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チャリオット  作者: さだきち
第六章:対空の遺産と不屈の牙

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第26話:戦士たちの食卓、そして残された警告


魔将軍ガルテンの支配する収容所を打ち破り、自由の身となった武装捕虜たちは、一路、自分たちの故郷であるグローグランドを目指して進軍していった。

だが、救出された戦士ゼオン・フレイムはその本隊とは袂を別ち、カイルやフィン、そしてトリスタンたちと共に、少し離れた活気のある港町へと足を運んでいた。


「お待たせしました! 次々お持ちしますよ!」

地域に根付いた、昔からある広々とした大衆食堂のようなレストラン。そのテーブルには、目を疑うほど大量の料理が並べられていた。

香ばしく焼き上げられたチキンの丸焼き、バターが豊かに香るタラのムニエル、山盛りの新鮮な生野菜、そしてジュージューと音を立てる血の滴るような牛肉のステーキ――。


「んぐ、はぐっ……! うめぇ、生き返るぜ……っ!」

それらのご馳走が、凄まじい勢いで、飢えていたゼオンの胃袋の中へと消えていく。それはまるで飢えた野獣を思わせる壮絶ながっつき方だった。

しかし、驚くべきはそれだけではなかった。

「おいゼオン、その肉は俺が狙ってたんだよ! 負けるかよ!」

なぜか、五体満足でピンピンしていたはずのカイルまでが、ゼオンと同じくらい、いやそれ以上の物凄い勢いで料理を次々と平らげているのだ。

「はぐっ、これは俺のもんだ!」「ああっ、こらカイル!」

皿の奪い合いすら起きている二人のテーブルは、もはやちょっとした戦争のような凄まじい様相を呈していた。


「……やれやれ」

そんな二人から少し離れた隣のテーブルで、落ち着いて上品に料理を口に運んでいるのは、クリストフ、トリスタン、ヴァレリア、そしてフィンの四人だった。

少し呆れたような視線をカイルたちに向けながら、フィンがクリストフに話しかける。

「クリストフ殿、本当によろしいのですか? これほどの大戦果を挙げながら、今回の報酬は無償だなんて……」

「ああ、気にするな」

クリストフは豪快に肉を一切れ口に運ぶと、ニカッと笑った。

「その分、あいつらにたらふく食わせてやってくれ。あの食いっぷりを見てる方が、金をもらうよりよっぽど気持ちがいいさ」


「でも、お金は大丈夫なんですか……?」

トリスタンが隣の席からフィンを気遣うように声をかける。するとフィンは、いつものようににっこりと優雅に微笑んでみせた。

「いえ、お気遣いなく、トリスタン殿。我々の旅費は十分にありますので、これくらいは全く問題ありませんよ」

その会話の横で、ヴァレリアは一人静かに、そして息を呑むほど優雅な仕草で食事の味を楽しんでいた。


しばらくして、戦争のようだった隣のテーブルもようやく落ち着きを見せ始め、二人は食後の果物やケーキなどのデザートを頼み始めた。

「……まったく、我がサイレントシープの突撃隊長どもには困ったものです」

フィンはフゥッと温かい溜息をひとつつくと、カイルたちのテーブルへと席を移した。


「ところで……ゼオンさん」

「ん? なんだよ、フィン」

ゼオンはまだ、手と口を動かしてケーキを口に放り込み続けている。

「いえ、食べながらで一向に構わないのですが……もう一度、マジックロッドに来てくれ、と言ったらどうしますか?」

その言葉に、カイルがピタリとフォークを止め、真剣な目でゼオンを見つめた。

「サイレントシープには……お前がどうしても必要なんだ、ゼオン」


ゼオンはモグモグと口を動かしながら、上目遣いでカイルとフィンを交互に見た。そして、ふっと不敵に笑う。

「なんだ……そんなことかよ」

ゼオンはナプキンで一旦口を拭き、これまでの野獣のような態度から一転して姿勢を正した。

「もちろん、いいに決まってるだろ。むしろ、ここで『じゃあな』なんてお別れになる方が、寂しくて堪らなかったからな」

ゼオンは立ち上がり、カイルとフィンにそれぞれ力強く手を差し出し、固い握手を交わした。

「またよろしくな、相棒」


「ああ、よろしく!」とカイルが笑う。だが直後、ゼオンは何事もなかったかのように再び席に座り、残った料理を食べ始めようとした。

