第27話:託された討伐証、宿命のプラウデン
港町からしばらく離れた、主要な街道がいくつも交差する栄えた街。活気あふれる中央通りから少し外れた一角に、重厚な石造りの建物――魔法教会の連絡所があった。
三人は、次なる旅の手がかりを求めてその街を訪れ、連絡所の門を叩いていた。
「クリストフさん! クリストフ・オーディンさんは、いらっしゃいますか?」
天井の高い連絡所のロビーに、受付係の女性の澄んだ声が響き渡った。
「おう、俺がクリストフだ」
名前を呼ばれたクリストフは腕組みを解き、木製の長い受付カウンターへと出向いた。
「お待たせいたしました。……事前のご報告通り、魔将軍ガルテンを討伐された件、確認が取れました。こちらが今回の賞金になります」
そう言うと、受付係は驚くべき金額が書かれた一枚の紙を手渡してきた。
紙に並んだ桁数を見たクリストフは、思わず頬をひきつらせた。
「こ、こんなに……!? いくら何でも多すぎねえか?」
「いえ……現在、ブランゼル王国からの被害は日に日に増え続けておりまして、魔将軍の懸賞金は跳ね上がり続けているのです」
「あのさ……ついでに聞きたいんだが、次の魔将軍についての情報って何か入ってないか?」
クリストフの問いに、受付係は申し訳なさそうに首を横に振った。
「いやー、各地からの被害報告は頻繁に上がっているんですけどね……。正直、最近は『黒本党』の件もかなりの件数になっておりまして、教会の戦力も調査員も、全く手が足りていないのが実情なんです。お力になれず、本当に申し訳ありません」
「そうか……。あ、いや、いいんだ。こっちこそ無理を言ってごめんな」
クリストフは気にするなと手を振って、受付係に声を掛けた。
「賞金の現物のお受け取りですが、先ほど手渡した紙をお持ちになって、あちらの受け取り口にお回りください」
クリストフは書類を手に取ると、ロビーの片隅で待機していたトリスタンとヴァレリアの座るテーブルへと戻ってきた。そして、もらったばかりの紙をテーブルの真ん中に置く。
「これな、今この場で受け取っても、大金すぎて旅の荷物になっちまって持ちきれねえ。とりあえず教会に預けたままにしておいていいか?」
クリストフは、正面に座る黒いドレスの美女を見て言った。
「……なんで、私にそんなことを聞くの?」
ヴァレリアが不思議そうに眉をひそめる。
「なんでって……そりゃあ、ガルテンに最後の一撃をブチ込んで倒したのはお前だろ。実質、お前の賞金みたいなもんだからな。一応、お前の意見を聞いとこうと思ってさ」
その言葉を聞いても、ヴァレリアは全く心が動かされた様子もなく、興味なさげに腕を組んでそっけない声を返した。
「そういう世俗的な手続きは、すべてあなたに任せるわ」
「へいへい」
クリストフは苦笑しながら立ち上がり、再び奥の受け取り口へと向かって列に並んだ。
「それではクリストフ様、こちらの『討伐証』をお渡しします。これを受付に見せれば、大陸中どこの魔法教会の連絡所でも、いつでも賞金を金貨に引き換えられますので、無くさないようにお願いしますね」
金属製の小さなプレートを受け取ると、クリストフはトリスタンたちの待つテーブルへと戻ってきた。
「やっぱり、魔将軍の居場所に関する情報は無かったな。しばらくは地道に足で探すしかなさそうだ」
クリストフが椅子に腰掛けながら言うと、ヴァレリアが、ふっと妖しく微笑んで唇を開いた。
「あら……それだったら、私にちょっとしたあてがあるわよ」
「何? 本当か、どんな情報だ?」
クリストフが身を乗り出す。
「少し探すことにはなるでしょうけれど……『プラウデン』という町に行く必要があるわ」
「プラウデン……?」
聞き慣れない地名に、クリストフが首を傾げ、どんな町なのか尋ねる。
「以前は精霊工学がとても盛んでね。様々な工業製品や、高度な魔術品が作られては大国に輸出されて、ずいぶんと栄えた町みたいだったけれど……」
ヴァレリアは腕組みをしながら、その美しい瞳に冷たい光を宿した。
「……あの町が魔将軍から『死の宣告』を受けて、滅ぼされてからは、かなり寂れてしまったわね。今はもう、見る影もない抜け殻のような場所よ」
「――えっ!?」
その説明を聞いた瞬間、トリスタンが勢いよく椅子を蹴立てて声を上げた。
「それ……もしかしたら、フリントの故郷かもしれない……!」
「何だって? そうなのか、トリスタン?」
驚いたクリストフが弟子を見上げる。
「うん! 以前、フリントが一度だけ故郷のことを語ってくれたことがあったんだ。昔は精霊工学が盛んだったって言ってたけど……。その内容と、今のヴァレリアの説明が、すごく似てる!」
「なるほどな……」
クリストフは腕組みをしながら、何かを思うように上を向いた。フリントという少年の数奇な運命、そして精霊工学。確かに符号が合いすぎる。
「じゃあ、決まりね」
ヴァレリアは二人の反応に満足したように立ち上がると、ドレスの裾を翻した。
「プラウデンに向かうわよ。道は私が案内してあげる」
「待てよ。さっき言ってた『少し探すことになる』ってのは、どういう意味だ?」
クリストフも立ち上がり、彼女の後に続いて歩き出しながら尋ねる。
「正直、はっきりと魔将軍がそこに居座っている、というわけじゃないの。ただ、あの土地には何かがある……現地に行って、手がかりを掘り起こすことになるわ」
「それでも……! たとえ魔将軍がいなくても、フリントの過去への手がかりになるかもしれない。僕は行きたい!」
トリスタンは、その瞳を期待と決意で眩いほどに輝かせた。
「そうか。お前がそこまで言うなら、迷う理由はねえな。……それじゃあ、案内を頼むぜ、ヴァレリア」
クリストフが頼もしげに声をかける。
ゼオンから受け取った「あの女には気を付けろ」という警告――その不気味な違和感を胸の奥底に抱えながらも、トリスタンは親友との約束を果たすため、その一歩を踏み出す道を選んだ。
黄金の光をまとうヴァレリアを先頭に、クリストフとトリスタンの三人は、宿命の地「プラウデン」を目指し、活気ある街の外に向かって静かに歩き始めるのだった。




