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チャリオット  作者: さだきち
第十四章:深雪の蠢動(しゅんどう)、蹂躙の鉄騎

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第66話:深雪の城閣、穿たれる楔


突然の訪問者たちによって、圧倒的な強さを誇った主・魔将軍アイゼンを消し去られ、完全な混乱の極みに叩き落とされた白銀の城。

しかし、その冒険者たちが足早に立ち去ってから数日が過ぎた頃――。


城の大門は無惨にも崩れ去り、跡形もなく破壊されてはいたが、城そのものの重厚な威容は未だ失われてはいなかった。門の前に降り積もる雪の中、整列した兵士たちが、緊張した面持ちで『何者か』を迎え入れようとしていた。


やがて、白銀の街道の奥から、高貴な仕立ての衣服に身を包んだ一人の老紳士が姿を現す。彼は複数の従者を引き連れ、雪を踏みしめながらゆっくりと歩み寄ってきた。


城の高官が、慌ただしく老紳士のもとへと近づく。その手には、不気味な気配を放つ一冊の『黒本』がしっかりと抱えられていた。


「よ、ようこそおいでくださいました……! こんな雪深い街道の奥深くまで、長旅さぞ大変だったことでしょう」

高官は老紳士の前で恭しく、深く深く頭を下げた。


老紳士――黒本党の幹部レイドールは、その細めた目をギラリと鋭く光らせ、静かに問いかける。

「それで? アイゼンは黒本党と手を組むよう、説得できたのだろうな?」


「それが……実は……」


「なんだ?」

言い淀む高官に対し、レイドールは逃げ場を塞ぐように一歩詰め寄り、低く重い声で問い質した。


「あ、あのカイエンという戦士と、信じがたい魔力を持つ魔法使いが突如現れまして……!」


「ほう……カイエンが。……それで?」


「ま、魔将軍様が……討たれてしまいました……!」


その報告を聞いた瞬間――。

静まり返っていた雪山に、雷鳴のようなレイドールの高笑いが轟き渡った。


「ハハハハハハッ! 倒されただと!? あのアイゼンが……ハハハッ!」

腹を抱えて笑った後、レイドールはふっと笑みを消し、冷酷な眼光を走らせた。

「……それで? そのカイエンたちはどうした?」


「ど、どういう意図かは分かりかねますが……アイゼン様を倒した後、城には留まらずそのまま立ち去り、今や姿はありません」


「なるほどな……」

レイドールは満足そうに呟くと、後ろの従者たちに顎で促し、軽妙な足取りで破壊された大門をくぐり、城の中へと進んでいった。


「レ……レイドール様! この後、一体どうされるおつもりで……!?」

急いで後を追ってきた高官が、不安げに尋ねる。


「どうもこうもないだろう?」

レイドールは口元に不敵な微笑を浮かべた。

「そもそも……ここは今後の我が『黒本党』の活動拠点として、喉から手が出るほど欲しかった場所なのだからな。だからこそ、お前にアイゼンを唆(そそのか)すよう作戦を授けたというのに……ふん、思わぬ棚から牡丹餅が転がり込んできたものだ」


「はっ……ははーっ……!」

高官は己の無能を咎められた心地がして、気まずそうに再び深く頭を下げた。


「ところで……あの『チャリオット』という新兵器は、まだ使える状態で残っているのか?」


「は! この城は主である魔将軍を失いましたので……ブランゼル王国のプロトコルに従い、研究者や技術者たちは速やかに別の拠点へと撤収していきました。ですが、この城に残されたチャリオット本体や交換用パーツなどは、すべて稼働可能な状態で放置されております」


「ほう。……それで、それを操縦できる者は残っているのか?」


「それは問題ございません。我が軍の残党の中にも操縦訓練を受けた者がおります。今すぐにでも出撃できる状態に整えられております」


「よしよし……それは良いことだ」


無人の回廊を抜け、玉座の間に辿り着いたレイドールは、つい先日までアイゼンが座していた重厚な玉座へ、我が物顔で深く腰を下ろした。


「ここを黒本党の新たな拠点とする。……異存はないな?」

レイドールは肘掛けに頬杖をつき、高官へ鋭い威圧の眼光を向けた。


「ア、アイゼン様を失った今、この城においてレイドール様に逆らえる者など一人もおりません! ……ただ、ブランゼル王国には未だ他の魔将軍たちが残されております。もしやこの城を奪還しに押し寄せてきた場合、いかに処せば……?」


「魔将軍か……。確かに真面目に相手をするのは厄介だが、こちらにはヴァルガス様がついている。いざとなれば、あの方の絶大な力をお借りすれば済む話だ」

レイドールはハナから意に介さない様子で一蹴すると、広く豪華な玉座の間を見回した。

「ところで、この城の戦力はどれほどの被害を受けたのだ?」


「多数の兵を失ってはおりますが……損失は全体の半数にも満ちません。城の大門付近こそ大きく損傷しておりますが、それ以外の施設はほぼ無傷です。結果として、魔将軍様の損失を除けば、戦力の大半を温存できている状況にございます」


「そうか。ならばすぐさま城の修繕に取りかかれ。兵士を再配備し、チャリオットをいつでも実戦投入できるよう準備を整えておけ」


「ははっ!」

高官がすぐに周囲の控えていた兵士たちへ目配せをすると、城の残兵たちが慌ただしく動き始めた。


指示を出し終えたレイドールは、退屈そうに玉座から立ち上がり、玉座の間を後にしようと歩き出す。


「あ……あの、レイドール様! どちらへ……!?」

高官が慌てて声をかける。


「寝室はどちらだ?」


「え……? あ、この出口を出て左に曲がった先にございますが……」


「そうか。私は長旅で心底疲れた。先に休ませてもらうよ。あとの雑務は抜かりなくやっておけ」


「は……はい! かしこまりました!」

高官は深々と頭を下げ、その背中を見送った。


伝説の四人が立ち去り、主を失った白銀の城。

しかし静寂が訪れる間もなく、黒本党という新たな悪意の芽が根を張り、雪嵐の中で怪しく、蠢き始めていた。


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