バカを言え。せっかく転がり込んできたこの拠点を、戦いもせずに手放すなど冗談ではない。……よし」
レイドールは重い腰を上げてベッドから起き上がると、クローゼットの前へ歩み寄って手早く身なりを整えた。
「すぐに城にある全台のチャリオットを出撃させろ。この拠点は絶対に死守する。行け!」
「はっ、仰せの通りに……!」
高官は深々と頭を下げると、弾かれたように寝室を飛び出していった。
◇
ドオォォーン――!!
突如として雪山全体を揺らすような壮絶な砲声が数発、激しく響き渡った。
ティーガーの放った怒涛の主砲によって、アイゼン城の手前に聳え立つ関所が一瞬で粉砕された音であった。
飛び散る凄惨な瓦礫を踏みしめながら、カタナとグラスホッパー、それに続いてヴリトラとティーガーが無傷で雪原を進んでいく。
すると前方の雪煙の奥から、5台の巨大な重装甲車――95mm魔導榴弾砲を搭載した『バルフィート』の隊列が牙を剥いて姿を現した。
「ついに現れやがったな……!」
クリストフの眼光が鋭く研ぎ澄まされる。
だが、ティーガーのハッチから身を出していたフリントが、すぐさま違和感を口にした。
「あれ……? おかしいぞ……。『クイーンシャーク』がいない……! なんで主力戦車が出てこないんだ……?」
思惑が交錯する間もなく、5台のバルフィートの主砲が一斉に火を噴いた。
迫り来る絶大なる砲弾の雨――しかし直後、ヴリトラのビームブラスターが白銀の世界を高速で一閃する。
ドカァンッ! ドドォンッ!
空中で捉えられたバルフィートの95mm魔導榴弾砲は、一発として着弾することなく、眩い爆炎とともに撃ち落とされた。
「ふん! 今度はこっちの番だ!!」
クリストフのカタナが猛烈な加速を見せ、鋭い矢となってバルフィートの隊列へと一気に肉薄する。
『馬鹿め! この前とは違うんだよ!!』
バルフィートを操縦する黒本党の兵士が狂気交じりに吠えた。瞬間、バルフィートの特殊砲身から、大気を灼熱に変える恐ろしい火炎の奔流が放出された。
「うわわわぁっ!?」
雪道に眩しいバウンダリー・ハル(魔導障壁の光)を撒き散らしながら、カタナは限界ギリギリの急旋回を敢行。間一髪で火炎の直撃を回避する。
しかし直後、後続のトリスタンのグラスホッパーが、逃げ場のない火炎の奔流を正面から丸呑みにされた。
「トリスタン!!」
絶叫が響く――だが次の瞬間、炎の中から現れたグラスホッパーとトリスタンの身体が、神々しいまでの『黄金の光』に包まれていた。
絶大な灼熱の火炎は、その眩い光の壁に阻まれ、何一つ傷をつけることなく霧散していく。
「これは……!?」
ハンドルを握るトリスタン自身も、思いがけない現象に驚愕の表情を浮かべた。
それを見たフリントが、ティーガーのハッチから身を乗り出して叫ぶ。
「わかった! 奴ら、魔将軍のブレス(ブレス攻撃の魔力)を詠唱石に封じることに成功したんだ! あの強力な火炎特殊砲を新しく開発したんだよ! みんな、気をつけて!!」
敵の予期せぬ強化と、トリスタンに宿る謎の黄金の光――。
白銀に染まる静寂の街道は、一瞬にして混迷と激闘の渦の中へと呑み込まれていった。




