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第48話:エピローグ ―― 大陸に、定時の鐘を

 聖都ルミナから、帝国へ帰還して、半年。

 アウグスト帝国、帝国中央庁、最高顧問室。

 私は、いつもの執務室で、いつものように、承認済みの書類を、うっとりと眺めていました。


「……ふふ。今日の決算誤差、〇・〇〇〇〇八%。……あら、また記録更新ですわ」

「……セシリア様。……いえ、皇后陛下。……それを喜べるのは、やはり、世界であなただけです」


 クリス様が、すっかり健康的な赤みの差した顔で、けれど呆れたように笑いました。


 あの聖都での一件は、大陸中に、静かな、けれど大きな波紋を広げていました。

 教国の"透明な会計"の噂は、瞬く間に周辺国へと伝わり、「うちの国の税も、公開してほしい」という民の声が、あちこちで上がり始めたのです。……搾取を、当たり前だと思っていた民が、"そうでない国"の存在を、知ってしまったのですから。


 聖都からは、時折、手紙が届きます。

 トビアス会計長からは、「今月も、全会計を無事に壁に掲示できました。私の部署も、全員、定時で帰れています」という、誇らしい報告。

 そして、エルフィリアからは。


『セシリア様。今日も、門を開け、民のもとへ歩いてまいりました。病める子の手を握り、共にパンを分け合いました。……あなたが教えてくださった"自分の足で立つこと"の意味が、日ごとに、深く分かってまいります。……いつか、あなたの"ホワイトな帝国"を、この目で見に行くのが、私の夢です』


 私は、その手紙を読み、そっと微笑みました。……黄金の籠は、もう、どこにもありません。


「……セシリア」


 執務室の扉が開き、公務用の上着を脱いだレオンハルト様が、入ってきました。

 時計の針が、午後五時を指します。……その瞬間、城内に、清らかなベルの音が、鳴り響きました。


「時間だ。……まだ、その書類を眺めているのか」

「あら、陛下。……最後の一枚。聖都から届いた、教国の月次会計報告に、目を通していただけですわ。……トビアス様の会計、今月も、完璧ですのよ」


「…………。それは、もう、お前の仕事ではないだろう」

「ええ。ですが、教え子の成長を見守るのは、上司の、ささやかな役得ですわ」


 陛下が、呆れたように、けれど極上の愛おしさを込めて、私を抱き上げました。

 私は、彼の腕の中で、ふと、窓の外を見やりました。


 遠く、大陸の中央。かつて搾取の街だった聖都では、今頃、エルフィリアが、民と共に、夕暮れのパンを分け合っていることでしょう。

 さらに遠く、帝国の最北端の開拓地では、今日も、バルタザール元枢機卿が、返せぬ借金の"帳簿"を、震える手でつけ続けているはずです。……その隣では、ルイス元王子とマリアベル元令嬢が、相変わらず、下水の清掃に励んでいるのでしょうね。


(……ふふ。悪党たちは、それぞれの"帳簿"と"労働"で、自分の罪を数え続けている。……そして、正しく働いた人たちは、みんな、定時に帰れるようになった。……なんて、ロジカルで、美しい世界かしら)


「……幸せか、セシリア」


 陛下が、私の耳元で、囁きました。


「……ええ、レオンハルト様」


 私は、彼の広い胸に、顔を埋めました。


「一つの王国を正し、一つの神権国家を正し……。それでも、私が一番好きなのは、やっぱり、この、"定時の鐘"の音ですわ。……正しく働いた一日の終わりに、愛する人と、家に帰る。……この、当たり前の幸福を、一人でも多くの人に届けること。……それが、私の、一生をかけた"お仕事"ですもの」


「……壮大な、残業だな」

「あら。これは残業ではございませんわ。……"定時内"の、天職ですのよ」


 私たちは、顔を見合わせて、笑いました。


 有能すぎた悪役令嬢は。

 今日も、明日も、そして永遠に。

 愛する人の隣で、世界をより良く、より公正に、そして最高に効率的に、変えていく。


 大陸の空に、今日も、幸福を告げる、定時の鐘が鳴り響きます。

 その音が届く場所すべてが、少しずつ、少しずつ、ホワイトになっていく。


 それこそが、彼女に与えられた、最高の――そして、終わらない『ハッピーエンド』なのですから。


(第二部・完)


第48話、そして第二部・完まで、伴走いただき、本当にありがとうございました!


第一部で一つの「王国」を正したセシリアが、第二部では大陸最大の「神権国家」の搾取を、剣ではなく帳簿で暴き、作り変える――スケールを上げつつも、彼女の武器はどこまでも「数字を読む眼」と「正しく働いた人が報われる世界への情熱」でした。囚われの聖女エルフィリアの解放、過労の修道士トビアスの誇りの回復。今回も、ざまぁと溺愛だけでなく、"救われる側"の物語を、しっかり描けたのではないかと思っておりますわ。


そして、陛下の溺愛は、相変わらず全開でしたわね(笑)。


「定時の鐘が届く場所すべてが、少しずつホワイトになっていく」――セシリアの戦いは、これからも大陸のどこかで続いていくのでしょう。もし第三部でお会いできる日が来ましたら、その時は、また新しい"真っ黒な帳簿"を、彼女が元気に破り捨ててくれるはずですわ。


最後に、ここまでお付き合いくださったすべての読者様へ。ブックマーク(有給申請)や評価(最高額のボーナス支給)をいただけましたら、これ以上の喜びはございません。皆様の魔力供給(応援)が多ければ多いほど、セシリアの"ホワイトな快進撃"は、また新しい形でお目にかかれるかもしれませんの!


それでは、また次の物語(執務室)で。……お仕事、お疲れ様でしたわ! どうぞ、定時にお帰りくださいませ!


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