第63話:疾風怒濤の進撃
雪が深く降り積もる街道。
その視界の先、遠くからでも一目でそれと分かる巨大な城郭が、白銀の世界のなかに異様な存在感を放ち始めていた。
城へと続く一本道、その手前に設置された関所のような門を目指し、四人の冒険者が迷いのない足取りで進んでいく。
「ふふ、エルム……。なんでさっきから、そんなに私の顔ばかり見てるの?」
歩調を合わせるサヤが、不意に愛おしそうに語りかけた。
「えっ? 分かるのかい……? はは、サヤには敵わないなあ」
エルムは苦笑いを浮かべ、隣の少女へと優しい眼差しを向ける。
「……正直に言うとね。これが僕たちの最期になるかもしれないと思ってさ。だから、君の姿をしっかりと目に焼き付けておこうと思ったんだ……」
「エルム……」
「君がこうして来てくれて、本当はすごく感謝してる。でも……やっぱり複雑な気持ちなんだ。アルドと、もう一人の僕(戦士の魂)が僕を守ってくれている。でもそれ以上に、彼らが僕の大切なサヤを守ってくれると信じているんだ。だから……もし本当に危なくなったら、君だけでも逃げ延び――」
言いかけたその瞬間、サヤの雰囲気が一変した。可憐な少女の気配が霧散し、一瞬で鋭利な剣士の顔つきへと切り替わる。
「エルム! 剣を握って!」
「えっ……!?」
「ふふ、素直に彼女に従った方がいいと思うぞ?」
背後でデイルが不敵な笑みを浮かべ、顎で前方の高台を指し示した。
そこには、関所の櫓からこちらへ狙いを定め、弓を引き絞る屈強な二人の兵士の姿があった。
――ヒュッ、ヒュンッ!
その刹那、空気を切り裂いて二本の矢が必殺の軌道で飛来する。
しかし矢が刺さるより早く、サヤが滑らかな動作で前に飛び出した。彼女が空間を切り裂くように刀を閃かせると、その歪んだ空間の裂け目へと、飛来した二本の矢が吸い込まれるように消えていく。
次の瞬間、姿を消したはずの矢が、櫓の兵士たちの目と鼻の先で空間から飛び出した。
自らの放った矢がそのままの勢いで逆流し、一人の兵士の肩を、もう一人の腹を深く射抜く。
「ば……馬鹿なぁぁっ!?」
絶叫が雪の街道に響き渡る。
しかし間髪入れず、デイルが関所に向けてそっと手を差し向けた。瞬間、兵士の一人を巨大な火柱が包み込み、叫び声ごと一瞬で焼き尽くす。
さらに間髪を容れず、乾いた一発の重厚な銃声が激しく轟いた。
カイエンが放った大口径の弾丸が、残ったもう一人の脳天を正確に貫き、あっという間に二人の兵士は白銀の雪へと沈んでいった。
「おい、アルド……。いま、どういう状況だ?」
抜刀したエルムの脳裏に、アルドの強い思念が響き渡る。
『いま、始まったところさ。久しぶりの城攻めだな。……どうする? 逃げるか?』
「馬鹿言うなよ。やっと俺の出番だろ? 思う存分暴れさせてもらうぜ!」
エルムの表情から迷いが消え、たくましい戦士の顔へと変わる。
襲い来る第一陣を瞬殺した四人の足取りは、全く勢いを落とすことなく、雪の街道に深く確かな足跡を刻み続けていく。
その先には、騒ぎを聞きつけて湧き出してきた数十名もの屈強な兵士たちの軍勢が、壁となって立ちふさがった。
◇
城の内部――。
真っ青な形相をした高官が、玉座の間へとなだれ込み、魔将軍アイゼンの下に膝をついた。
「た……大変です! 何者かがこの城に攻め込んできており……! それが、あまりにも恐ろしい強さで……!」
玉座に深々と腰掛けていたアイゼンは、不快そうに眉をひそめた。
「落ち着け。……それで、敵の軍勢は何人程度だ?」
「よ……四人ほどです……!」
「四人だと!?」
アイゼンは怒りの形相で高官を鋭く睨みつけた。「たった四人だけで、この我が城に正面から攻め入ってきたというのか……!?」
「は、はい……!」
「まあいい……。兵を集めろ」
「チャ、チャリオット(新兵器)は、どうなされます……!?」
「奴らはそのチャリオットに乗って来ているのか?」
「い、いえ……徒歩で乗り込み、呪文を唱え、銃を撃っているようですが……」
「ハッ、くだらん。そんな旧時代の攻撃など、この私には一切通用せぬ。さっさと片付けるぞ」
魔将軍アイゼンは、冷酷な眼光を爛々と光らせて玉座から立ち上がると、重厚な歩調で大門へと向かって歩き出した。
城の大門前では、屈強な精鋭たちが陣を組み、圧倒的な威容で魔将軍アイゼンを出迎える。
しかし、その門の目と鼻の先には――すでに、四人の冒険者の姿があった。
跡形もなく消し炭となった黒焦げの遺体。
四肢を凄惨に切り裂かれた肉塊の山。
門に至るまでの街道には、押し寄せた軍勢が瞬く間に全滅したことを物語る、死屍累々の死体の山が築かれていた。




