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チャリオット  作者: さだきち
第三章:遥かなる誓いの荒野

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第11話:荒野の群れ


100人近い奴隷たちの群れは、あてどなく荒野を彷徨っていた。

既に群れを離れ、自分の意志で別の道へ進んだ者も幾人かいたが、未だに大勢の者たちが行く先を見失ったまま、ただ足を進めている状態だった。


乾いた風が吹き抜ける中、一人の奴隷が耐えかねたように足を止め、フリントに詰め寄った。

「おい……これからどうするんだ!?」


その声を皮切りに、周囲の奴隷たちからも不安と不満の声が次々と湧き上がる。

「やめろ! フリントを責めるな!」

トリスタンが素早く二人の間に割って入り、身を挺してフリントを庇った。しかし、一度火がついた奴隷たちの動揺は収まらない。


「これだけの人数がいるんだぞ! 早く身を隠せる場所を探さないと、すぐに目立ってしまう!」

「ここまで来て、またあの地獄に捕まるなんて俺はごめんだ! 連れ出したなら、最後まで責任を取れ!」


容赦のない言葉の矢が浴びせられる。

フリントは何も言えず、ただ唇を噛み締めて深く俯いていた。自分が皆を先導できるほどの力も覚悟もない子供だという現実が、重くのしかかっているようだった。そんなフリントの隣で、トリスタンは歯を食いしばり、拳を握りしめていた。反論する言葉は見つからなかったが、せめてフリントを一人きりにさせないよう、彼に向けられた刺すような視線を一緒に耐え忍んでいた。


「おめぇら……いい加減にしろよ!!」


地を這うような、しかし鋭い怒号が荒野に響き渡った。

堪えきれず声を荒らげたのは、一人の男だった。男は詰め寄る奴隷たちを厳しい眼差しで睨みつける。


「よく見ろ! そいつらはまだ子供だぞ! あんな地獄から、俺たちをここまで連れて来てくれただけでも奇跡じゃねえか!」


男の言葉に、不満を漏らしていた奴隷たちが一瞬言葉を失う。男はなおも語りかけた。


「もう十分じゃないか……。お前らだって、故郷を失ったかもしれない。……だが、友人とか、何かしらのつてとかがある奴は、ここからは自分の足で進むべきだろ?」


男は一拍置き、集団を見回した。

「確かに、この人数でこれ以上固まって動いても、追っ手に『ここにいます』と知らせているようなもんだ」


重苦しい沈黙が、その場を支配した。

男の正論は、彼らの心に冷徹な事実を突きつけた。誰かに寄りかかっているだけでは、本当の自由など手に入らないのだ。しばらくの後、意を決したような表情を見せた者が、一人、また一人と無言で群れを離れ始めた。それをきっかけに、堰を切ったように奴隷たちはそれぞれの「真の自由」を求めて、異なる方向へと歩き始めた。


みるみる小さくなっていく人影を、フリントは力なく見つめていた。そして、先ほど声を上げてくれた男の方を振り返る。

「ごめんなさい……。俺、何も考えてなかったんだ……」


絞り出すようなフリントの謝罪に、男はふっと表情を和らげた。

「お前が謝る必要はねえさ。俺が今こうして生きているのは、お前のおかげだ。ありがとうな」


男はフリントの小さな肩を大きな手で力強く掴み、深く頷いてみせた。そして男もまた、自らの行くべき道へ歩き出そうと背を向ける。


「あ! あなたは……どこへ行かれるのですか?」

トリスタンが思わず、男の背中に声をかけた。


男は足を止め、肩越しに振り返って短く答えた。

「俺には娘がいるんだ。何にも代えられない、かけがえのない娘がな」


その言葉に、フリントがはっとして尋ねる。

「今も、生きているんですか……?」

「きっと……必ず。俺はそう信じてる」


迷いのない男の眼差しに、トリスタンとフリントはそれ以上何も言えず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。家族を想う男の強い意志が、二人の胸に深く刻まれる。


男は少し歩き出したが、何かを思い出したように再び足を止め、少年たちを振り返った。

「お前ら……もし行く当てが無いってんなら、『シーラス』に行ったらどうだ?」


「シーラス……?」

聞き慣れない地名に、フリントが小首を傾げる。


「この先にある、ここらじゃ一番大きな繁華街だ。混沌とした街だからな、俺たちみたいな逃亡者が紛れ込むにはうってつけの場所さ」

男は遥か先の大地を指さした。

「西にまっすぐ行くといい」


「あ……ありがとうございます!」

フリントが弾かれたようにお礼を言うと、トリスタンも並んで深く、深々と頭を下げた。


二人が顔を上げたとき、男はすでに前を向いていた。振り返ることなく、ただ片手をひらひらと大きく振りながら、自分の進むべき道を迷いなく歩いていく。


ぽつんと取り残された荒野で、トリスタンがフリントの顔を覗き込んだ。

「じゃあ……僕たちも行くか?」

フリントは小さく息を吐き出し、それから確かに頷いた。

「うん、そうだね」


新しく示された道標を見据え、トリスタンとフリントの二人もまた、広大な荒野の道を一歩ずつ歩き始めた。


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