第114話:最高の武道家と最高の動き
プラウデンの拠点では、今日も活気あふれる工事の音が心地よく響き渡っていた。
広場ではマルコの指導のもと、道着に身を包んだフリントが爽やかな汗を流している。
稽古を終えたフリントは、いつもの作業着に着替えると、三輪バイク形態の『ブロード・カタナ-TR』に跨がり、静かに広場へと入ってきた。
「え? その乗り物のような形から、あのパワードスーツに変形するんですか?」
目を丸くして尋ねるマルコに、腕組みをしたバレルがニッと笑う。
「ああ、そうだ。フリント、見せてやれよ」
フリントが深く頷いてカタナから降り、広場の中央で両手を大きく広げた。
直後、カタナの前輪と後輪がガチャリと切り離され、独立したパーツとなって勢いよく回転を始める。可動式ノズルが開くと同時に青白いジェットが噴射された。
さらに細かなブロックへと分離したパーツ群は、ジェット推進のらせんを描きながら、宙へと滑らかに上昇していく。
両手を広げたフリントを目がけて、頭部、チェストガード、胴回り、両腕の装甲が吸い寄せられるように次々と吸着。最後に、身体がふわりと浮かんだフリントの足元へ両足のパーツが滑り込み、ズシーンと重低音を響かせて着地を果たした。
「何回見ても……凄まじい存在感ですね……」
マルコが圧倒されていると、バレルがどこか誇らしげに鼻を鳴らした。
「空も飛べるぜ?」
フリントが背中と両足のノズルからジェットを吹き出すと、その巨体がフワリと浮き上がり、そのまま一気に大空へと駆け上った。
澄み渡る大空に綺麗な8の字を描いて飛翔するフリント。マルコはそれを見上げ、少年のように目を輝かせている。
滑らかに地上へ降り立ったフリントに、マルコが感嘆の声を上げた。
「ふわあ……すごいね。それだけ動いて、疲れないのかい?」
「そうですね。ジェットの推進力で飛んでいますし、各パーツの自動制御が僕の身体にかかる負荷をかなり抑えてくれていますから」
難解な説明に、マルコはさっぱり分からないといった風に苦笑しながら首を振った。
「仕組みはよく分からないけれど、とにかく凄いものだというのは伝わったよ。……その状態で、さっき教えた型を繰り出すことはできるかい?」
「やってみます!」
フリントは重厚なパワードスーツを纏ったまま、教えられた10通りの型を正確に披露してみせた。
だが、その完璧なはずの動きを見たマルコは、腕組みをして首をかしげる。
「ん? なんだマルコ、気になることでもあったか?」
バレルが尋ねると、マルコは姿勢を正してフリントを見据えた。
「よし! そのパワードスーツで、俺と手合わせしてみよう」
「え!?」
意外な提案にフリントが素声を上げる。
「いくらマルコさんでも、パワードスーツ相手に素手で手合わせなんて危険すぎますよ!」
「いいから、いいから。打ってきてみなさい」
マルコはびしっと隙のない、見事な構えをとった。
「それなら……」
マルコを傷つけないよう、フリントは威力を抑えて柔らかく拳を撃ち込んだ。
バシーンッ!!
「ぐあっ!?」
マルコが放った凄まじい掌打が弾け、フリントの巨腕が豪快に弾き飛ばされた。想定外の衝撃にフリントがよろめく。
「そんなへっぴり腰の打ち込みじゃダメだよ、フリント!」
マルコの表情は真剣そのものだった。
(パワードスーツ相手に、なんて人だ……!)
フリントは今度こそ気を引き締め、少し強い踏み込みとともにマルコへ肉薄した。
だが、どれほど重厚なパワードスーツの撃ち込みであろうと、マルコは流れるような身のこなしで次々と弾き返していく。そればかりか、フリントを傷つけない程度の絶妙な加減で『浸透頸』の打撃を叩き込んだ。
ゴォン……!
衝撃が分厚い鋼鉄の装甲を貫通し、内部のフリントの肉体へと直接響く。パワードスーツ越しに与えられた痛みに、フリントは戦慄した。
「こ、この……っ!」
次第に余裕を失ったフリントは本気となり、教わった型を駆使して全力の連撃を繰り出した。しかし、マルコはそれら全てを流れるようにいなし、崩れた姿勢へ的確に連打を叩き込んでいく。
ズッシーン!!
ついに重厚なパワードスーツを纏ったフリントが、広場の地面に豪快に倒れ伏した。
「いててて……いくら何でも強すぎだろ……。でも、パワードスーツを使っても勝てないなんて、これじゃトリスタンに合わせる顔がないなあ……」
フリントが装甲を軋ませながら、よろよろと立ち上がる。
だが、マルコは構えを解くと、静かに首を横に振った。
「いや、違うな」
「え?」
「そのパワードスーツ……フリントの身体の動きと、せっかく覚えた正確な型の動きを『殺して』しまっているんだ」
「なるほど……!」
バレルが手を打ち、技術者としての見解を示す。
「パワードスーツは鋼鉄の塊だ。その重量があるからこそ、フリントの身体の動きに合わせて推進力を制御するプログラムが働いている。……フリントをサポートするための自動化が、逆にフリントの繊細な動きの妨げになっているわけか! かと言って、自動化を切ればスーツが重すぎて動けなくなる。どうしたもんかな……」
バレルが顎に手を当てて唸る。
「うーん、俺の体にモーションセンサーを装着してデータを採り、地道に自動化プログラムを微調整していくしかないですね……」
フリントが打開策を模索した、その時だった。
「それだーーーっ!!」
バレルがフリントを指さして叫ぶやいなや、ガレージに向かって猛ダッシュしていった。
「な、なんだなんだ!?」
フリントはパワードスーツの装着を解除してカタナの形態に戻すと、呆気にとられるマルコと共にバレルの後を追った。
ガレージへ駆け込むと、そこには大量のモーションセンサーを両手に抱えたバレルが待っていた。
「よし、マルコ! これを付けてくれ!」
「ええっ!? 俺がですか!?」
バレルは戸惑うマルコの全身に、手際よくペタペタとセンサーを貼り付けていく。
「この状態で、武芸の型を全力でやれるか?」
「問題ないとは思いますけど……」
マルコが一呼吸置くと、真剣な眼差しで凄まじい踏み込みとともに拳を突き出した。
ドドンッ!
ガレージの床が激しく振動し、突きの鋭さによって突風のような風圧が巻き起こる。
「ひゅ~! すごいな! これは極上のデータが採れそうだぜ!」
バレルが口笛を吹きながら端末の画面を覗き込む。
「一体何をやっているんですか、バレルさん?」
「マルコの『武術の動き』をそのまま直接、御零球に入力してるのさ!」
「え……? それって……」
「そうだ! フリントの動きを、マルコの最高峰の体の使い方のデータで補助するんだ。地道に微調整するより、何倍も凄まじいものができるぞ!」
「す……すげえ!!」
バレルの規格外のアイデアに、フリントは目を輝かせた。
ようやく事態を理解したマルコは苦笑しつつも、その後も様々な型を繰り出し、データ採取に快く協力していくのであった。




