↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/65

第50話:大陸公会議、招集される

 翌朝。帝国中央庁、最高顧問室。

 私は机いっぱいに資料を広げておりました。


「大陸公会議。設立は二百年前。締結地は中立地の自由都市シュタイン。加盟十二か国。目的は――大陸における紛争の予防および調停」


 読み上げながら、私はうなずきました。立派な理念ですわ。実際、この二百年で大陸の大きな戦は目に見えて減っております。


「クリス様。帝国はいつから加盟を?」

「設立当初からです。ただし当時は、アウグスト帝国ではなく」

「ええ。アウグスト王国、ですわね」


 私の祖国。ルイス元王子が婚約破棄の舞台に選んだ、あの国。

 二百年前は、大陸の東の端にある小さな農業国でした。今は帝国に一ペニーで買収され、アウグスト州として穏やかに麦を育てております。


「では、その加盟資格は帝国が承継したのですね」

「はい。併合の際、書記局へ承継の届出を出しております」

「受理の証書は」

「……手元にはございません」


 三度目ですわね、クリス様。

 私は静かに一行、書き留めました。「書記局から帝国へ、紙が返ってきていない」。


 さて。

 公会議には、二つの顔がございます。表の顔は、十二か国の代表が席につく総会。年に一度、シュタインの議場で開かれます。

 そして裏の顔が、常設書記局。総会と総会のあいだ、書類を管理し、議題を整理し、次の総会の議事日程を組む。事務方ですわ。


(規模はどのくらいかしら。……十二か国の書類を回すなら、五十人といったところ?)


 資料をめくって、私は目を細めました。

 書記局の職員は、記録官を含めて十一名。

 二百年で、一度も増えておりません。


「クリス様。十一名で、十二か国分の議事を」

「私も驚きました。ずいぶん筋肉質な組織ですね」

「いいえ。筋肉ではございませんわ」


 私はペンの尻で紙を軽く叩きました。


「これは、少ないのではなく――増やさなかったのですわ。人を増やせば、書類を見る目が増えますもの」


 クリス様が、ゆっくりと胃を押さえました。すっかり以前の彼です。


 そしてもう一つ。私は招集通知を並べ直し、査問議題の欄を指でなぞりました。


「議題名。『アウグスト帝国の会計公開政策が大陸の秩序に及ぼす影響』。……クリス様、この文の主語は何でしょう」

「帝国の政策、でしょうか」

「ええ。けれど"秩序を乱している"と断じているのは誰でしょう。提案国の名が、どこにもございませんの」


 議題の下には、提案国の欄がございました。

 そこに書かれていたのは、国名ではありません。


『常任書記長職権により、議事日程へ登載』


「まあ」


 私は思わず声に出しておりました。


(つまり――どの国も、この議題を出していない)


 どこかの国が帝国を憎んで告発した、という話ではないのですわ。事務方が自分の判断で、一国を裁く議題を作り、日程に載せた。

 それができるということは、逆もできるという意味です。載せない、という形で。


「クリス様。この二百年で、公会議が"審議しなかった"議題の一覧はございますか」

「……そのような一覧は、聞いたこともありません」


 ええ。あるはずがございませんわ。

 載らなかった議題は、議事録に残りません。残らないものは、なかったことになる。


 私は窓の外を見やりました。

 帝国の空は今日も晴れています。あの空の下では、教国の聖堂の壁に月次会計が貼り出され、周辺国の民が「うちの国の税も見せてほしい」と言い始めている。

 誰かにとっては、それはずいぶん都合の悪い風でしょう。


「クリス様。私、少し訂正しますわ」

「はい」

「昨日は"領収書をいただきに行きましょう"と申しました。あれは甘うございました」


 私は招集通知を丁寧に折り、机に置きました。


「二百年ぶん、載らなかった議題の目録ごと、いただきに行きますわ」

議題を出した国が、どこにも書いていない回でしたわ。お読みくださりありがとうございました!


今回の見どころは「議題を出した国が、どこにも書かれていない」でした。誰かが帝国を告発したのではなく、事務方が職権で議題を作って日程に載せた――という一点ですわ。


議題を載せられるということは、載せないこともできる。この物語で本当に怖いのは、否決される力ではなく「審議されない力」なのです。書記局の職員が二百年間ずっと十一名のまま、というのも、そのための設計だったのかもしれませんわね。


次回、第51話「一議席という名の、二百年の残業」。

帝国が公会議で持っている議席の数が明らかになります。……皆様、心の準備をなさってくださいまし。


もし「否決される力より、審議されない力のほうが怖い」と思ったら、ブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。皆様の応援が、二百年ぶんの棚を照らす灯りになりますの!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。