第12話 常識外れの魔力と剣技が、平和なレーンの街を震撼させる件
第12話をお読みいただきありがとうございます!
見た目は子供、中身は日本一(?)の凸凹コンビが、大暴れします。
どうぞお楽しみください!
レーンの街の外れにひっそりと佇む『生活魔法魔法所』。
今日、ケイはこの場所で生活魔法の講習を受けていた。
「生活魔法は、ここ20年ほどで急速に発達した新しい魔法体系なんですよ」
穏やかな笑顔でそう語るのは、講師を務める人族の女性、ベネッタだ。今日の受講生はどうやらケイ一人のようだった。
ベネッタの説明によれば、生活魔法は戦闘における実用性はほぼ皆無だが、日常生活を豊かにする非常に便利な魔法だという。最大の利点は、燃費の良さと『詠唱』が必要ないことだ。
この世界において、生活魔法以外の攻撃魔法や回復魔法を発動させるには、最低でも100文字、高度なものになれば数千文字にも及ぶ呪文の詠唱が必須となるらしい。
(ゲームの『エタコネ』では、ボタン一つで発動できたのにな……)
現実世界における魔法の行使は、想像以上に労力を伴う作業なのだとケイは痛感した。
一通りの講習を終え、ケイは現在、自身の体内に魔力を循環させる訓練を行っていた。
生活魔法は詠唱が不要な代わりに、全身に魔力を巡らせ、その魔力を魔法に変換して発動させる。この循環作業は、術者が持つ魔力量が多ければ多いほどスムーズに行えるそうだ。
その点、レベル100相当という規格外のステータスを持つケイにとって、魔力循環など息をするよりも簡単なことだった。
「はい、はい! とてもいい感じですよ、ケイ君! じゃあ、まずは『点火』の魔法を試してみましょう。体を巡る魔力を、熱と火に変換するイメージです。さぁ、そこの蝋燭に火を灯してみて!」
ベネッタが指差したテーブルの上には、一本の細い蝋燭が立てられている。
ケイは言われた通り、体内の魔力を火へと変換するイメージを強く念じた。
「点火!」
直後、ゴォォォォッ!!という轟音と共に、蝋燭から天井に届くほどの巨大な火柱が立ち上った。
一瞬の閃光の後、蝋燭は跡形もなく燃え尽き、テーブルの表面までが黒焦げになっていた。
「え、えっと……こんな感じでいいんでしょうか?」
「ち、ちょっと……威力が強すぎましたかね……」
顔を引きつらせるベネッタ曰く、普通は蝋燭の先端に小さな灯火がポッと点く程度らしい。ケイの持つ魔力量が桁外れなせいで、想定を遥かに超える火力が出力されてしまったのだ。
その後もケイの規格外な魔法行使は続いた。
飲用可能な水を作り出す『水生成』では、通常ならコップ一杯、多くても1リットル出せれば上出来なところを、ケイは数十リットルもの水を一気に溢れさせ、魔法所内をずぶ濡れの大惨事にしてしまった。
対象物の名前を調べる『解析』では、通常は物の名称しか読み取れないはずが、ケイがポーションに向けて使用したところ、その成分や回復効果の数値まで詳細に読み取ることができた。
そして最後に、亜空間に物品を収納する『空間収納』。
一般的な術者であれば、大きめのリュックサック程度の容量が限界だという。しかし、ケイが発動した亜空間は底が全く見えなかった。試しに魔法所内にある机や本、予備の機材など入れられる物を全て放り込んでみたが、それでもまだ空間には余裕があり、どれだけの容量があるのか調べようがなかった。
以上の四つが、この魔法所で教えることのできる全ての生活魔法だった。
通常であれば、これらを全て習得するのに最低でも1ヶ月の厳しい修行が必要となる。しかし、ケイはその膨大な魔力量と持ち前の適応力により、たった1日で全カリキュラムを終えてしまったのだった。
* * *
ケイが魔法所を水浸しにしていた頃。
冒険者ギルドが提携する『剣技道場』では、一人の男が深く頭を抱えていた。
男の名はエリオット。ギルドマスターであるライオットの実の弟であり、この道場を任されている師範代である。
彼が頭を悩ませている原因は、道場の中央にちょこんと立っている、ハルと名乗る8歳の少女だった。
冒険者ギルドからの紹介状を持ってきたとはいえ、剣技の世界は8歳の幼女が遊び半分で習得できるほど甘いものではない。
そう判断したエリオットは、門下生と軽く手合わせをさせ、多少痛い目を見せて早々に帰らせようと目論んでいた。
しかし――。
(……この少女、強すぎる……!)
