第112話:完全体のパワードスーツと新しい道着
爽やかな朝の陽光が差し込むプラウデンの拠点ガレージ。そこでは、フリントが『カタナ』のパーツたちと悪戦苦闘していた。
(よし……いいぞ、そのままだ……来いっ!)
並べられたパーツにフリントが深く意識を向けると、可動式のノズルから青白いジェットが噴射され、各パーツが浮き上がる。片腕と片足にそれぞれパーツが飛んできて、カチャリと音を立てて吸い付くように装着された。
だが、フリントがその装着感に気を取られた一瞬、意識の集中が途切れてしまう。宙に浮いていたひとつのパーツの動きが途絶え、床へ落下した。
「くっそぉ! またか!」
直後、あらぬ方向から制御を失ったパーツが飛来し、フリントの側頭部にぶつかった。
コンッ!
「いってぇ!」
片腕と片足にせっかく着いたパーツも外れて床に転がり、フリントはあまりの痛さに頭を抱え込んだ。
「おー? やってるな、フリント」
拠点の宿泊施設から起きてきたバレルが、ガレージにひょっこりと顔を出した。
「サイコドライブの制御が難しくて……よくこんなの自在に操ってたな、クリストフは……」
フリントは痛む頭をさすりながら、参ったように呟く。
「まあまあ。ほら、そろそろマルコが来るんじゃないか? 今日からだろ?」
「あ! やっべえ! しまった!」
バレルに声をかけられ、ハッとしたフリントは大慌てで広場に向けて走り出した。
「ふふふ……やれやれ」
慌ただしく去っていくフリントを見送ると、バレルは「うーん」と大きく身体を伸ばして一息ついた。それから床に散らばったパーツをひとつひとつ拾い上げ、丁寧に並べ直していく。
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フリントが広場へ駆けつけると、そこにはすでに大きな箱を手にしたマルコが待っていた。
「す、すみません! 初日からお待たせしてしまって!」
申し訳なさそうに深く頭を下げるフリントに、マルコはあははと優しく笑った。
「別にそんなに慌てなくていいよ、ゆっくり始めよう。落ち着いてやらないと、意外に怪我をしたり危ないこともあるからね」
「はい! わかりました……でも、その持っている箱は何ですか?」
フリントが尋ねると、マルコはその箱を開いて見せた。中には仕立ての良い上質な道着が納められていた。
「こ、これは……!」
「これをあげるから、着替えてきてほしいんだ。格好っていうのは意外と大事でね。きちんとした身なりで稽古しないと、思わぬ怪我をする場合もあるから」
「はい!」
満面の笑みで箱を受け取ると、フリントはそれを大切に抱え、ログハウスへと走っていった。
やがて戻ってきたフリントは、いつもの作業着から、身体にぴったりと仕立てられた道着に包まれていた。
「すごい! 身体にぴったりです、すごく動きやすい! ありがとうございます!」
「俺の見立てが合っていて良かった。それじゃ始めるか、フリント!」
「はい! お願いします!」
マルコは早速、筋肉をほぐす柔軟やストレッチ、正しい準備運動を教えていく。互いにしっかりと身体をほぐし終えると、二人は拠点の門を潜り、体力づくりのための走り込みへと向かっていった。
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その頃、バレルはガレージで『カタナ』のパーツを解体し、内部構造の調整にあたっていた。パーツをカシャッカシャッと手際よくスライドさせ、大きな開口部を作る。
定錨結晶、定錨総括器、魔法電池――。パワードスーツの各装甲には、霊工の極意によって大きな構造体が極小サイズに格納・セットされていた。
バレルは開口部からアンカー・プロセッサーを持ち上げて取り出すと、そこに内蔵されていた『御零球』にケーブルを繋ぎ、自作の詠唱石へと接続した。
御零球はP-LOTの制御部であり、心臓部とも言える重要部品だ。本来は監督者が命じた動きを記憶させ、熟練度を高めていくためのものである。
しかし、バレルが編み出した独自の技術を用いれば、端末に繋いだ詠唱石から直接、精密な軌道計算や出力調整のデータを書き込むことができる。サイコドライブにかかる思考負荷を機械側に肩代わりさせるための仕掛けであった。
「……よし、こんなところか」
カチャリ、カチャリとパーツを元の形に戻し、整然と並べ終えて汗を拭ったその時、稽古を終えて作業着に着替えたフリントがガレージへ戻ってきた。
「おう、フリント。稽古で疲れただろ? 少し休憩したらどうだ?」
「いえ、大丈夫です。このままやらせてください!」
疲労を見せず微笑むフリントに、バレルはポンと肩を叩いた。
「そうか……じゃ、朝の続きだ。もう一回、パワードスーツの装着をやってみろ」
「はい!」
フリントがうなずき、並べられたパーツへ意識を集中させる。可動ノズルが開き、ジェットが噴射されると、各パーツがふわりと宙に浮かび上がった。
「よし、来い!」
フリントが合図を送ると、頭部、肩、チェストガード、胴回り、両腕――各パーツが吸い寄せられるように飛来し、カチャカチャと心地よい音を立ててスムーズにフリントの身体へ装着されていく。
さらに背中のノズルがジェット噴射の出力を上げ、フリントの身体をわずかに宙へ浮かせた。その隙を逃さず、両足のパーツが足元へ滑り込むように飛び、カチャリ、カチャリと寸分の狂いもなく装着された。
ズン!
完全体となったパワードスーツを纏い、フリントが力強く着地する。
「すごいぞ! 成功した! やったあ!」
「うわあ……こんなので戦うんですか? すごいな、これ……」
見学に訪れていたマルコが、驚きのあまり生唾を飲み込んだ。
装着を完了したフリントは、バイザーの奥で大はしゃぎしている。
「すごい! バレルさん、何かやってくれたんですか!?」
「まあな。サイコドライブの負荷を減らすために、各パーツの飛翔軌道とジェット出力の調整を自動化してみたんだよ」
バレルは腕組みをし、満足げに頷いた。
かつて絶望を味わったプラウデンの拠点。しかし今、そこでは新たな希望が着実に、そして頼もしく育まれつつあった。




