第6話:火花散る邂逅
照りつける太陽が肌を焼き、舞い上がる土埃が喉を詰まらせる。ここは魔将軍たちが各地から集めてきた奴隷たちが集う、巨大な採掘場。
地の底まで続くような深い穴に潜っては壁を削り、重い土砂を運び出し、その中から魔力の源となる「詠唱石」の原石を選り分ける。それが、ここに堕ちた者たちに課せられた終わりのない義務だった。
環境は過酷を極めた。ブランゼル王国の屈強な守衛たちが目を光らせ、動きが鈍った者には容赦なく鞭がしなる。
「動け! 役立たずどもが!」
乾燥した空気に、肉を打つ嫌な音が響く。
体力が尽きた者や年老いた者から次々に倒れ、物言わぬ肉塊となっていく。彼らの遺体は、自ら掘らされた大きな穴へと無造作に投げ捨てられた。そこからは常に異様な腐敗臭が漂い、死が隣り合わせであることを嫌でも分からせてくる。
やがて訪れるわずかな休息。奴隷たちに与えられるのは、食事とは名ばかりの粗末な残飯だった。
14歳のトリスタンは、煤にまみれた器を手に、配給の長い列に並んでいた。
「次! 早くしろ! ぐずぐずするな!」
給仕係が不機嫌な怒号と共に、トリスタンの器に無造作な中身を放り込む。
入っていたのは、小ぶりなジャガイモが三つと、わずかな塩水のような煮汁。それが一日を生き延びるための全財産だった。トリスタンは零さないよう大切に器を持ち、腰を下ろせる場所を探して歩き出す。
――ドン!
不意に、背後から強い衝撃が走った。
振り返ると、顔に深い傷のあるいかつい男が、嘲笑を浮かべて立っていた。
「あ……!」
衝撃で器が傾き、貴重なジャガイモが脇の溝へと転がっていく。トリスタンは咄嗟に飛びついたが、何とか拾えたのは一つだけ。残りの二つは溝の奥深くへと消え、二度と取れなくなった。
トリスタンが膝をついたまま男を鋭く睨みつけると、男は鼻で笑いながら吐き捨てた。
「腕が三本とか、気味悪いんだよバーカ。目障りなんだよ」
男は自分の取り分を持って、悠々と去っていった。
トリスタンは言葉を飲み込み、手元に残った一つのジャガイモについた砂を、震える指で丁寧に拭った。この絶望的な世界では、怒ることさえ体力を消耗させる無駄な行為でしかない。
独り、石に腰掛けて泥の味のするジャガイモを頬張っていると、隣に気配を感じた。
「……やるよ」
不意に声をかけられ、器の中にゴロリとジャガイモが一つ投げ入れられた。見ると、そこには自分と同じ年頃の少年が座っていた。
「え? ……あ、ありがとう」
「まあ、気にすんなよ」
少年は気さくに笑うと、自分の分のジャガイモをむしゃむしゃと食べ始めた。
トリスタンは戸惑いながら、思わず問いかけていた。
「……君は、僕のことが気持ち悪くないの?」
奴隷たちの中には、異形の三本腕を持つトリスタンを露骨に避け、気味悪がる者が少なくなかった。母を失い、一人で地獄へ放り込まれた14歳の少年には、その視線は肉体の疲労以上に精神を削るものだった。
しかし、その少年はトリスタンの問いに、快活に笑って答えた。
「右腕が二本なんて、最高じゃんか。どっちも利き腕なんだろ? むしろ羨ましいよ、俺なんか手が足りなくて困ることばっかりだぜ」
その言葉に、トリスタンの胸の奥で何かが静かに解ける音がした。
「名前は?」
「俺はフリントって言うんだ。君は?」
「僕は、トリスタン。よろしくな」
トリスタンは、迷いながらも「上の右手」を差し出した。
「えーと……どっちの手がいいかな?」
フリントがおどけて見せると、二人は顔を見合わせ、この場所に来て初めての小さな笑い声を漏らした。
フリントは差し出された上の右手を、汚れた手でしっかりと握り締めた。
暗く、希望の欠片もない採掘場。
だがトリスタンは、この瞬間にひとすじの光が差し込んだような、そんな確かな予感を感じていた。




