第18話 古代の遺物と秘密の誓約
レーンの街を離れ、ついに辿り着いたウルドの街。
新たなステージで、ケイたちをどのような運命が待ち受けているのか。
物語が大きく動き出す一話を、ぜひお楽しみください。
三日間の過酷な旅路の果てに、ケイたちはついに目的地である『ウルドの街』へと足を踏み入れた。
街の入り口で衛兵による厳重な検問を終え、一行が最初に向かったのは、街の中央に位置する冒険者ギルドだ。
建物自体の造りはレーンの街のギルドと似ていたが、その規模は一回り大きい。一歩足を踏み入れれば、そこには昼間から酒を煽る荒くれ者たちと、慌ただしく立ち働く職員たちの喧騒が渦巻いていた。
「やっぱり、どこのギルドも一階は酒場が併設されてるんだね」
ケイが物珍しそうに辺りを見渡しながら呟くと、横を歩くハルも、呆れたように肩をすくめた。
「本当ね。冒険者って、お酒を飲まないとやってられない職業なのかしら?」
そんな二人の背後から、低姿勢を極めたハンズが揉み手でもせんばかりの勢いで声をかけてきた。
「姐さん、早速【報告カウンター】に行きやすか? それとも、まずは一服されやすか?」
「……ハンズ。一応聞いておくけど、このパーティーのリーダーって誰だったかしら?」
ハルが冷ややかな視線を向けると、ハンズは「滅相もねぇ!」とばかりに首を左右に激しく振った。
「何をおっしゃいやす! 姐さんを差し置いてリーダー面できる野郎なんて、この世にいやしやせんよ! さぁさぁ、報告をお願いしやすぜ!」
完全に力関係が逆転していた。
もはや反論する気力も失せたハルは、深いため息を一つ零すと、諦めたように【報告カウンター】へと足を向けた。
* * *
カウンターに座っていたのは、エレナという名の愛想の良い人族の女性だった。
「はい、こんにちは! 本日は依頼の報告ですか?」
「いえ、『レーンの街』からC級昇級試験の荷物を届けに来ました」
ハルがそう告げて、背負っていた——というより、街の手前でケイの『空間収納』から取り出したばかりの——指定の荷物をカウンターに置く。
エレナは手際よく荷物と書類を照合し、確認の印を魔法のスタンプで押していく。
「はい、確かに受け取りました。これで届け出は完了です。皆さんはそのまま『レーンの街』に帰還されれば、正式にC級への昇格となりますので、道中お気をつけてお帰りくださいね」
どうやら、ここが旅の折り返し地点ということらしい。
帰りもまた三日間の徒歩移動を強いられるのかと思うと、流石に気が重くなる。特に道中、ケイが用意していた作り置きの料理は、ハンズとソフィの旺盛な食欲によって既に底を突きかけていた。
「あの、ここで魔石の買い取りをお願いできますか?」
ケイがそう尋ねると、エレナは「ええ、もちろんですよ」と笑顔で頷いた。
ケイは『空間収納』の亜空間へと手を差し込み、この数日間で回収してきた魔石をすべてカウンターの上にぶちまけた。
「はい、では調べますので少々お待ちを……」
エレナは虫眼鏡のような鑑定用の魔道具を手に取り、手際よく魔石を一つずつ選別していく。
「ブルーウルフが二十個、フォレストオークが十個……ふむふむ……え?」
順調に鑑定を進めていたエレナの手が、ある一点でピタリと止まった。
彼女の視線の先にあるのは、他の魔石とは明らかに格の違う、圧倒的な魔力の脈動を放つ巨大な魔石。
「あ、あの……これ、一つ目巨人の魔石ですよね? 一体どうして、C級昇格試験の道中でこのようなものが……?」
エレナの声が、わずかに震えていた。
それもそのはずだ。サイクロプスは本来、レベル七十以上の高ランク冒険者がパーティーを組んで挑むべき難敵である。それをまだC級にもなっていない子供たちが持ち帰ってきたのだ。
ケイは代表して、街道で遭遇したイレギュラーな事態について、事実のままを簡潔に説明した。
「し、少々お待ちください……っ!」
ケイの話を聞き終えるなり、エレナは顔を青くして立ち上がり、奥の部屋へと駆け込んでいった。