「ええっ!? ま、まだ食べるんですか!?」

これにはあの冷静なフィンも、目を丸くして驚きを隠せなかった。


「でさ、フィン。リリアンとかセレスは、今どこにいるか当てがあるのか?」

ゼオンがモグモグと咀嚼しながらフィンの顔を覗き込む。

「そのお二人なら、連絡が取れているので大丈夫なのですが……アルウェンさんだけが、どうにも連絡がつかなくて困っているのです」

フィンの言葉に、カイルがゼオンの顔を見て、あっけらかんと言った。

「まあ、アルウェンなら大丈夫だろ」

「え? なんでですか、カイルさん?」

「あいつのことだ。どうせまた、お得意の占いに導かれて、ひょっこり俺たちの前に現れるさ」

「そ、そうですかね……」

フィンは冷や汗をかきながら、ゼオンとカイルの楽観的な様子に苦笑いするしかなかった。


そのやり取りを、トリスタンが興味津々といった様子で、隣のテーブルから身を乗り出して話しかけた。

「あの……さっき言っていた、その『サイレントシープ』って、なんですか?」

「俺たちのチーム名さ!」

カイルが胸を張って、誇らしげに親指を立てた。

「世界で一番、最高のチームだ!」


「本当の、チーム……」

トリスタンがその言葉を噛みしめるように呟くと、カイルは嬉しそうに何度も指をさして頷いた。

「そう! それだ! 俺たちは、何があっても仲間を見捨てない、本物のチームだ。……どうだトリスタン、お前もサイレントシープに来るか? 歓迎するぜ?」


「いえ……お誘いは本当にありがたいですが、僕には、いつかまた会ったときに『本当のチーム』を組もうって、約束した人がいるんです」

「親友か?」

カイルがニヤリと優しく微笑む。

「はい!」

トリスタンは、まっすぐな瞳で強く頷いた。


その時、ゼオンが席を立ち、ゆっくりとトリスタンのもとへ歩み寄ってきた。彼はトリスタンの肩にそっと大きな手を置いた。

「その親友、早く見つかるといいな」

「はい! ありがとうございます!」

トリスタンは満面の笑みを返した。


だが、その直後だった。

ゼオンが不意に、トリスタンの耳元へと顔を近づけた。至近距離から、誰にも聞こえないほどの地を這うような小声で囁いた。

「――ヴァレリアには気を付けろ。あの女は、普通じゃない」


ビクッと、トリスタンの身体が強張った。はっと驚いた顔でゼオンを見つめ返したが、ゼオンの目は冗談を言っているようには見えなかった。収容所でガルテンを容赦なく黄金の光で消滅させた、あの黒いドレスの女の異常性を、歴戦の戦士であるゼオンは見抜いていたのだ。

トリスタンは喉を鳴らし、真剣な顔で小さく頷いた。


やがて食事が終わり、六人はレストランの外へと出た。外の空気は、心地よい潮風を含んで彼らの頬を撫でる。

「では、皆さんとはここでお別れですね」

フィンが、クリストフ、トリスタン、そしてヴァレリアの三人の顔を静かに見回した。


ゼオンが三人の前に歩み出て、一人ずつしっかりと握手をして回った。そして、最後に一歩下がると、

「あなたたちは、俺の、そして大勢のグローグランド兵の命の恩人だ。本当にありがとう。この恩は、一生忘れません」

そう言って、三人に対して深々と頭を下げた。


「いや、いいって。気にするな」

クリストフはゼオンの身体を起こさせると、その肩に手を回し、ポンポンと力強く背中を叩いた。

「その……『サイレントシープ』ってチーム、うまくいくといいな! 応援してるぜ」

「はい!」

カイルが満面の笑みを返す。


「それでは、ここら辺で失礼します。皆さんの旅路に、精霊の加護があらんことを」

フィンがそう告げて一礼すると、フィン、カイル、ゼオンの三人は、定期船の待つ港に向かって、並んで力強く歩いて行った。その背中は、かつての英雄たちの絆そのものだった。


彼らの後ろ姿をしばらく見送った後、クリストフが大きく伸びをして振り返った。

「じゃ、俺たちも行くか」

「うん」

クリストフとトリスタン、そして何食わぬ顔で佇むヴァレリアの三人もまた、次なる目的地へと向かうべく、静かに港町の外へと向かって歩き始めるのだった。


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