第11話 日本へ帰りたい幼女と、彼女を守りたい少年
今回は、冒険者としての足場を固める「スキル習得」のお話です。
ゲームではない、一度きりの命。
その重みを知った二人が選ぶ「力」とは――。
ぜひ最後までお楽しみください!
ゴブリン討伐から一夜明けた翌朝。ケイとハルは宿屋『コッコ亭』の1階にある酒場で、朝食の温かいスープとパンを口に運びながら、今後の活動についての打ち合わせを行っていた。
「ハル、ふと思ったんだけどさ……今後も冒険者としてやっていく必要って、本当にあるのかなと思ってさ」
「どういうこと?」
首を傾げるハルに対し、ケイは頭の片隅に引っかかっていた懸念を口にする。
「えっとさ、この世界はゲームの『エタコネ』の世界とよく似ているけど、決定的に違う部分が一つあるんだ。それも、扱いを間違えたら致命的な違いがね」
「何かな?」
「ここでの『死』は、実際の死に直結するってことだよ」
それを聞いたハルは、ハッと息を呑んだ。
ゲームのエタコネでは、プレイヤーが死亡しても少々のデスペナルティを受けるだけで、すぐに拠点からやり直すことが可能だった。
しかし、現実となったこの異世界ではそれが出来ない。実際、ケイとハルはゲーム内でトッププレイヤーとして君臨していたが、強力なボス戦や初見のギミックなどでは何度も全滅を経験している。
この世界では、その『一度の全滅』が自らの命の終わりを意味するのだ。
それならば、無理に危険な冒険者稼業など続けなくてもいいのではないかと、ケイは考えたのだった。
百歩譲って冒険者を続けるにしても、昨日のゴブリン退治のように比較的危険の少ないD級の依頼だけをこなしていれば、十分に食べていけるだけの収入が得られることも証明されたのだから。
ケイの現実的な意見を聞き、ハルは少し考え込むように視線を落とし、やがてゆっくりと口を開いた。
「でもね、この世界って日本みたいに安全な世界じゃないでしょ? 魔物もいるし、この前のハンズみたいに絡んでくる無法な輩もいっぱいいると思うんだ。今のハル達の強さが、この世界の基準でどの位置にいるのかも、まだ全くわからないし」
「それは……確かにそうだよね」
「だからこそ、自分の身を自分で守るためにも、少しでも強くなっておく必要があるんじゃないかな?」
ハルの言うことはもっともだった。
この世界の治安や安全面は、現代の日本と比べれば遥かに低いだろう。自己防衛のための力は、あるに越したことはない。
「それにね」
「それに?」
「ハル達がこの世界に転生したのには、きっと何か意味があるんじゃないかって思うんだ。なんていうか、使命みたいなものがあって、それを達成することで……日本に帰れるんじゃないかなってね」
ハルは、どこか遠くを見つめながらニコリと笑って言った。
その健気な笑顔を見て、ケイは純粋に『可愛い』と思うと同時に、ハッとさせられた。
現実の日本で過酷ないじめに遭っていたケイは、元の世界に帰りたいなどとは微塵も思っていない。しかし、ハルは別だ。彼女には帰るべき場所があり、帰りたくて仕方がないのだ。
(……ならば、その手伝いをしてあげたい)
ケイは密かに決意を固めた。たとえハルと一緒に帰還することになったとしても、この異世界で自分自身を極限まで鍛え上げておけば、もう以前のように惨めな思いはしなくても済むのではないか。ケイはそんな希望を抱いたのだった。
* * *
朝食を終えたケイとハルは、冒険者ギルドへと足を運んでいた。
今日の目的は依頼を受けるためではない。新たなスキルや魔法を習得するためだ。
ゲームのエタコネにおいては、スキルは街の道場などに何度も通い、ミニゲームや専用のクエストをクリアすることで覚えられた。魔法に関しては、魔法書を入手して使用し、定められた歩数をフィールドで歩くことで習得できた。
そして冒険者ギルドでは、初期スキルの習得クエストを受けられるほか、初級の魔法書も販売されていたのだ。