数分後、戻ってきた彼女の顔には「事態は深刻だ」と書かれていた。
「お待たせしました。ギルドマスターがお呼びですので、皆さん別室へお越しいただけますか?」
「……嫌な予感がするわね」
ハルが小声で呟くが、拒否権はないようだった。四人はエレナに案内され、ギルドの最奥にある重厚な扉の向こうへと足を踏み入れた。
* * *
「初めまして。冒険者ギルド・ウルドの街支部のギルドマスター、ザックです」
別室で待っていたのは、長身で穏やかな雰囲気を纏った人族の男性だった。
ギルドマスターという肩書きから連想される威圧感はなく、むしろ高級官僚のような知的な印象を受ける。
「早速ですが、先ほどお伺いしたサイクロプス遭遇の件、詳しくお聞かせいただけますか?」
ザックの問いに、ケイは再び当時の状況を一部始終報告した。
本来出現するはずのない場所での出現。そして、それを討伐した経緯。
ザックは時折、鋭い眼光を光らせながらケイの話に耳を傾けていたが、やがて深く椅子に背を預けて息を吐いた。
「なるほど、理解しました。……皆様、これより言うことは非常に重要です。そして、絶対に内密にしていただきたい」
ザックの声のトーンが一段低くなる。
「現在、各地で魔物の活性化とイレギュラーな出現が報告されています。混乱を防ぐため、この事実はまだ伏せられているのですが……事態は一刻を争います。そこで皆様には、早急に『レーンの街』へ戻り、現地での状況をライオットに伝えていただきたいのです」
「早急にって……早くても三日はかかるわよ」
ハルの率直な意見に、ザックは静かに首を振った。
「そのための特例です。これからお見せするものを、決して他言しないと誓約書にサインしていただけますか? それと引き換えに、皆様を『一瞬』でレーンの街までお送りしましょう」
一瞬。その言葉に、ケイとハルは顔を見合わせた。
何か大きな陰謀に巻き込まれつつある予感はあったが、三日間の徒歩を回避できる魅力には勝てなかった。四人は促されるままに、魔法的な拘束力を持つ誓約書に署名を行った。
* * *
案内されたのは、ギルドの地下深くにある石造りの広大な空間だった。
一番奥にある一段高い台座には、複雑怪奇な幾何学模様が刻まれた、鈍い光を放つ魔法陣が据え付けられていた。
「あれは古代の遺物、転移装置です。魔力の消費が激しく、国家間でも限られた者しか使用を許されていないものですが……背に腹は代えられません」
「ワープポータル……本当にあったんだ」
ケイは感嘆の声を漏らした。ゲームのエタコネでは、ファストトラベルとして当たり前のように利用していたシステムだが、現実のこの世界では伝説級の遺物として扱われているらしい。
「それでは、魔陣の中央へ。……レーンの街のライオットによろしく伝えてください」
四人が台座に乗ると、足元の文様が激しい青白い光を放ち始めた。
「わっ……!」
視界がホワイトアウトし、浮遊感に包まれる。
一瞬、重力が消失したような感覚の後。
次に目を開けた時、そこは既に『ウルドの街』の地下室ではなかった。
ひんやりとした湿った空気。そして——。
「にゃにゃ!おかえりにゃ〜!」
目の前で笑顔で手を振っているのは、猫耳の受付嬢シンディだった。
そして、その傍らには、腕を組み不敵な笑みを浮かべて立っているライオンの獣人。
レーンの街の冒険者ギルドマスター、ライオットが、まるで彼らの帰還を予見していたかのように待ち構えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回、ついに古代の遺物による「転移」が登場しました。
徒歩三日の距離を一瞬で移動するワクワク感、ファンタジーの醍醐味を感じていただけていれば嬉しいです。
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次回の更新も楽しみにお待ちいただければ幸いです。




