第13話 ギルドマスターの嘘と特例の昇級試験
平和なレーンの街に、何やら不穏な(?)空気が漂い始めます。
一方、当の本人たちは相変わらずのマイペース。
旅の準備を整えるケイとハルの前に現れた「意外な人物」とは……?
新展開の第13話、お楽しみください!
「シンディさん、今日もスキルか魔法を習いたいんですけど」
冒険者ギルドへやって来たケイとハルは、さっそく専属担当となった受付嬢のシンディに声をかけた。昨日あれだけ無双したのだ、今日はもっと高度なものを習得しようと意気込んでいたのだが――。
「え、えっとにゃ……スキルと魔法は、一人一種類を覚えたら、それ以上は冒険者ギルドから紹介状を書けないっていう決まりがあるんだにゃ……」
シンディは気まずそうに目を泳がせながら、二人の申し出を断ってきた。
(ゲームの仕様とは少し違うんだな……)とケイとハルは顔を見合わせたが、ギルドの職員である彼女がそう言うのなら仕方がないと、素直に納得することにした。
だが、これはシンディの真っ赤な嘘である。
昨日の夜、ギルドマスターであるライオットから「あの子たちにこれ以上紹介状を渡すな! 街が滅びる!」とキツく通達が来ていたため、角が立たないように断るための口実にすぎなかった。
「そ、それでにゃ! ケイ君とハルちゃんには、C級への昇級試験を受ける権利ができたにゃ! よければ今日、その試験を受けてみないかにゃ!?」
話題を逸らすように、シンディは勢いよく身を乗り出してとんでもないことを言い出した。
冒険者になってから、二人がこなした依頼は前回のゴブリン討伐のたった一度きりだ。しかしシンディ曰く、その時にゴブリンメイジやゴブリンジェネラルといった上位種を討伐した功績が高く評価され、ギルドマスターから特例として昇級が認められたのだという。
これもまた、ギルド側の建前にすぎない。
冒険者ギルドとしては、実力のある高ランクの冒険者は喉から手が出るほど欲しい人材だ。秘密裏に二人の異常なステータスを把握しているギルド側は、この二人ならC級に上げても全く問題ないと判断し、ライオットが強引に特別許可を出したのだった。ギルドが冒険者のステータスを勝手に覗き見ていることは、冒険者側には通達していないため、討伐の功績というもっともらしい理由をつけたのである。
「「もちろん、受けます!」」
ケイとハルは即答した。
冒険者ランクが上がれば、より報酬が良く効率の良い依頼を受注できるようになる。Cランクの依頼でも、今の自分たちのステータスならば全く問題なくこなせるはずだ。そう確信していた二人は、迷うことなく承諾した。
「じゃあ、詳しい説明をするにゃ」
ホッと胸を撫で下ろしたシンディが、C級昇級試験の概要を説明し始める。
試験の内容は、レーンの街の北に位置する『ウルドの街』の冒険者ギルドまで、荷物を届けるというものだった。ウルドの街はここから徒歩で三日ほどの距離にあり、道中での馬車など乗り物の使用は一切禁止されているそうだ。
さらに、他にもC級昇級試験を受ける冒険者が2名いるため、彼らとパーティーを組んで一緒に行くことが条件となっていた。
試験の準備金として、ギルドから一人につき1万アデナが支給されるという。そのお金で必要な旅の装備や食料を揃え、本日の正午にギルド前に集合することになった。
* * *
市場での買い物を手早く済ませたケイとハルは、一度宿屋『コッコ亭』の自室へと戻ってきていた。
ちなみにコッコ亭は、二人で月5万アデナを支払えば1ヶ月間食事付きで部屋を借りられるシステムだったため、すでに手持ちの資金で長期契約を済ませていた。そのため、いつでも好きな時に拠点として使うことが出来るのだ。
「じゃあ、ケイ、やってみて!」
「うん! 『万物創造』!」
床の上に広げたのは、市場で購入してきた生の肉の塊と野菜だ。
ケイがスキルを発動して念じると、次の瞬間、無造作に置かれていた食材の山が、湯気を立てる熱々の『酢豚』へと姿を変えた。
(……やっぱり、予想通りだ)
以前、ただの布生地にスキルを使ってハルの下着を作ることができた。魔石という無機物からでも服は作れたが、本来の素材(布)があった方が遥かにクオリティの高いものが完成したのだ。
それならば、実際の『食材』を揃えれば、完成された『料理』も作り出せるのではないか。そう思って試してみたところ、大成功だった。
二人は出来上がった酢豚を購入してきた保存用の容器に詰め、ケイが昨日覚えたばかりの生活魔法『空間収納』の亜空間へと放り込んだ。
「次は卵焼き!」
「わかった! 『万物創造』!」
ケイは購入した卵にスキルを使い、ふっくらとした黄金色の卵焼きを作り出す。
こんな調子で、カレーやシチュー、ハンバーグなど様々な料理を魔法の力で大量生産し、全て『空間収納』に収納していった。
出発前、1階に降りて女将さんに「1週間ほど帰らない」と伝えると、女将さんは道中で食べなと手作りのサンドイッチを包んでくれた。二人はそれもありがたく『空間収納』にしまい、再び冒険者ギルドへと向かった。
* * *
正午少し前。冒険者ギルドの集合場所に到着すると、そこにはすでに同行する二人の冒険者の姿があった。
一人は、地味なローブをまとった10代後半くらいの大人しそうな女の子。
そしてもう一人は――見覚えのある、赤いモヒカン頭の男、ハンズだった。
「お、お前はこないだのガキ! 俺に子守りまでしろって言うのか!?」
「何よ! あんたこそ、ハル達の足を引っ張らないでよね!」
顔を合わせた瞬間、ハルとハンズは火花を散らしていきなり口論を始めた。
「ま、まぁまぁ、落ち着くにゃ! これから三日間、一緒に旅をする仲間にゃ! とりあえず自己紹介をするにゃ!」
見送りに来ていたシンディが、慌てて二人の間に割って入って喧嘩を止める。
シンディの促しに従い、しぶしぶといった様子で四人は自己紹介を始めた。
「ハ、ハンズだ。30歳だ。スキルは剣技を少し使える。よ、よろしくな」
「ソフィです。18歳です。火魔法を少々使えます。よろしくお願いします」
大人二人の挨拶が終わり、次はハルの番だ。ハルはハンズを完全に無視して、ソフィの方だけをまっすぐに見つめた。
「ハルです。8歳です。剣技を使えます。よろしくお願いします、ソフィさん」
あからさまにハンズへの挨拶を放棄したその態度。
ハンズの額に青筋が浮かぶが、シンディが必死に目で制止する。
最後に、ケイが一歩前に出た。
「ケイです。8歳です。生活魔法を使えます。よろしくお願いします」
こうして、年齢も能力もバラバラな四人の自己紹介が終わった。
「と、とりあえず……最年長の俺がリーダーだな!」
ハンズが咳払いをしながら宣言する。
いつもなら真っ先に噛みつくハルだったが、これ以上こいつと関わって反論するのも馬鹿らしいと思ったのか、完全に無視を決め込んで一言も発しなかった。ソフィも特段反対する様子はなかったため、とりあえずこの即席パーティーはハンズがリーダーを務めることで決定したのだった。
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ケイの『万物創造』の使い道が、まさかの「酢豚」と「卵焼き」……! 異世界でも美味しいご飯は旅の基本ですね。
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