第109話:穿つ閃光、新生の盾
柔らかな陽光が注ぐプラウデンの町。
新たな拠点を建設する職人たちが振るう工具の音が、心地よいリズムで町中に響き渡っていた。
その職人たちに混ざり、汗だくになりながら一緒に工具を振るうバレルの姿があった。
「バレルさん! もうこの辺は大丈夫ですよ! 後は俺たちに任せて、ゆっくり休んでいてください!」
汗を拭った職人の一人が声をかけるが、バレルは豪快に笑って首を振る。
「そんなわけにはいかんよ! いくらお前さんたちの腕が良いからって、任せっきりで甘えてちゃ立つ瀬がないだろ!」
バレルは作業する手を止めようとしない。しかし、キリの良いところまで作業を終えると、綺麗に工具を片付け始めた。
「……でもまあ、そうだな。今日はこの辺にして、フリントの奴の様子を見てくるよ。すまんが後はよろしく頼むな!」
バレルがポンと肩を叩くと、職人は威勢良く「はい! 任せてください!」と胸を張った。
バレルが作業中のガレージへ足を運ぶと、そこではフリントが床に仰向けで倒れていた。
「フリント!? どうした、何があった!? しっかりしろ!」
顔色を変えたバレルが大慌てで駆け寄り、フリントの身体を揺り起こす。
「う、うーん……あ、バレルさん。すみません……何か気絶していたみたいで……」
フリントが頭を押さえながら意識を取り戻した。
「おいおい、どうしたんだよフリント!?」
「サイコドライブで機体と同期する時の衝撃が、想像以上で……。いやあ、昔クリストフが同期の痛みに慌ててるのを笑ってましたけど、こんな衝撃に耐えてたんですね。改めてクリストフの凄さを思い知りましたよ」
「まったく……心配させるなよ。今度からこういうことは俺の目の届くところで一緒にやれ。いいな?」
バレルが胸を撫で下ろすと、フリントは苦笑いしながら立ち上がった。
バレルの視線がガレージの傍らに注がれる。そこにはカスタマイズのために分解された『カタナ』のパーツが整然と並べられていた。
「それで……これからどう組むつもりなんだ?」
「そうですね。まず前提として、俺は剣の振り方を知りません。だから攻撃するとしたら、殴るか蹴るくらいしかできないんです」
バレルが頷いて耳を傾ける。フリントがパーツの一つに意識を向けると、浮遊したパーツが空中を滑り、カチャリと心地よい音を立ててフリントの腕に装着された。
「だから、エクスカリバーは解体しました。その出力と『バウンダリー・ハル』の出力を組み合わせ、応用して新しい武装を作ってみたんです。……言葉で説明するより見せた方が早いですね。あっちへ行きましょう」
バレルは促されるまま、フリントの後についてガレージの裏手へと回った。
そこは、破壊された要塞の瓦礫を細かく砕いて再利用、または廃棄するための集積場となっていた。
フリントが腕のパーツに意識を集中させると、握りしめた拳の先に眩い円盤状の光の板が展開された。
フリントは目の前にある巨大な鉄の塊へ向け、殴りつけるようにしてその光の円盤を叩きつけた。
――ドゴオォンッ!!
すさまじい破砕音とともに光の円盤が弾け飛ぶ。同時に、巨大な鉄の塊は内側から粉砕され、豪快に砕け散った。
「これは……凄いな! 確かにこれなら、剣を使えなくても強力な武器になるぞ!」
バレルは感心して目を丸くした。
「こういうのもできます」
今度は手のひらを別の鉄の塊へと向けるフリント。手のひらの前に、再び小さな光の円盤が浮かび上がる。
――パシュッ!
軽い発射音とともに、光の円盤が収束された光弾となって高速で飛翔した。鉄の塊に激突した光弾は、激しい衝撃とともに弾け飛ぶ。直撃を受けた鉄の塊は真っ二つに割れ、ガラガラと崩れ落ちた。
さらにフリントは、手のひらの先に展開した光の円盤のサイズをググッと拡大させた。光の円盤を前後左右へと滑らかに向きを変えて見せる。
「これは『バウンダリー・ハル』を一点に集中して固定密着させたものです。通常のバウンダリー・ハルと違って、衝撃を受けても拡散して消えません。わずかに魔力を消費しますが、ほとんどの攻撃や衝撃を完璧に防ぎ、弾き返すことができます。全方位を自動で守るバウンダリー・ハルと違って固定された範囲しか守れませんが……要するに『光の盾』ですね」
「おおッ……!」
バレルは興奮のあまり、パチパチと大きな拍手を送った。
「この短期間でこんなものを考案して形にしちまうとは! フリント、お前はやっぱり天才だな!」
「大袈裟ですよ、バレルさん。でも、そうやって褒めていただけると嬉しいです。作った甲斐がありました」
照れくさそうに頭の後ろを掻くフリント。
その時、「取り込み中すみません」と近隣住民の一人が顔を出した。
「お客様をお連れしたのですが……」
「おう、ありがとう! すぐに行くよ」
バレルが声をかけると、フリントも大急ぎでガレージへ戻り、腕のパーツを外して門の方へと向かうバレルに合流した。
門の近くには、見事な縫製で洗練された修道服に身を包んだ、見慣れた男が立っていた。
「おう! マルコじゃないか! よく来てくれたな!」
バレルは手を大きく振り、満面の笑みで歩み寄る。
マルコは丁寧に会釈したのち、生まれ変わりつつある拠点を驚きとともに見回した。
「すごいですね……この前に来た時とすっかり様変わりしていて。一瞬、どこへ向かえばいいのか迷ってしまいましたよ」
マルコは穏やかな笑みを浮かべた。
「マルコさん、よくぞお越しくださいました」
フリントが頭を下げると、マルコも優しく微笑み返す。
「久しぶりですね、フリント君。この度は……本当に大変でしたね」
辛い出来事の数々を気遣うマルコの言葉に、フリントは穏やかに首を振った。
「いえ……マルコさんが来てくれて、本当に嬉しいです」
パン、パンッ! とバレルが景気良く手を叩いた。
「堅苦しい挨拶はその辺にしておこうぜ。さあ、中に案内するよ!」
バレルが手招きし、マルコを拠点の中へと引き入れていく。
生まれ変わろうとするプラウデンの拠点には、いままさに未来を築く建築の音が響き渡っていた。
柔らかな日差しが注ぐ中、爽やかな風が駆け抜けていくのだった。




