第2話:戦士たちの集い
村の広場は、夜の静寂の中に異様な熱を孕んでいた。
カトリーナがトリスタンの手を引いて向かうと、そこには彼女と同じ紋章を掲げた、四人の男たちが待ち構えていた。
「へえ、子連れってのは本当なんだな。まさか戦場にまで連れていくのか?」
声を掛けてきたのは、頭に鮮やかな青い布を巻き、乱れた金髪を覗かせた男だった。その視線は、カトリーナの背後に隠れる少年に注がれている。
「この子も一緒に戦うわ。悪い?」
カトリーナは、射抜くような鋭い視線を男に向けた。守るべき者がそばにいる時、彼女の警戒心は戦場そのものに変貌する。
「ダメに決まってんだろ! どっかに置いてけ。足手まといだ!」
横から声を荒らげたのは、やや背の低い、狡猾そうなキツネ目の男だった。トリスタンはその男を真っ向から睨みつける。三本の腕を持つ少年には、大人たちの侮蔑の気配を察知する野生のような鋭さがあった。
「まあ……いいじゃないか。連れていくと言うなら、彼女に任せよう。それなりの理由があるんだろうしな」
金髪の男が、キツネ目の男を制した。その声には、場を収める不思議な落ち着きがあった。
「さすがね、グレイ。話は聞いているわ。相当な剣の使い手だそうね。よろしく」
カトリーナが差し出した手を、グレイと呼ばれた男は静かに握り返した。
「おいおい、このスティック様を知らねえのか?」
キツネ目の男が、面白くなさそうに腕組みをする。だがカトリーナは、一瞥もくれずに言い放った。
「誰? そんな男、聞いたこともないわね」
「ふ、ふん! 無知な女だぜ」
鼻であしらわれたスティックは、顔を赤くしてそっぽを向いた。
「俺はライルだ。よろしくな」
もう一人の大柄な男、ライルが気さくに手を差し出し、カトリーナもそれを握り返した。
「じゃあ、これで全員か? 俺はジギー。悪いが、みんな付いてきてくれ」
年長の雰囲気を纏ったジギーが一行を促す。彼が案内した先には、村の外れにある巨大な洞窟があった。そこでは、怯えた表情の村人たちが身を寄せ合って待っていた。
「じゃ、私たちはここに隠れますので……」
洞窟の脇には、人の背丈を優に超える巨大な岩が転がっていた。村人が中に入ったら、その岩で入り口を塞いでくれというのだ。
「いいのか? こんな大きな岩で塞いだら、閉じ込められちまうんじゃ……」
グレイが懸念を示すと、村人の代表が申し訳なさそうに答えた。
「い、いや、中にも若い男たちが残っておりまして……内側から押して出るのは大丈夫なのです。ですが、この重い岩を引っ張って持ってくるのは、私たちだけでは無理でして……」
「なるほどな。で、あんたらを隠した後、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
ライルの問いに、村人は頷いた。
「はい……村の集会所に、手付の金貨と食料を置いてあります。それは好きにしてください。残りの礼金は、バロールを倒した後にお渡しします」
その言葉を聞き、ジギーがパンと手を叩いた。
「よし、不満はないな。それじゃ、岩を動かすぞ! 手を貸してくれ」
男たちが一斉に肩を入れ、唸りを上げながら巨大な岩を押し転がした。ズズズ……と地響きを立てて、洞窟の入り口は完全に塞がれた。
「ふう、うまく隠れるもんだ」
スティックが額の汗を拭い、感心したように岩を見上げた。
やがて、トリスタンを含めた六人は、村の中央にある集会所へと足を踏み入れた。
広々とした室内には、焼きたての肉や酒が並べられ、テーブルの上には金貨の詰まった五つの革袋が置かれていた。
「せっかくだ、いただくか!」
ライルが待ちきれない様子で肉にかぶりつき、ジギーがグラスに酒を注ぐ。だが、カトリーナは自分の袋を一つ手に取ると、そのまま出口へと向かった。
「おい! どこに行くんだ?」
スティックが声を掛ける。
「私もトリスタンも食事は済ませたわ。どこかの空き家で、先に休ませてもらうわ」
「……やめたほうがいいと思うぜ?」
スティックが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。カトリーナが眉を潜める。
「なんでよ?」
「本当に俺を知らないんだな。俺は『トラッパー』だ。村のそこらじゅうに、踏めばお陀仏の火薬を仕掛けてある。やみくもに動き回るより、まず俺の話を聞いてからにしたらどうだ?」
カトリーナは心底面倒だと言わんばかりに、大きなため息をついた。そして、手にした金貨の袋を無造作にテーブルに戻す。
「で? 早く話せば?」
椅子の背を蹴るようにして座ったカトリーナを囲み、即席の討伐隊たちは、明日訪れる「死神」を迎え撃つための作戦会議を始めた。
夜の帳が、さらに深く村を飲み込んでいく。




