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チャリオット  作者: さだきち
第九章:禁忌の遺産と超越の霊体

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第41話:不穏の円卓と禁忌の遺産


プラウデンの鋼鉄の要塞――その最深部に位置する会議室。

かつて魔将軍の幹部たちが作戦を練ったであろう重厚な円卓を囲むように、クリストフ、バレル、トリスタン、フリント、そしてヴァレリアの五人が、神妙な面持ちで椅子に座っていた。


昨日までの温かい宴の空気は霧散し、室内には張り詰めた緊張感が漂っている。


卓上に広げられた大陸地図を一瞥し、クリストフが静かに全員の顔を見回した。


「……そろそろ、次のターゲットに向けて動き出そうと思ってな。魔将軍の首をこれ以上放置しておくわけにはいかねえ」

クリストフは視線を巡らせ、卓に頬杖をついている妖艶な美女に目を向けた。「それで……何か、新しい情報はないか? ヴァレリア」


ヴァレリアはふっと息を漏らし、妖しく目を細めた。

「そうね。位置関係とブランゼル王国の動向から見て、次のターゲットは『魔将軍アイゼン』に、なるでしょうね」


その名が挙がった瞬間、これまで腕組みをして黙っていたバレルが、低い声で話に入ってきた。


「クリストフは知ってるだろうが、我々魔法教会も以前から、お前たちとは別に『黒本党』の討伐に力を注いできた。しかし、最近になって、極めて厄介な新展開があってな……」


「新たな展開?」

クリストフが怪訝そうにバレルを促す。


「以前から、黒本党の最高幹部であるレイドールの動きを探っていたんだがな。どうやら……あの忌々しい大魔術師ヴァルガスが、いまだに生きて、裏から黒本党を意のままに操っているらしい……という情報が入ってきたんだ」


「はぁ!? 待てよバレル」

クリストフは思わず椅子から身を乗り出し、声を荒げた。

「ヴァルガスはあの決戦の時、確かに死んだんじゃないのか?」


「まあ、肉体的には死んでるんだけどな」

バレルは苦虫を噛み潰したような顔で頭を掻いた。

「死んでるんだが……奴の『意識』だけが、強力な魔導怨念となってこの世に留まり、黒本党を操っている。現世に縛られた亡霊のような、一番タチの悪い存在だよ」


バレルは地図の上に太い指を突き立てる。

「その不気味な暗躍の一方で、ブランゼル王国は各地で虐殺や搾取を繰り返し、急速に軍事力を肥大化させている。そっちも、誰かが止めなければ世界が破滅する。つまり俺たちは今、世界を揺るがす二つの大いなる脅威に、同時に立ち向かわなければいけない状況に置かれているわけだ」


「……お前はどうするんだ、バレル?」

クリストフの問いに、バレルはすまなそうに肩をすくめた。


「お前たちに全面協力したいのは山々なんだが……俺たちは教会の人間として、これ以上黒本党の動向を放置するわけにはいかない。残念だが、明日の朝には一旦、この飛空艇でここを離れる。だが、動けるようになったら必ずまた力を貸すつもりだ。すまねえな」


「気にするな、バレル。十分すぎるほど手助けはしてもらったさ」

クリストフは頷き、再びヴァレリアに向き直った。

「それで……その魔将軍アイゼンってのは、どこに拠点を構えてやがるんだ?」


「ペッツパーク連邦よ」

ヴァレリアは淡々と答えた。

「あの広大な土地のどこかに巨大な城を建設し、前線の拠点を構えているわ。ブランゼル王国はすでにそこを踏み台にして、支配の手を四方に広げ、膨大な富と資源を我が物にしている。……ゾルダート、ザハーク、ガルテン、そしてグライフェン。確かにあなたたちは、7人いた魔将軍のうち4人を葬り去ったわ。一見して、敵を追い詰めているように見えるかもしれない……」


ヴァレリアの声音が、一段と冷たく響く。

「しかし、その実、残った魔将軍たちに国家の全権力と資源が集中し、より強大で歪んだ軍勢を築き上げているはずよ」


「……そうだね」

フリントが深刻な表情で、小さく拳を握りしめた。

「このプラウデンから『青本』が奪われ、さらに優秀な技術者たちも大勢さらわれてしまった。ブランゼル王国のチャリオット開発が、僕たちの想像を超えるスピードで加速していると考えたほうがいい」


