第20話 眠れる美少年の秘密
ギルドマスター・ライオットから『グルナの迷宮』の調査を依頼されたケイとハル。
第20話、開幕です。
「もう、いやぁぁぁ! 死の弾丸!」
ハルの叫びと共に放たれた魔力の弾が、緑色の醜悪な肌を貫いた。
断末魔の叫びを上げることも許されず、ゴブリンは黒い霧となって霧散し、足元には小さな魔石だけが残される。
「……そんなに嫌わなくてもいいじゃないか。いつものハルらしくないよ」
苦笑いしながら魔石を拾い上げるケイに、ハルは般若のような顔で振り返った。
「無理よ、絶対に無理! あいつら、服を着てないじゃない! あんな、人間そっくりのアレをぶら下げたまま襲ってくるなんて、生理的に受け付けないわよ!」
ハルにとって、新緑の森は屈辱の地獄道だった。
ゴブリン。低能で、欲望に忠実な人型の魔物。彼らには恥じらいという概念がなく、ハルが最も忌避する「視覚的暴力」を股間に携えている。その一点において、彼らはハルにとって最強の天敵だった。
しかし、森の奥深くへと進むにつれ、その不快な影は姿を消していった。
代わりに現れ始めたのは、鋭い牙を持つレッドウルフや、猛毒を滴らせるポイズンスネークといった、より高レベルで危険な魔物たちだ。
「あ、ちょっと、ケイ!」
急に声を上げたハルが、茂みの奥へと駆け出していく。
ケイも慌ててその後に続いた。木々をかき分けた先、陽光がわずかに差し込む小さな広場に、ハルは立ち止まっていた。
「やっぱり……誰か倒れてる」
ハルの視線の先。柔らかな草の上に、一人の少年が横たわっていた。
青い髪を無造作に伸ばした、驚くほど整った顔立ちの少年だ。年齢は十七か十八。ケイやハルの「中身」と同じくらいの年頃だろう。
少年の傍らには、食べかけのキノコが転がっていた。それは紫色の笠に毒々しい斑点が浮き出た、見るからに禍々しい代物だった。
「解析」
ケイが鑑定スキルを発動させると、少年の胸元にウィンドウが浮かび上がる。
【眠りダケ】
毒キノコ。摂取すると強力な睡魔に襲われる。身体への毒性は低いが、効果時間は極めて長い。
「……毒キノコを食べて寝ちゃったみたいだね。このお腹の鳴り方からすると、相当空腹だったのかな」
「馬鹿じゃないの? あんな毒々しいの、普通食べる前に気づくでしょ……。でも、ここで放置したら魔物たちの餌食になるね」
二人は相談し、少年が目を覚ますまで周辺を警戒することにした。
数時間後、何度か襲来した魔物を片付け終えた頃、ようやく少年が「ん、んんっ……」と身じろぎを始めた。
「ここは……?」
「あんたが毒キノコを食べて爆睡してたから、ハルたちが守ってあげてたのよ。お礼くらい言いなさいよね」
腰に手を当てて言い放つハルに、少年は寝ぼけ眼をこすりながら、やがて状況を理解したのか顔を赤くして頭を下げた。
「あ、ありがとう! ボク、お腹が空きすぎて、どうしても我慢できなくて……。ボクの名前はルカ。君たちは?」
少年の名は、ルカ。
話を聞けば、彼は十七歳のC級冒険者だという。ギルドからの依頼を受け、ケイたちと同じ『グルナの迷宮』の調査に向かっていたらしい。
目的が同じということもあり、三人はパーティーを組んで進むことに決めた。
「バックスタブ!」
ルカの動きは鮮やかだった。背後から音もなく忍び寄り、二本の短剣で魔物の急所を瞬時に貫く。
彼は冒険者ギルドの正統な訓練とは異なる、独自のルートで『探索術』や『短剣術』を習得したのだという。罠の解除や隠し通路の発見を得意とする彼の存在は、これからの迷宮攻略において大きな力になるはずだ。
やがて、一行は水のせせらぎが聞こえる開けた場所に出た。
切り株がちょうど三つ、誂えたように並んでいる。
「二人とも、小さいのに本当に強いね。驚いたよ」
休憩中、ルカが感心したように呟いた。
ケイとハルは、もはや実力を隠すことを半分放棄していた。ライオットたち上層部にはバレているのだ。今の二人は『点火』や『死の弾丸』を惜しみなく使い、積極的に魔物を狩っていた。
「ルカもなかなかやるわね。その年で短剣術をそこまで使いこなせるなんて、すごいよ!」
ハルの言葉に、ルカは少しだけ寂しげに笑った。
ケイたちにとって、自分たちより「年上」のルカには敬語を使うべきだろう。しかし精神年齢は対等なのだからか、二人ともルカに敬語を使う気にはなれなかった。ルカも全く気にしていない様子なので、二人とも敬語は使わずに話していた。
「……ボク、ちょっと体を洗ってくるよ。汗をかいちゃって」
ルカはそう言って立ち上がると、水の音が響く方へと歩いていった。
「ケイ、あなたも汚れが目立つわよ。今のうちに洗ってきたら?」
「うん、そうだね。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
ハルに促され、ケイもルカの後を追うように水場へと向かった。
しばらく歩くと、木の枝にルカの服がかけられているのが見えた。どうやら、この奥に水浴びに適した場所があるらしい。
ケイは自分も服を脱ぎ捨て、全裸のまま水場へと踏み出した。
「ルカ、僕も来たよ」
岩陰で水に浸かっていたルカが、驚いたようにこちらを振り向いた。
「え?」
水面に反射する陽光の中、ケイの目は釘付けになった。
そこには——あるはずのものが、なかった。
代わりにあったのは、雪のように白く、柔らかな曲線を描く胸元。
ルカの顔が、瞬時に沸騰したかのように真っ赤に染まる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
森の静寂を切り裂くような、高く鋭い悲鳴。
ケイは呆然と立ち尽くした。
目の前にいる「美少年」ルカは、紛れもなく、女の子だった。
第20話をお読みいただきありがとうございます!
新キャラクター、17歳のC級冒険者「ルカ」が登場しました。
短剣使いとしての腕は確かですが、どこか抜けているような……?
そしてラストシーン、ルカは「女の子」でした。
「続きが気になる!」「ルカちゃん可愛いかも?」と思っていただけたら、
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