第67話:鋼の研鑚、不滅の矢筒
プラウデンの町では、バルドが手際よく指示を出すたくさんのポロットたちによって、着々と復興作業が進められていた。
町の一角に佇む鋼鉄の要塞の中庭では、クリストフとトリスタンが汗を流しながら愚直に剣を振る姿があった。
「チャリオットだけに頼るわけにはいかないからな。最後に一番頼れるのは、己の肉体と腕前だけだ」
熱心に素振りを繰り返すクリストフの姿を見つめ、トリスタンがふと声をかける。
「でもさ……あのとき最初から武器を持ってたら、クリストフならあのマルコさんにも勝てたんじゃないの?」
「いや、全くそんな感じはしなかったな。世の中には上には上がいるもんだぜ」
クリストフは自嘲気味に笑うと、剣を収めた。
「そうだ……僕にもっと弓の射方を教えてよ。これから戦いの中で僕の弓の重要度も上がりそうだし……今のうちに武器の精度を上げておきたいんだ」
「おう、いいぜ。って言っても、お前にはほとんど教えることもないけどな。……強いて言えば、呼吸法とリズムくらいかな」
「呼吸法と、リズム……?」
「ああ。実はこれがかなり重要なんだよ。特に生きるか死ぬかの極限の戦場ではな」
クリストフは布で手際よく汗を拭き、乱れた呼吸をすっと整えてみせた。「ただ必死に狙うだけじゃダメな時がある。冷静に周囲の状況が見えてないとダメな時がな」
「へえ、そうなんだ……」
トリスタンも同じように汗を拭い、深く深く息を吐き出してみた。
◇
一方、巨大なガレージの中では、バレルとフリントがチャリオットの整備に没頭していた。
「よし……これで、全車に永久機関付きの特製魔法電池への交換が完了したぞ」
バレルは満足そうに工具を机に置くと、作業中のフリントへと声をかける。
「そうですね……あとは持ってきていただいた、アンカープロセッサーの微調整とクリスタルの出力アップ作業と……」
フリントは愛車ティーガーのハッチを開け放ち、汗だくになりながら器用に工具を動かしていた。
「お前……本当にすごいな。俺がこの町に来るたびに、どんどん新しい技術を覚えてやがる」
「いえいえ……バレルさんには遠く及びませんよ。それに、超多忙なバレルさんばかりに甘えて頼っているわけにもいきませんからね」
フリントの頼もしい言葉に、バレルは満面の笑みを浮かべた。そして荷物が積み上げられた傍らから、矢がたった一本だけ番えられた小さな矢筒を取り出す。
「んじゃ、整備の続きを頼んだぞ。俺はちょっとトリスタンのところへ行ってくるわ」
「はい! こっちは責任を持って進めておきます!」
バレルはティーガーの重厚なボディをコンコンと軽快に叩くと、ガレージを後にした。
◇
「おーい! トリスタン!」
バレルは中庭で汗を流すトリスタンを見つけると、大きく手を振った。
「なんですか、バレルさん?」
トリスタンがすぐさま駆け寄ってくる。
「お前にこれを手渡しておこうと思ってな」
バレルは手にした小さな矢筒を、トリスタンへ差し出した。
「これ……矢の補充ですか?」
「違うよ、アップグレードだ」
「アップグレード……?」
「チャリオットの『エングラムゲート』の魔導技術を応用したんだ。矢の最大収容本数自体は300本に減っちゃいるが、5時間ごとにエングラムゲートの再構築が完了して、矢の本数が勝手に300本に戻る仕組みだ」
「えっ……あの強力な魔導矢が、実質無限に撃てるんですか!?」
トリスタンは目を見開き、その革新的な技術に驚愕の声を上げた。
「まあ、5時間以内に300本を全弾使い切らなければな。それにエングラムゲートを介したおかげで、前の魔導矢よりもさらに破壊力が跳ね上がってるぜ」
「すごいですね……! さっきクリストフに弓の心得を教わったばかりなので、最高のタイミングです。ありがとうございます!」
トリストンの素直な喜びように、バレルは腕組みをしながら満足そうに頷いた。
「おう、バレル。今夜発つのか?」
タオルで汗を拭きながら、クリストフが歩み寄ってくる。
「ああ、俺は一旦本隊へ引き上げるよ。……魔将軍アイゼン討伐の準備、順調に整ってるじゃねえか」
「まあな。俺たちも明日あたり、ペッツパーク連邦へ向けて出発する予定だ」
「そうか……くれぐれも気をつけろよ」
バレルはポンとクリストフの腹を力強く叩いた。「この前のランドリエの戦いで、こちらの戦術や手持ちの札はある程度バレてる。向こうだって確実に何らかの対策を打ってくるはずだぜ?」
「まあ、俺たちもあの時のまま足踏みしてるわけじゃないからな。任せておけよ」
「ふふふ、期待してるぜ」
バレルはクリストフの肩へ親しみを込めてポンと手を置いた。
魔将軍との決戦の時へ向けて――。
プラウデンの鋼鉄の要塞では、それぞれの信頼と確かな研鑚のもと、静かなる闘志がふつふつと燃え上がっていた。