「……ちょ、ちょっと待て! 今なんと言った!?」

それまで落ち着いていたバレルが、突然椅子を蹴立てんばかりに立ち上がり、目を血走らせてフリントを凝視した。

「青本って……あの、青本か!? 古のロンカ帝国の最深技術が記された……っ!?」


「は、はい……そうです。あの青本です……」

あまりのバレルの気迫に、フリントは圧倒されながらも真っ直ぐに応じた。


バレルは顔を青ざめさせ、ドカリと椅子に座り直すと、額を押さえて絶句した。

「……まずいな。それは、最悪のシナリオだぞ……」


「どうしたんだよ、バレル。何がそんなにまずいんだ?」

クリストフの質問に、バレルは掠れた声で答えた。


「……『精霊戦車』だよ……」


「精霊戦車? 俺たちが乗ってるチャリオットとは違うのか?」


「いや、次元が違う、全くの別物だ」

バレルは忌々しげに吐き捨てた。

「というよりな……かつてのロンカ帝国が誇った『精霊戦車』の超技術を、一般の兵士でも扱えるように極限までデチューンし、転用して量産されたものが、チャリオットなんだとも言える。あのロンカ帝国ですら、精霊戦車は世界にわずか8台しか有していなかった。だがな……あれは、たったの1台でも、その気になれば世界を征服できるほどの、絶大なパワーがあるんだ」


会議室に、冷たい沈黙が落ちる。


「当時のドラゴンの軍勢に解体された今、この世界に稼働する精霊戦車は1台も残っていないはずだが……万が一、あれが1台でも現代に復元されれば、世界は瞬時に脅かされることになる」


フリントはバレルの不安を和らげるように、努めて冷静に言葉を返した。

「でも、大丈夫だと思いますよ……? あの古の青本の最高技術は、どんな優れた技術者でも解明できなかったと聞いています。きっと、さらわれた技術者たちでも……」


「いや、この世界には、あの記述を完全に理解できる『天才』が存在するんだ」

バレルはフリントの言葉を重く遮った。

「まずは、俺の師匠であるプロメ。そして……それと同等の狂気的な知識を持つ男、ヴァルガスだ。もし、間違ってヴァルガスの手にあの青本が渡るようなことがあれば、本当に一大事だぞ……。急いで魔法教会に戻り、この件を上層部に報告しなければならん……!」


世界の裏で急速に噛み合っていく歯車に、全員が息を呑んだ。

その重苦しい空気を破るように、ヴァレリアが冷徹な視線をフリントたちへと向けた。


「話を魔将軍アイゼンの件に戻すけれど。私はね、あんな主砲もない『ヴリトラ』の1台だけで、ブランゼルの大軍勢に攻め入るなんて無謀の極みだと思うのよ」


「うーん……確かに、迎撃システムを積んだとはいえ、主砲が無いヴリトラ1台じゃ、攻勢に回るには苦しいか……。僕たちの戦術を広げるためにも、もっと別の特性を持ったシャシー(車体)も欲しいよな……」

フリントは腕を組み、困ったように天を仰いだ。


そこで、トリスタンがパンと手を叩いて現実的な提案を持ち出した。

「まあ、先の心配ばかりしていても始まらないさ。ザハークの賞金も少なくなってきたことだし、そろそろガルテンの討伐証を連絡所へ換金に行かないかい? グライフェンを討伐した件も正式に申告しなきゃいけないしね」


「そうだね」

トリスタンの言葉に、フリントの瞳に少しだけ希望の光が戻る。

「外の町に出て連絡所に顔を出せば、意外と、僕たちが求めている新しいシャシーに繋がる有力な情報が手に入るかもしれないし。明日にでも、近くの町へ出かけよう」


「よし、じゃあみんな、とりあえず明日はそれでいいか?」

クリストフが全員の顔を見合わせた。一同が静かに頷くのを確認し、クリストフは隣の巨漢を見た。

「悪いな、バレル。引き止めちまって」


「おう、気にするなクリストフ。こちらこそ、色々とありがとな」

バレルはいつもの快活な笑みを浮かべ、クリストフの拳と自分の拳を軽くぶつけ合った。


こうして、それぞれの進むべき道は一応の決定を見た。

しかし、精霊戦車という未知の絶望、そして大軍勢を率いる魔将軍アイゼンという壁。

会議室の窓の外に広がる夕闇のように、先の見えない重く不安な空気が、若い戦士たちの背中に重くのしかかっていた。


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