第47話:光を取り戻した聖都
帝国へ帰還する前の、最後の数日。
私は、トビアスと、そしてエルフィリアと共に、教国の"作り直し"に取りかかりました。
「まず、贖罪券は全廃。すでに民が負っている贖罪券の借金は、すべて帳消し。……これは、バルタザールの隠し財産と、剥がした金箔の売却益で、補填いたしますわ」
私は、新しい"教国運営指針"を、二人に示しました。
「祝福料も、廃止。……救済に、値札をつけてはいけません。病の治癒も、困窮者への施しも、すべて無償に戻します。……その原資は、貴族や富裕層からの"任意の寄進"で賄う。貧しい者から搾り取るのではなく、余裕のある者が、進んで差し出す仕組みに変えるのです」
「で、でも、セシリア様。それでは、教国の収入が、激減してしまいます……」トビアスが、不安げに言いました。
「ええ。減りますわ。……ですが、トビアス様。よく考えてくださいまし。……これまでの収入の大半は、枢機卿団の私腹と、あの無駄な金箔に消えていました。……本当に教国の運営に必要な額は、実は、そう多くないのです。……無駄を削れば、無償の救済は、十分に成り立ちますわ」
私は、トビアスに、一冊の帳簿を手渡しました。それは、私が徹夜で作り上げた、"透明な会計"の見本でした。
「これからの教国の会計は、すべて、民に公開いたします。……何にいくら使ったか、誰でも見られるように、聖堂の壁に掲示するのです。……そうすれば、二度と、誰かが帳簿に手を突っ込むことは、できませんわ」
「透明な、会計……」トビアスが、その帳簿を、宝物のように抱きしめました。「……私が、ずっと、こうであってほしいと願っていた、会計です……」
「トビアス様。……あなたを、新しい教国の"会計長"に任命することを、エルフィリア様に推薦いたしましたわ。……もう、あなたを一人で潰させはしません。あなたの下に、十分な人手をつけ、あなた自身も、定時に帰れるようにいたします。……これからは、あなたが、この国の"正直な数字"を、堂々と守っていくのです」
トビアスの目に、涙が溢れました。……それは、もう、過労の涙でも、恐怖の涙でもありませんでした。誇りの、涙でした。
そして、エルフィリア。
「エルフィリア様。……あなたは、これから、どうなさりたいですか?」
私が問うと、彼女は、迷わず答えました。
「私は、聖都の門を、開きます。……これまで、金貨が払えずに門の外にいた人々を、中へ、招き入れます。……そして、壇の上から祈るだけでなく、自分の足で、民のもとへ歩いていきます。……病める人の手を握り、貧しい人と、同じパンを分け合う。……それが、私の、新しい"祈り"です」
私は、微笑みました。……黄金の籠の中で、何も知らずに祈らされていた少女は、もう、どこにもいませんでした。
「……素晴らしい祈りですわ、エルフィリア様。……それこそが、"本物の聖女"です」
帝国へ発つ朝。
聖都の民たちが、街道の両脇に、ずらりと並んで、私たちを見送ってくれました。
あの、路地裏で贖罪券を握っていた女の子も、いました。彼女は、もう、借金の紙切れではなく――一輪の、白い花を、握っていました。
「おねえちゃん! ……ありがとう! ……おとうさんの"救い"に、お金なんて、いらなかったんだね!」
私は、馬車を降り、その子の前に膝をつきました。
「ええ。……あなたのお父様は、最初から、救われていましたわ。……お金がなくても、あなたが、こうして覚えていてあげること。……それが、一番の、供養ですもの」
女の子が、白い花を、私に手渡してくれました。
私は、それを受け取り、そっと、胸に抱きました。……金貨二百四十万枚よりも、ずっと価値のある、報酬でした。
第47話、お読みいただきありがとうございました!
セシリアが聖都に残した"置き土産"は、贖罪券の全廃、無償の救済、そして「壁に掲示する透明な会計」でした。過労で潰れかけていたトビアスは会計長へ、囚われの神輿だったエルフィリアは自分の足で歩く"本物の聖女"へ。搾取のシステムを、救済のシステムに作り変える――これぞ、事務官セシリアの真の勝利ですわ。
路地裏の女の子が握っていたのが、借金の券ではなく一輪の白い花になっていた。この対比に、第二部の全部を込めましたの。
次回、いよいよ最終話。第48話「エピローグ ―― 大陸に、定時の鐘を」。
第二部の幕引きですわ。セシリアの"定時退社"は、大陸を、どう変えたのか。最後まで、どうぞお付き合いください!
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