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チャリオット  作者: さだきち
第十三章:紅蓮の盟約、因果を裁く炎

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第64話:因果を裁く紅炎


雪の中にそびえたつ、巨大な城の門。

その重厚な扉が、地響きのような低音を轟かせてゆっくりと開いていった。


開かれた門の奥から、屈強な兵士たちを従えた魔将軍アイゼンが悠然と姿を現す。彼は冷酷な眼光を走らせると、腰の剣を静かに引き抜いた。


「ニュークリアブラスト!」

デイルの鋭いコールの声が響く。


『ニュークリアブラスト!』

ほぼ同時に、エルムの持つ剣からアルドの思念が呪文を重ねて叫んだ。


天地を揺るがす究極呪文の二連撃。膨大な魔力の奔流が城門の前を覆い尽くし、押し寄せていた兵士たちのほとんどが一瞬にして粒子となって吹き飛んだ。

しかし――。


その絶大な破壊を正面から浴びたはずのアイゼンは、鎧に擦り傷ひとつ負うこともなく、何事もなかったかのように剣を手に歩を進めてくる。


その刹那、気配を完全に断って音もなく忍び寄っていたサヤが、一瞬の隙を突いて跳躍した。空中で刀を構え、アイゼンへ鋭い壱の太刀で斬りかかる。


――キイィン!


甲高い硬質音が響き渡る。

「え!? なんで……!?」

信じられないといった驚愕の表情を浮かべるサヤ。絶対の必殺を誇る彼女の一撃が、アイゼンの剣によって易々と受け止められていた。


「くそっ! これはどうだ!」

即座に連動したカイエンが、実体と見分けのつかない複数の残像を作り出し、一足で間合いを詰めてアイゼンへと襲いかかる。


――キイィン!


だが、アイゼンは複雑な残像の幻惑に一切惑わされることなく、正確にカイエンの真の刀身を止めてみせた。


「ほう……。この魔力の薄い世界にも、因果律を操れる者がいるとはな。……だが、まだその真髄を理解してはおらぬようだ」


「因果律を……操る……!?」

刃を交えたまま、カイエンがアイゼンの言葉に鋭く反応する。


「ふふふ……そうだ。おおかた『運命を読む』……その程度で理解が止まっているのであろう。精霊の世界ではな、『選択する』という行為そのものが運命となるのだよ」


吐き捨てるように言い放つと、アイゼンは手に持った剣を横一文字に振り抜いた。


ガキィンッ!!


カイエンはかろうじてその刃を自分の刀で受け止めたものの、溢れ出た絶大な衝撃波によって激しく後ろへと吹き飛ばされた。

雪の上に叩きつけられ、這いつくばりながら、カイエンは乱れた呼吸で低く呟く。

「い……壱の太刀……!? いや、違う。これはもっと凄まじい力を感じる……。何か、この世の理(ことわり)を超えたものか……!」


「サヤ! そこを離れろ! 魔将軍はデイルに任せるんだ! それが、最初からの作戦だ!」

離れた位置からエルムの必死の叫びが飛ぶ。


その声にはっと我に返ったサヤは、咄嗟に目の前の空間を刀で切り裂くと、生じた裂け目の中へと飛び込んで姿を消した。


アイゼンはその空間移動を横目で見やりながら、余裕の笑みを浮かべて呟く。

「いろいろな芸を持っているな。見ていて飽きないぞ……。これは楽しめそうだ」


「ふふ、ではこれはどうだ?」


デイルが両手を大きく振り上げると、一瞬にして周囲の光が奪われ、辺りは不気味な薄暗い闇に包まれた。デイルの双眸が、青白く眩く輝き始める。


「ファイヤーウォール!」


デイルが呪文の名を叫んだ瞬間、アイゼンの目の前に地を割って巨大な炎の壁が立ちはだかった。


「ふん、こんなもの――な、なに!? あ……熱さを感じるだと……!?」

アイゼンが嘲笑いながらその炎の壁に手をかざした瞬間、彼の手から肉の焦げる嫌な臭いが立ち上った。


「どうだ? エルフ族の中でも、俺とアルウェンしか使えない……究極の秘技だ」

デイルが静かに告げる。


「ぐぬぬぬ……甘いぞ! この程度の魔力で私に勝てると思うな!」

アイゼンは自らの身を焦がしながらも、驚異的な執念でじわじわと炎の壁を押し割り、前へと進み出てくる。


「まあな……。それはただの足止めだ」


「なんだと!?」

アイゼンが焦燥と驚きを混じらせた表情を浮かべた。


デイルは再度手を振り上げ、天を見上げると、周囲は突如として異様な静寂に包まれた。

そして、この世のものとは思えない神聖で重厚な声で、ゆっくりと太古の呪文を唱え始めた。


「――我は四元の契り、不滅(ふめつ)の紅炎(こうえん)」


デイルの足元から、眩いばかりの紅蓮の魔法陣が何重にも重なり合いながら巨大化していく。


「――火炎の精霊に選ばれし盟約の執行者なり」


世界の理(ことわり)そのものが書き換えられていくかのような、圧倒的な神聖さと絶望的なまでの威圧感が場を支配する。金色の光とはまた異なる、世界を根底から焼却するための絶対的な熱量。


「――全ての存在を超える、絶対的な姿を見せよ」


空間が歪み、上空の暗雲が渦を巻いて真っ赤に焼き尽くされていく。


「――地獄より来たれ、または天界より降りたて、全ての頂点である力を与えよ」


「お、やめろ……! 止めろぉぉっ!!」

本能的な恐怖と危機感を爆発させたアイゼンが、超人的な踏み込みでデイルへと肉薄し、高純度の魔力を乗せた必殺の一撃を振り下ろす。

しかし、その攻撃はデイルの周囲に展開された不可視の絶対防御の壁に阻まれ、キンッという甲高い音と共に弾き飛ばされた。


デイルは一切視線を揺らさず、最後の言葉を解き放った。


「――精霊の力をここに示し、今こそ全てを超える炎で、ただ一つを焼き尽くせ」


「――『プロメテウス・インフェルノ』!!」


その瞬間、天と地が逆転したかのような光景が広がった。

頭上の空から降り注ぐ天の炎と、地の底から噴き上がる地獄の灼熱が交差し、巨塔のような巨大な一本の紅蓮の柱となって魔将軍アイゼンを包み込んだ。


「ぐ、があぁぁぁぁぁぁぁっ!???」


自誇した無敵の防御も、高純度の超常の力も、その絶対的な炎の前には何の意味もなさなかった。理を超越した炎は、アイゼンの肉体、鎧、そして掲げた剣までも一瞬で原子レベルへと分解し、焼き尽くしていく。


数秒後――炎の柱が消え去った後には、城の大門ごと跡形もなく消失し、ただドロドロに溶けた岩盤と、何も残されていない白銀の空白だけが広がっていた。


「ふぅ……」


デイルは静かに手を下ろすと、何事もなかったかのように息を吐いた。

かつて世界を救った『四元の契り(フォース・エレメント)』の一角、炎の精霊に選ばれしエルフの真の力が、そこに示された瞬間だった。


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