第19話 冒険者ギルドからの新たな依頼
前回の転移を経て、ついにギルドマスター・ライオットとの対面を果たしたケイたち。
物語がさらに深まり、新たな局面へと動き出す第19話、ぜひお楽しみください。
レーンの街に転送された四人は、ギルド内の喧騒とは隔絶された重厚な木製の扉の向こう——ギルドマスター室へと案内される。
マスター室の中央には、使い込まれた艶を放つ大きなテーブルと、上質な革張りのソファーが置かれていた。壁一面の本棚には膨大な資料が並び、室内に漂う古い紙と煙草の香りが、ここが権威ある場所であることを物語っている。
片側のソファーにライオットが深く腰を下ろし、その向かい側にケイ、ハル、ハンズ、ソフィの四人が並んで座った。ライオットの圧倒的な威圧感に、ハンズとソフィは緊張で身体を強張らせている。
「まずは、自己紹介だな。……形式的なものだが、今の私にはお主らの素性を正確に把握しておく必要がある」
ライオットの促しに応じ、四人は順に名乗りを上げた。その傍らで、シンディが慣れた手つきで書類を整理し、四人の冒険者プレートを回収する。彼女が魔法の刻印を施すと、鉄製だったプレートが鈍い銀色の光を放つC級のものへと書き換えられた。
「これで、お主らは晴れてC級冒険者だ。……さて、本題に入ろう。ザックから魔道具で連絡は受けているが、改めてサイクロプスの件、その一部始終を話してもらおうか」
今日、三度目となる説明。ケイは記憶を整理し、道中で遭遇したサイクロプスの不自然な出現位置、そして戦闘の経緯を丁寧に伝えた。
話し終えると、ライオットはしばらく黙考し、それから射抜くような視線をケイに向けた。
「なるほど。では、そのサイクロプスは、ケイ殿とハル殿……貴殿ら二人が討伐したということで間違いないな?」
「「はい」」
二人の返事に淀みはなかった。
実はウルドの街のギルドへ向かう道中、ケイとハルは二人で相談して決めていたことがあった。本来なら四人で力を合わせたと報告すべきかもしれない。しかし、自分たちの異常な戦闘力を隠すためにハンズやソフィを「共犯」にしてしまえば、彼らにも相応の、つまりは命に関わるような過酷な依頼が舞い込んでしまう可能性がある。彼らの身の丈に合わない危険を避けるためには、自分たち二人が「特別に強い」ことにした方が、結果的に二人を守ることになると判断したのだ。
「……ふむ。見たところ八歳程度の子供だが、どこでそれほどの強さを身につけた? C級に上がったばかりの冒険者が、単独あるいは二人でサイクロプスを仕留めるなど、通常ではあり得ん話だ」
ライオットの追求は鋭い。ケイとハルは、レベル二百というゲーム時代のステータスを半分引き継いでいるが、外見はあくまでも幼い子供なのだ。
「僕は、生まれつき魔力が過剰な体質なんです。それを上手く制御する方法を独学で学びました」
「ハルは……実家での厳しい鍛錬の成果です」
苦し紛れの言い訳に、ライオットは目を細めた。納得はしていないだろうが、眼前の子供たちが放つ「強者の気配」だけは本物だと認めているようだった。
「なるほどな。ついでに聞くが、二人の出身地はどこだ?」
「ミレニムです」
「クナンです」
二人は、ゲーム『エタコネ』で馴染み深い都市の名前を即答した。ミレニムは魔法都市、クナンは東方の剣術都市。だが、その答えを聞いた瞬間、ライオットの表情に微かな影が差した。
「ミレニムはいい。だが……クナンだと? ハル殿、クナンは60年前の『大崩壊』の際に滅亡したはずだ。今はただの廃墟、死の街として知られているが?」
(えっ……滅亡してるの!?)
二人の背中に冷たい汗が流れた。この世界は、ゲーム『エタコネ』の設定をベースにしながらも、歴史が残酷な形で塗り替えられている。
「え、えっと……おじいちゃんが、ハルの家系はクナンの生き残りの血を引いているって、そう言っていたんです! ハルはその跡継ぎとして、山奥で修行をしてきました!」
ハルが咄嗟に、かつ必死の形相で声を張り上げた。嘘を突き通そうとする彼女の必死さが、皮肉にもライオットには「隠したい過去を持つ者の態度」として映ったようだ。
「……ふむ。ならば、そういうことにしておこうか。詮索は無粋だな」
ライオットは深く椅子に背を預けた。
「でな、お主らの腕を見込んで、冒険者ギルドから直々の依頼がある。受けてもらえるかな?」
「……内容を伺ってもよろしいですか?」
ケイの問いに、ライオットは重い口を開いた。
各地で魔物の活性化と異常発生が相次いでいること。ゴブリンの不自然な進化、そしてサイクロプスの出現。その原因を突き止めるべく、冒険者ギルドは新緑の森の最奥にある『グルナの迷宮』に調査隊を送ったが、B級を含めた冒険者が誰一人として帰還していないのだという。
「高ランクの冒険者は各地の防衛で出払っている。実力があり、かつフットワークの軽い者が今、この街にはおらんのだ。ケイ殿、ハル殿。お主らに『グルナの迷宮』の調査と、行方不明者の探索を頼みたい」
ケイの記憶では、『グルナの迷宮』はレベル十前後の初心者向けダンジョンだったはずだ。しかし、この世界の『グルナ』はB級冒険者すら飲み込む魔窟へと変貌を遂げている。
四人は部屋の隅で額を寄せ合った。
「ケイ君が行くなら、私も、私も行くよ!」
ソフィが不安げに、しかし決然とした表情でケイの服の裾を掴む。だが、その肩を静かに制したのはハンズだった。
「よせ、ソフィ。これは俺たちの手に負えるヤマじゃねぇんだ」
ハンズの声には、自嘲と、そして仲間を思う理性が籠もっていた。
「姐さんやケイは、俺たちとは住む世界が違う。ここで無理についていけば、俺たちが姐さんの足を引っ張るだけだ」
ハンズの言葉は重かった。自分たちの実力不足を認め、最も信頼する「姐さん」を危険に晒さないための、彼なりの誠実な答えだった。
ここで、一時行動を共にしていたパーティーは解散することに決まった。
ライオットから支払われた報酬と、換金したサイクロプスの魔石を合わせ、計40万アデナ。ケイはそこから10万アデナずつを小袋に分ける。ハンズとソフィは受け取りを拒否したが無理やり握らせた。
ギルドを出た四人は、夕闇に包まれ始めた街角で、それぞれの道を歩み出した。
ハンズとソフィの背中が遠ざかるのを、ケイとハルはいつまでも眺めていた。
新たな調査任務、そして未知の難易度と化した『グルナの迷宮』への出発は明朝。
夜の帳が下りる中、二人は決意を新たに、物資の補充ために露店街へと向かった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はライオットとの緊張感ある対話から、共に歩んできたハンズ、ソフィとの別れまでを描きました。
ゲームの知識が通用しない世界の変容や、ハンズが見せた意外な一面など、執筆しながら私自身も深く考えさせられる回となりました。
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これからも「エタコネ」をよろしくお願いいたします。