ギルドに到着した二人は、周囲を見渡して担当のシンディを探す。
用があるたびに特定の人物を探さなければならないのは、専属担当制度の面倒なところだと二人は早くも痛感していた。
「あ、いた」
シンディは【報告カウンター】の奥に座り、堂々と自慢の尻尾の毛繕いをしていた。
まだ朝の早い時間帯である。この時間に依頼クリアの報告に訪れる冒険者は少ないのだろう。
「シンディさん」
「あ、あわわわっ! ち、違うのにゃ! 決してサボってたわけじゃないのにゃ!」
ケイが声をかけると、シンディはビクッと肩を震わせ、慌てて尻尾を隠して誤魔化そうとした。どう見ても完全にサボっていた反応である。
「な、なんだ、ケイ君とハルちゃんかにゃ。ギルドマスターが見回りに来たかと思って、慌てて損したにゃ。今日も依頼かにゃ?」
声をかけたのが二人だと気づくと、シンディはホッと胸を撫で下ろして落ち着きを取り戻した。
「今日はスキルや魔法を覚えたいんですが、どうすればいいか教えてもらえますか?」
「おっ、スキルと魔法にゃ? それはとてもいい心がけにゃ! と言うか、二人はあれだけの強さを持っていながら、まだスキルや魔法を覚えていなかったことの方が、お姉さんは不思議だったにゃ」
どうやらシンディは、昨日のゴブリンジェネラルをも討伐した大戦果で、二人の実力をしっかりと認めてくれたようだった。
「じゃあ、詳しく説明するにゃ」
シンディがカウンターに身を乗り出し、ギルドのシステムについて説明を始める。
この世界でスキルや魔法を覚えるには、冒険者ギルドが発行する『紹介状』を持参し、専門の道場や魔法所へ行って指導を仰ぐ必要があるらしい。そこで厳しい鍛錬や勉強を積むことで、ようやく習得できるのだという。
流石にゲームのエタコネのように、ミニゲームや歩数稼ぎだけで簡単に覚えられるほど甘くはないようだ。
「ちなみに、スキルには『剣技』『槍技』『斧技』『弓技』の四系統があるにゃ。魔法には『火魔法』『水魔法』『風魔法』『土魔法』『回復魔法』『生活魔法』があるにゃ」
ただし、冒険者ギルドの紹介で覚えられるのは、あくまで『初級』のものだけだ。
さらに高ランクのスキルや魔法を極めたければ、世界に散らばる達人と呼ばれる者たちから直接教えを乞うか、魔物のドロップ品や迷宮の宝箱から希少な魔法書を入手し、独学で習得する必要があるらしい。
「冒険者ギルドから紹介状を書いてもらうには、一枚につき1万アデナの手数料がかかるにゃ」
昨日の討伐報酬がある二人にとって、1万アデナの出費は十分に賄える額だった。
相談の結果、前衛のハルは剣技を、後衛のケイは生活魔法をそれぞれ習得することに決めた。
ケイが生活魔法を選んだのには理由があった。ゲームのエタコネには『生活魔法』というカテゴリ自体が存在しなかったため、純粋に興味が湧いたのだ。名前からして、過酷な異世界での暮らしをより豊かに、より便利にしてくれる魔法に違いない。
今の段階ではステータスの暴力だけで十分に戦闘をこなしていけるため、まずは日々の生活水準を上げることを優先したのだった。
「じゃあ、また後でね!」
「うん、ハルも鍛錬頑張って!」
紹介状を受け取ったケイとハルはギルドの前で互いに手を振り、それぞれの修業の場となる道場と魔法所へと向かって歩き出した。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「生活魔法」を選んだケイと、前世の技を磨く道を選んだハル。
対照的な二人の選択ですが、お互いを想う気持ちが根底にあるのがこの二人らしいなと感じています。
生活魔法が異世界生活をどう彩っていくのか、作者としても楽しみなところです。
もし「二人のこれからの冒険が気になる!」と思っていただけたら、
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