手合わせに出た門下生たちが、文字通り手も足も出ずに転がされているのだ。すでに五人もの屈強な男たちが、木剣の一撃で床に這いつくばっている。
「ブリッツ!」
「はい!」
「次はお前が行け! スキルを使っても構わん!」
「えっ? よろしいのですか?」
「構わんと言っているだろう!」
痺れを切らしたエリオットは、道場で一番の実力を持つ師範のブリッツに指示を飛ばした。
ここまで一方的に道場の看板を汚されて、このまま無傷で帰すわけにはいかなくなったのだ。
「では……はじめ!」
エリオットの合図と共に、ハルとブリッツの手合わせが開始された。
「『真空斬』!」
まずはブリッツが遠距離から先制攻撃を仕掛ける。刃から放たれた見えない斬撃がハルへと飛ぶが、彼女は紙一重の最小限の動きでそれをスッと躱した。
「ならば!『閃光斬』!」
ブリッツが強烈な踏み込みと共に、通常の三倍の威力を持つ神速の斬撃を放つ。
対するハルは、避けることなく構えた竹刀でそれを受け止めようとした。
(もらった!)
エリオットは思わずニヤリと笑う。幼い少女の細腕で、師範の全力のスキルを受け切れるはずがない。竹刀ごと吹き飛ばされるはずだ、と。
しかし、激しい衝突音と共に、ハルは一歩も退くことなく、その斬撃を完全に受け止めていた。
「なっ……!?」
驚愕するブリッツをよそに、今度はハルが踏み込み、鋭い刺突を放つ。
「『受け流し』!」
ブリッツは咄嗟に防御スキルを発動させ、ハルの攻撃を剣の腹で受け流して隙を作ろうとした。
しかし、ブリッツがスキルを発動して受け流すよりも早く、ハルの竹刀はブリッツの急所へと直撃していた。
弾き飛ばされたブリッツの竹刀が、乾いた音を立てて道場の床を転がる。
「……まいりました」
ブリッツは膝をつき、力なく負けを認めた。
この道場で教えられる最高位のスキルを全て打ち破られ、防がれたのだ。言い訳の余地のない完敗だった。
その後、エリオットは半ば自暴自棄になりながら、ハルに『真空斬』『閃光斬』『受け流し』の極意を教えた。ハルはいとも簡単にその三つのスキルを習得し、「ありがとうございました!」と元気よく挨拶をして帰っていった。
* * *
その日の夜。
冒険者ギルドの最奥にあるマスター室では、深刻な顔をした大人たちが集まっていた。
「ライオットさん! あのケイ君って子は一体何者なんですか!?」
「ハルって嬢ちゃんは何者なんだよ、兄貴!」
生活魔法魔法所の講師ベネッタと、剣技道場の師範代エリオットが、ギルドマスターのライオットの机にバンッと両手をついて詰め寄っていた。
二人はそれぞれ、今日体験した規格外の二人の才能――いや、理不尽なまでの暴力的なセンスについて熱弁を振るう。
「シンディの話では、二人はこれから全てのスキルと魔法を習得したいって息巻いていたらしいぞ」
ライオットが報告書を見ながら、真顔で二人に伝えた。
「やめとけ!!」
「絶対にやめた方がいいです!!」
ベネッタとエリオットは、血相を変えて猛烈に反対した。
「あんなのを見せられたら、道場の門下生がみんな自信をなくして引退しちまうぞ!」
「あんな魔力量で、生活魔法ではなく攻撃魔法を暴走させでもしたら……レーンの街が一瞬で消滅しますよ!」
二人の切実な訴えに、歴戦の猛者であるライオットも冷や汗を拭う。
どうやってあの規格外の二人を宥め、これ以上の道場破りを阻止すべきか。ギルドマスターの頭痛の種は、また一つ増えてしまったようだった。
第12話、いかがでしたでしょうか?
ハルの剣道の腕前は、前世での努力の賜物だったりします。
少しでも「面白い!」「ハル無双もっと見たい!」と思っていただけたら、
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