第15話 温かいご飯と手作りお風呂の夜。
第15話お届けします!
過酷な昇級試験の道中、ついに訪れた夜の休息。
しかし、ケイのユニークスキル「万物創造」が、異世界の野営の常識を根底から覆します……!
ケイが『万物創造』で作り出した石の家に入った四人は、それぞれの個室となる部屋に魔石で作ったランタンを設置していく。
一通りの荷解きを終えると、全員が自然と中央のリビングへと集合した。リビングの真ん中には、これもケイが岩をくり抜いて作った立派な石のテーブルと椅子が据え付けられている。
「やっぱり、ちょっと薄暗いかな……」
テーブルの中央に置かれたランタンの灯りを見つめながら、ケイがぽつりとぼやいた。
現代日本の明るい蛍光灯やLEDの光に慣れきっているケイやハルにとって、ランタンの炎の揺らめきだけでは、どうしても薄暗く感じてしまうのだ。
「何言ってんだ。野営で雨風が凌げて灯りがあるなんて、十分すぎるだろ!」
「そうです、そうです! こんな立派なお家で休めるなんて思っていませんでした」
ハンズとソフィは、ケイの贅沢なぼやきを即座に否定した。彼らにとって、魔物の脅威に晒される野外において、これほど安全で快適な拠点は王宮にも等しい価値があった。
「それよりも、飯だ! 飯!」
ハンズはそう言うと、自身のリュックサックから硬そうな干し肉を取り出してテーブルに置いた。ソフィが取り出したのも、カチカチに乾燥した魚の干物だった。
やはり、この異世界における野宿となると、日持ちのするこういった質素な保存食が基本になってしまうのだろう。
「ケイ、ハルたちも食べようか!」
「う、うん」
ハルに促され、ケイは『空間収納』の亜空間を開いた。
そして、出発前に宿屋で作っておいた『酢豚』と『卵焼き』の入った容器を取り出し、テーブルの上へと並べた。
パカッ。
蓋を開けた瞬間、閉じ込められていた熱気が解放され、ほわぁっと白い湯気と食欲をそそる匂いがリビングに立ち込めた。
どうやらケイの『空間収納』の内部は、完全に時間が停止しているらしい。
「お、おい……お前の『空間収納』って、まさか時間停止の機能がついてるのか!?」
湯気を立てる出来立ての料理を見て、ハンズが目ん玉が飛び出そうなほど驚愕した顔を見せた。
「い、いえ、生活魔法にそんな機能があるなんて話、聞いたことないです……!」
ソフィも信じられないといった様子で首を横に振る。
どうやら、『空間収納』で時間が停止するのはケイだけの特例のようだ。彼が持つ膨大な魔力が、本来の魔法の枠を超えてそのようなチート機能まで付与してしまったのだろうか。
「え、えっと……生まれつき魔力が多いもので、その影響かもしれませんね……」
ケイは苦笑いを浮かべて適当にごまかしたが、ハンズとソフィはどうにも納得できていない様子だった。
その後、興奮気味のソフィから聞いた話によると、物を入れた状態のまま時間を停止できる『アイテムボックス』と呼ばれる魔道具は確かに存在するらしい。しかしそれは国宝級の代物であり、一個売れば数世代は遊んで暮らせるとてつもなく高価な伝説のアイテムなのだそうだ。
そんな凄まじい機能で保存されていた料理を前に、ハンズとソフィは酢豚と卵焼きを穴のあくほど見つめ、喉をゴクリと鳴らしていた。
あまりにも食べたそうな顔をしているので、結局四人みんなで料理をシェアして食べることになった。
(……まぁ、今日一日しっかり前衛で頑張ってたしね)
ハルも特に文句を言うことはなかった。ハンズの態度は気に食わないが、旅の仲間として前線で体を張って戦っていたのは事実だ。彼女なりに、その働きはきちんと認めているのだろう。
お裾分けをもらったハンズもソフィも、「こんな美味い飯、食ったことがない!」と涙ぐむほど感動しながら、出来立ての料理を平らげていた。
食後、ケイは浴室として作った石の部屋に『水生成』で水をたっぷりと張り、『点火』の魔法で適温になるまで沸かして即席の風呂を完成させた。
一番風呂を堪能して上がってきたハンズは、「なんで命懸けの野営をしてるのに、街の家にいる時よりいい生活ができるんだ……」と、呆れを通り越して深く感動していた。
何はともあれ、気に入ってもらえたようで何よりだ。
一通りの準備を終えた四人は、それぞれの個室へと戻り、ベッド(もちろんこれもケイの万物創造によるものだ)で就寝した。
* * *
深夜。
環境の変化からか少し寝付けなかったケイは、夜風に当たろうと一人で石の家の外に出てきていた。
(……誰かいる?)
ふと気配を感じたケイが辺りを見渡すと、そこにはハンズの姿があった。
彼は池のほとりの大きな岩に腰を下ろし、夜空に浮かぶ月をじっと見上げている。何か重い考え事をしているような、昼間とは違う静かな横顔だった。
「眠れないんですか、ハンズさん」
ケイは静かに声をかけ、少し距離を空けて彼の隣に座った。
「あ、ああ……ちょっとな」
「何か悩み事でもあるんですか? 僕でよければ聞きますよ」
背中から哀愁のようなものを感じ取ったケイが問いかけると、ハンズは小さく息を吐き、ポツリポツリと胸の内を打ち明け始めた。
「実はな……」
ハンズの話によれば、二日前に彼の実の母親が倒れてしまったのだという。
あの日、冒険者ギルドでハルに腕相撲で負けた後、ふてくされて家に帰ると、母親が倒れていたそうだ。一命は取り留めたものの、未だに危険な状態が続いているらしい。
当然、高度な治療や薬には莫大なお金がかかる。今まで荒れた生活をして親に散々迷惑をかけてきたハンズは、母親が倒れたことでようやく目を覚まし、心を入れ替えて親孝行をしようと決意したのだそうだ。だからこそ、C級昇級試験にも志願したのだろう。
その真摯な事情を聞き、ケイはハンズという男を心から見直した。
それからは、二人は夜の池のほとりで色々な話をした。冒険での失敗談や、昔やらかした馬鹿な話など、年齢の差を忘れて語り合った。
「じゃあ、僕はこのあたりで戻りますね」
すっかり体が冷えてきた頃、ケイは立ち上がって衣服の砂を払った。
「あ、ハンズさん!」
「ん?」
「お母さん、よくなるといいですね!」
ケイが笑顔でそう言うと、ハンズは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「あ、ありがとな。……お前、案外いい奴だな」
月明かりの下で交わされたその言葉に、ケイは小さく手を振って石の家へと戻っていった。
* * *
翌朝。
「よし! ケイ、今日も張り切って行くぞ!」
「はい! 任せてください、ハンズさん!」
朝日が昇るなり、ハンズとケイはまるで長年の親友のように肩を並べ、満面の笑みで先陣を切って歩き出していた。
「ねぇ、ハルちゃん……あの二人に一体何があったの?」
「さ、さぁ……?」
完全に二人の世界に入っている男たちを後ろから見つめながら、ソフィの問いかけに、ハルもただ困惑して首を傾げることしかできなかった。
第15話をお読みいただきありがとうございます!
「時間停止」機能付きの空間収納に、崖を削って作る即席の石造りハウス。
冒険の厳しさを全否定するかのような、ケイの快適すぎるライフスタイルに、ハンズやソフィも驚きを通り越して感動(?)しているようです。
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