表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャリオット  作者: さだきち
第四章:受け継がれる技、拓かれし未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/65

第19話:死の宣告と、鋼の警護隊


その日、朝日が昇るのとほぼ同時に、ブラントンの東に位置する長閑のどかな村の住民たちが、青い顔をして討伐隊の訓練場を訪れていた。

「魔法教会の方から、ここを訪ねろと言われまして……」

怯えきった様子の村長と思わしき老人が、訓練場の一室へと通され、幹部たちと深刻な面持ちで話し込んでいる。


しばらくすると、訓練場全体に冷たい水を浴びせられたかのような不穏な空気がまとわりつき、討伐隊の間へと一つの伝令が駆け巡った。


「うーん……十三人か……」

部屋の片隅で、クリストフが腕を組み、何やら難しい顔をして唸っていた。

「何を悩んでいるの、クリストフ?」

トリスタンが近づいて尋ねると、クリストフは視線を落としたまま、声を潜めて応じた。

「あ、いや……。例の東の村に、魔将軍からの『死の宣告』が届いたそうなんだ。だが……今回、集まった討伐隊の人数が少なすぎる」


「え? 十三人じゃ足りないの?」

「それは、お前の方がよく知っているだろ?」

クリストフの鋭い眼差しに、トリスタンは言葉を詰まらせた。かつて辺境の村が魔将軍に蹂躙されたあの光景――たった十三人の戦士では、魔将軍の足止めすら叶わないかもしれない。

「……そうだね」


トリスタンは小さく俯いたが、すぐに拳を強く握りしめ、決意に満ちた眼差しでクリストフを見上げた。

「でも、僕は戦いたいんだ! みんなを助けに行きたい!」

「いいのか? 相手は魔将軍だ。今度こそ、本当の地獄を見るぞ」

「うん!」

少年の力強い頷きに、クリストフはふっと口元を緩め、頼もしそうにその肩を叩いた。

「よし、わかった。……おい! ラムス!」


クリストフが声をかけたのは、今回の討伐隊を率いる、鋭い眼光を持った大柄な男――隊長のラムスだった。

「おう、クリストフか」

「俺とトリスタンも、その作戦に参加するぞ」

ラムスは二人の顔を見比べ、安堵したように息を吐いた。

「そうか……! お前たちが来てくれれば十五人か。助かるよ」


「早速だが、作戦を説明する。そこの部屋に集まってくれ」

ラムスに促されて部屋に入ると、そこには既に、武装を整えた屈強な討伐隊の面々が、張り詰めた緊張感の中で待機していた。

ラムスは軽く咳払いをして、全員を見渡しながら地図を広げた。


「今回の作戦は――『魔将軍の討伐』ではない。村人の安全な避難だ。要するに、徹底した警護が目的となる」

ラムスの冷徹な言葉に、室内が静まり返る。

「無用な戦闘は極力避けろ。敵と接触しても深追いはするな。迅速に、一人でも多くの村人をこのブラントンまで誘導するんだ。いいな」


作戦会議が終わり、明日の早朝の出発に備えて、戦士たちは各自で装備の念入りな確認を始めた。

「討伐隊なのに、最初から戦わない(討伐しない)なんて珍しいね」

トリスタンは、ミランダから授かったカトリーナと同型のロングソードの重みを確かめながら、隣のクリストフに話しかけた。


「まあ……そうだな。それだけ、あの『魔将軍』って奴の脅威が世界中に知れ渡ったってことだ。魔法教会も無謀じゃない。勝てない戦いで優秀な戦士を犬死にさせるわけにはいかないからな」

そう言うと、クリストフは不意にトリスタンの腰元に手を伸ばし、そこに装着されていたショートソードをホルスターごと外して取り上げた。


「え? 何? クリストフ?」

驚いて目を丸くするトリスタンに、クリストフはニヤリと笑ってみせた。

「今の、右手二本で半身を構えるお前に、この短い剣はもう不要だ。間合いの邪魔になるだけだからな」

そう言って、クリストフは代わりに、ずっしりとした重みのある大きなロングボウ(長弓)と、一本一本鋭い矢が詰まった矢筒をトリスタンに手渡した。


「代わりに、これを背負え。……言われた通りに、やってみろ。な?」

「……うん!」

トリスタンは目を輝かせて弓を受け取り、しっかりと背中に背負った。至近距離からの弓の早撃ち、そして右手二本のロングソードという、母から受け継いだ最強のスタイルだ。


その日は、翌日の決戦に向けて体力を十分に温存するため、二人は早めに宿舎のベッドに入った。

部屋の窓から静かな月光が差し込む中、トリスタンは毛布にくるまりながら、隣のベッドのクリストフに声をかけた。

「ねえ、クリストフ……」

「ん、なんだ?」

「クリストフはさ……本物の魔将軍を見たこと、ある?」

「いや……俺は一度もねえな。カトリーナが戦っている間、俺は別の戦線に出ていたからな」


「僕は……二回、あるんだ」

トリスタンの声が、少しだけ震えた。

「もし、本当に魔将軍と会っちゃったら、僕……もう一度、黄金の光を試した……」


「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」

クリストフが寝返りを打ち、トリスタンの言葉を遮るように厳しく、しかし包み込むような低い声で言った。

「もし万が一、魔将軍の姿を見ちまったら、お前は何も考えずにすぐ逃げるんだ。いいな? 俺との約束だ。……絶対に、生き残るんだぞ。……ほら、余計なことは考えずに早く寝ろ」

「……うん。おやすみ、クリストフ」

クリストフの不器用な優しさに守られながら、トリスタンは静かに目を閉じた。


そして夜が明け――。

まだ薄暗い早朝、十五人の討伐隊は、静まり返る港町ブラントンを後にし、東の村へと向かって出発した。


数時間の強行軍の末、目的地である村へと到着した。

村の広場には、既に荷物をまとめた村民たちが怯えた様子で整列しており、昨日訓練場を訪れた村長が、必死の形相で討伐隊を出迎えた。

広場の中心には、見る者の心を凍らせるような、魔将軍ザハークの禍々しい紋章が描かれた旗が、冷たい風にパタパタと不気味にたなびいていた。


「これで、全員ですか?」

ラムス隊長が、鋭い目で村長に確認をとる。

「はい……! 隠れている者はいません。全員揃っています!」

「ブランゼル王国の軍隊(追手)の動きは……?」

「明日が『死の宣告』の期限ですので……それまでは、大丈夫かと……」


「よし!」

ラムスは大きく頷くと、背後の討伐隊の面々に向かって、張り裂けんばかりの大声で号令を下した。

「それじゃあ、討伐隊はこれより拡散! 村人たちを前後左右から完全に警護しろ! 今からブラントンに向かう。出発!!」


ラムスの激しい号令を合図に、十五人の鋼の戦士たちに守られた村人たちは、重い足取りで、しかし生き延びるためにゆっくりと歩き始めた。沈黙の広場に取り残されたザハークの旗だけが、彼らの背中をじっと見下ろしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