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チャリオット  作者: さだきち
第九章:禁忌の遺産と超越の霊体

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第45話:鋼鉄の揺り籠、新生ヴリトラ発進


プラウデンの町にそびえ立つ鋼鉄の要塞に、新しい朝が訪れた。

まだ朝霧が立ち込める早朝、魔法教会の巨大な飛空艇が静かに浮上し、大空へと旅立っていくのを、フリント、トリスタン、クリストフ、ヴァレリアの四人は見送った。


それから数時間。施設内の入念な整理と掃除を終わらせ、新生ヴリトラの最終調整を済ませた四人は、少し遅めの朝食を食堂でとっていた。

白熱球の照明が明るく照らす食堂内は、空調によって実に快適な温度に保たれている。


「いやあ、魔力があるだけで、人間の生活ってのはこんなにも快適になるもんなんだな」

クリストフが大きなパンを器用にちぎり、温かいスープにたっぷりと浸しながら感心したように呟いた。


「そうね。あのバレルが置いていった魔導冷蔵庫のおかげで、あれだけあった食材も全く傷まないし。文明の利器様々だわ」

ヴァレリアは優雅な手つきで、ナイフとフォークを使い目玉焼きとハムを口に運ぶ。


そんな中、フリントの席の皿はすでに空っぽになっていた。

「フリント! もう食べちゃったの?」

トリスタンがスープのカップを片手に、目を丸くして驚く。


「いや、みんなはゆっくり食べてていいよ。僕は一足先に、ヴリトラの最終チェックをやっておくから」

フリントはそう言って椅子から立ち上がり、爽やかに微笑んだ。

「食べ終わったら、みんな中央ホールに来てね」

そう言い残すと、フリントは足早に食堂を出ていった。


やがて、食事を終えて身支度を整えた三人が、広い中央ホールへと入ってくる。そこには、鈍い銀色の輝きを放つ、巨大なスクエア形状の装甲車――ヴリトラ-APCが静かに鎮座していた。


「さて……ヴリトラの調子はどうだい?」

大剣を背負い、旅の装備を万端に整えたクリストフが、頼もしげにフリントに話しかけた。


「あ、みんな。待ってたよ。……いや、実は以前の仕様からだいぶ中身を変えてしまったので、まずはそこを説明させてください」


「変更?」クリストフが眉を上げる。


「はい、まずは……バックドア(後部扉)を完全に埋めました。これで、後ろから物理的に侵入される心配はなくなりました」

フリントがヴリトラの背面にまわり、平手で装甲板を叩いてみせる。確かにその背面は、一枚の強固な金属板が滑らかな曲面を描いており、かつてあったはずの扉の継ぎ目は完全に消失していた。


「おいおい、後ろを完全に潰しちまって、一体どうやって荷物の出し入れや乗り降りをすんだよ……?」

クリストフが顎に手を当てて首を傾げると、フリントは不敵に笑い、車両側面の大きなスライドドアをガラリと全開にした。


「中のレイアウトも、大幅に変えてあるんです」


三人が開かれたスライドドアから中を覗き込む。

驚いたことに、運転席の後ろの空間には、二人乗りの短い横向きベンチシートがポツンと一つ設置されているだけで、そのすぐ背後は分厚い大きな扉によって完全に遮断されていた。まるで、運転区画と後ろの空間を隔てる「2ルーム仕様」のような構造だ。


「フリント、この真ん中の扉はどこに繋がっているんだい?」トリスタンが尋ねる。


「まあ、実際に中に入ってみてください」


フリントに促されるまま、クリストフを先頭に三人はその扉を開け、車両の後部へと足を踏み入れた。

――その瞬間、三人は我が目を疑い、言葉を失った。


外見からは想像もつかないほど、広大で贅沢な空間がそこに広がっていたのだ。

通路の片側には、なんと5つの独立した扉が整然と並んでいる。その扉を開けると、中にはそれぞれ、大人一人がゆったりと横になれる大きなベッドと、ベッドに腰掛けた状態で使える機能的なテーブルが完璧に設置されていた。


さらに共有部となる通路には、無限の魔力によっていつでも冷たい水が使え、排水も完備されたシンク、そして魔導コンロが備え付けられた見事なキッチンカウンターがある。

その横には大容量の冷蔵庫が鎮座し、さらには清潔なトイレルームと、旅の疲れを癒やすためのシャワールームまで独立して設置されていた。

車内の至る所にあるカーエアコンの吹き出し口からは、不滅の魔導回路がもたらす無限の魔力によって、極上の冷気が静かに吹き出している。


「こ……この空間は一体何なのよ!?」

滅多に感情を崩さないヴァレリアが、驚愕に目を見開いて声を震わせた。外から見た車体のサイズと、中の広さが明らかに肉眼の計算と合っていない。


「『霊工技術』によって空間を拡張した、居住スペース(キャビン)です」

フリントは誇らしげに目を細めた。

「バレルさんが、僕の要望を聞いて即席で作ってくれた術式なんですよ。でも、即席の割にはもの凄く良い出来ですよねえ。これなら、前線での長期滞在も余裕です。仕様としては、9人乗車、5人就寝を想定しています」


「信じられん……これじゃあ動く高級ホテルじゃねえか……」

クリストフが唖然として周囲を見回す中、ヴァレリアはうっとりとした目でベッドの感触を確かめ、思わず本音を漏らした。

「何よこれ……最高じゃない。私も一台欲しいわ……」


「ねえ、フリント! 僕、助手席に乗りたいな!」

トリスタンが目を輝かせて前方を指さした。


「おう、いいぞトリスタン。特等席だ、行ってきな」

クリストフが豪快に笑って頷く。


「じゃあ、インターフェースの使いかたを教えるよ」

フリントが手際よく運転席に乗り込み、トリスタンがその隣の助手席に乗り込んだ。フリントは助手席の前にせり出した、無骨なコンソールを指さす。


「トリスタン、そこに専用のレバーとボタンがあるだろ? それを使って、ヴリトラの屋根に新設した『15mm魔導銃』を、座ったまま遠隔で全方位に撃てるんだ。……いざという時の迎撃は頼んだぞ、相棒!」


トリスタンはレバーを両手でしっかりと握りしめ、フリントを見て嬉しそうに微笑んだ。

「うん! 任せて、フリント!」


「よし! それじゃあ野郎ども、出発といくか!」

クリストフがスライドドアから乗り込み、運転席のすぐ後ろにある横向きのベンチシートに腰掛けた。

「俺とヴァレリアは、この席でいいか?」


「嫌よ、私は」

間髪入れずにヴァレリアが拒絶の声を上げた。彼女はすでに、後ろにある扉を開けている。

「私はこの中にいるわ。目的地に着いたら起こして頂戴」

そう言い放つと、バタンと大きな音を立てて扉を閉め、完全にマイルームへと籠もってしまった。


「……ま、あいつらしいか」

クリストフは苦笑いしながらふっと息を吐き、運転席のフリントの背中を叩いた。「じゃ、行ってくれ、フリント」


「わかりました。では、出発します!」


フリントが魔導イグニッションを回すと、不滅の魔導回路が静かに、しかし力強く脈打ち始めた。かつてのレヴァルトのような爆音ではなく、どこまでも滑らかで重厚な駆動音を響かせながら、大きなスクエア形状をしたヴリトラ-APCは、ゆっくりと鋼鉄の要塞のゲートをくぐり抜けた。


失った愛機の魂をその盾に宿し、少年たちは大軍勢の待つ次なる混沌の地へ向けて、確かな一歩を踏み出したのだった。


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