第36話:鋼鉄の遺産、本当のチーム
壮絶な決戦の嵐が去ったプラウデンの広場は、凄まじい砲撃と魔法の余波によって周囲の構造物がことごとく吹き飛び、戦前よりもさらに広大で、うつろな空間が広がっていた。
静まり返ったその中心で、フリントは力なく地面に膝をつき、粉々に破壊された愛機『レヴァルト-D8』の残骸を見つめてうなだれていた。焦げた鉄の匂いが鼻を突く。
「これじゃあ……バレルさんと一緒に組み直した定錨結晶も、定錨総括器も……何もかも台無しだ……」
フリントの肩が、小さく震える。
「せっかく、バレルさんから貰ったあの特別な魔法電池すら、影も形もないや……」
そんな親友の背中に、トリスタンが申し訳なさそうな顔でそっと近寄った。
「ごめんね、フリント。僕がもっと上手く立ち回れていたら、レヴァルトを壊されずに済んだかもしれない。僕が力になれなくて……」
「いやいや! お前が謝るなよ、トリスタン!」
フリントはハッとしたように顔を上げ、必死に首を振った。
「この勝利はお前の貢献が一番だ! あのグライフェンを倒せたんだぞ!? 俺の方こそ、レヴァルトを保たせられなくてごめん」
フリントは無理に笑みを作って立ち上がり、ズボンの汚れを払ってみせた。
「また、新しいシャシーをどこかから掘り当てて、一から出直しだ! 技術さえあれば、何度だって作り直して見せるさ!」
必死に取り繕うフリントだったが、ふと、バレルから渡された通信機を見て頭を掻いた。
「でも……バレルさんに『レヴァルト、さっそく木っ端微塵にしちゃいました』って、なんて言おうかな……」
おどけるフリントの姿に、トリスタンは思わず吹き出し、二人の間にいつもの少年の笑顔が弾けた。
「そうだな。そんなことでいつまでも落ち込んでいる場合じゃないぞ」
二人の様子を見守っていたクリストフが、不敵な笑みを浮かべて歩み寄ってきた。視線の先にあるのは、プラウデンの中心にそびえ立つ、主を失った鋼鉄の建造物だ。
「あの魔将軍の要塞……今度は、こっちから直々に踏み込もうと思うんだが、どうする? お前ら、まだ戦えるか?」
「最高位のニュークリアブラストは使い切っちゃったけど……まだまだ、敵を消し飛ばす呪文ならいくらでも残ってるわよ」
ヴァレリアがフッと不敵に微笑み、クリストフの提案に真っ先に同調する。
「グライフェンのチャリオットも、バラバラに吹き飛んで使えそうなパーツは残ってないし……。そうだね、あの鋼鉄の要塞に行ってみよう。何か新しいシャシーの予備とか、手がかりが残ってるかもしれない」
フリントが力強く頷く。
「弓なら、僕は大丈夫だよ」
トリスタンもバレル特製の矢筒を軽く叩いた。
「中に何本残っているかは確認できないけど、さすがに500本全部を使い切ってはいないと思うからね。グライフェンの残党が来ても、強力な魔導矢ならまだ十分にある」
4人はお互いに顔を見合わせて深く頷き合うと、かつての恐怖の象徴――鋼鉄の要塞への道に向かって、力強く歩みを前に進めた。
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要塞の前に辿り着くと、かつては固く閉ざされていたはずの重厚な鉄の門が、不気味なほど全開に開け放たれていた。
中に入っても、人の気配が全く見当たらない。がらんとした静寂が広がる要塞の内部を、4人は武器を構え、辺りを警戒しながら慎重に進んでいく。
いくつかの区画や開発室を回り、フリントは散乱した書類や空の棚を丹念に探りながら、残念そうに溜息をついた。
「……これは、先を越されたな。グライフェンがやられたのを察知して、奴らが主要なパーツや工具、予備のシャシー、開発資料まで全部持って逃げたみたいだ」
「ちっ、逃げ足の速い野郎どもだ。……だがフリント、こういった工具の台座とか、備え付けのクレーン、テーブルやイスなんかは、そのまま使えるのか?」
クリストフが、床に投げ捨てられていた大型のスパナを一つ拾い上げ、顎に手を当てて尋ねる。
フリントは周囲の広大な作業スペースと、残された最新鋭の設備を見渡した。
「作業環境としては、理想に近いよ。これだけ整った設備と頑丈な台座があれば、どんなチャリオットの改修だってできる」
「なあ……なら俺は思ったんだが」
クリストフがスパナを弄びながら、ニヤリと笑った。
「あの埃っぽい山の倉庫から、ここに『引っ越し』ちまうってのはどうだ?」
「え……?」
突飛な提案に、フリントは驚いて目を丸くした。
「そうね。あの狭くて暗い倉庫に引きこもっているよりは、ここのほうがスペースもあるし、快適に過ごせそうだわ。何より、魔導の実験もしやすそうよ」
ヴァレリアも同意するように、小さく頷く。
「そうだよ、フリント!」
トリスタンが顔を輝かせ、フリントの肩を揺すった。
「もともと、ここは君の生まれ育った故郷、プラウデンの町なんだろ? まあ……設備は敵が残していったものだけど、君が使うなら、プラウデンの技術が戻ってきたってことだよ! 引っ越しなら僕もいくらでも手伝えるよ!」
熱く語りかけるトリスタンの言葉が、フリントの胸に深く突き刺さる。故郷を奪われ、逃げるように山の倉庫に潜んでいた日々。それが今、最高の仲間たちと共に、奪還したこの場所から新しく始められるのだ。
「……うん、そうだね! そうしよう! 一緒にやろう、トリスタン!」
フリントとトリスタンは、溢れる感情を交わすように、力強く互いの腕を合わせた。
「僕たち、本当のチームだよね?」
トリスタンが、真っ直ぐにフリントの目を見つめる。
「もちろん! 当たり前だろ、本当のチームだ!」
フリントが満面の笑みで返す。
「おいおい、俺もその手伝いに混ぜてくれよ。もちろん、俺も頭数に入ってるんだろ?」
クリストフが腕組みをしながら、意地悪っぽく笑いかける。
「もちろんです、クリストフさん!」
フリントが元気よく答えると、クリストフはわざとらしく眉をひそめて首を振った。
「おいおい、その『さん』ってのは、もうやめてくれよ。水臭いじゃねえか。俺たち、もう命を預け合う『チーム』だろ?」
「あ……あはは、そうだね、クリストフ!」
要塞の外観は、相変わらず冷たく不気味な鋼鉄の威容を誇っていたが、その内側――かつて魔将軍が支配していた闇の玉座の跡地には、それを融かすほどに温かい、4人の笑い声がいつまでも響き渡るのだった。




