第3話:蹂躙の幕開け
乾燥した空気に砂埃が舞う辺境の村。その静寂を破ったのは、整然と大地を叩く軍靴の響きだった。
村の入り口から現れた一団の兵士たちは、人の気配が完全に消え失せた通りを見渡し、不気味なほどの静けさに眉をひそめる。
「隊長、この村で間違いありませんか? 生き物の気配がしませんが……」
「大丈夫だ。見ろ」
隊長が顎で示した先には、風にたなびく魔将軍バロールの旗があった。
隊長の合図と共に、兵士たちは手分けして家々の捜索を開始する。
「なんだ? あいつら。黒本党じゃないのか?」
家畜小屋の隙間からその様子を覗き見ていたライルが、怪訝そうに呟いた。
「ああ、あれは普通の人間だよ」
「魔将軍ってのは?」
「お前……そんなことも知らずに依頼を受けたのか?」
ジギーは呆れ顔を見せながらも、熟練の動きで気配を殺し、ライルを小屋の外へと誘導した。
その時、一人の兵士が道端に張られた細い糸に足を引っ掛けた。
「ん? なんだ?」
刹那、轟音が村を揺らした。
「ドカーン!」
凄まじい衝撃波と共に、5人の兵士が肉塊となって吹き飛ぶ。
「始まったぞ!」
建物の影でグレイが鋭い剛剣を構え、その横でカトリーナは既に弓を引き絞っていた。
離れた物陰では、スティックが不敵な笑みを浮かべながら、手の中の起爆スイッチを押し込む。
直後、三軒の民家が内側から爆発し、跡形もなく消し飛んだ。その爆炎を合図にするかのように、カトリーナの指先から三本の矢が放たれる。矢は吸い込まれるように兵士たちの眉間や心臓を正確に貫いた。
「いくぞ!」
ジギーが剣を、ライルが巨大な斧を振りかざして飛び出す。不意を突かれた兵士たちは必死に応戦するが、そこにグレイの剛剣が閃き、瞬く間に8人の兵士が地面に転がった。
「なんだ、こいつら。呆気なかったな」
「黒本党ではないとはいえ……三十人近い兵隊を一瞬で屠るとは、さすがね」
カトリーナと、彼女の背後に潜んでいた14歳のトリスタンが姿を現す。
だが、勝利の余韻は一瞬で凍り付いた。
村の外れから、二人の兵士を従えて歩み寄る巨大な影が見えた。
「な、なんだこいつ!? でけぇ……。黒本党か?」
「ふふふ……黒本党など、人間どもの成れの果てだ。あんな下等生物と一緒にするな」
漆黒のマントを翻し、禍々しい装飾が施された黒光りする鎧を纏った巨漢。魔将軍バロールその人であった。
「魔将軍様のお出ましか」
スティックが挑発的に言い放つ。その時、バロールの足が仕掛けられた地雷を「カチリ」と踏みつけた。
耳をつんざく爆音。天を突くほどの火柱が、立て続けに三発、バロールの巨体を飲み込んだ。
「馬鹿め。ここに俺たちが集まるのは作戦だ。こうも上手くいくとはな。頭は弱いようだぜ!」
スティックが不遜な態度で勝ち誇る。
しかし、激しい土埃と煙が風に流された先――そこには、絶望が立っていた。
黒いマントを盾のように纏っていたバロールが、煤ひとつ付いていない様子でそれを翻す。
「作戦……だと? そんなものは、弱い者が思いつく戯言だ。私には通用せぬ」
脇にいた二人の兵士は跡形もなく吹き飛んでいるというのに、バロールは傷一つ負っていない。
「そ、そんな、馬鹿な! あの火薬の量だぞ!?」
スティックの顔から血の気が引く。
討伐隊の面々は、たった一人の男から放たれる圧倒的な死の気配に戦慄しながらも、死に物狂いでそれぞれの武器を構え直した。




