表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/48

第46話:冷酷皇帝の絶対拒絶・再び

 バルタザール失脚後の教国は、まだ完全に浄化されたわけではありませんでした。

 枢機卿団の末席にいた、保身に長けた古参の聖職者たちが、混乱に乗じて、なおも権益にしがみつこうとしていたのです。


 その一人、老獪な司教が、和平の会談の席で、恭しく切り出しました。


「レオンハルト陛下。……このたびの一件、教国は帝国に大きな借りを作りました。つきましては、両国の永遠の結束の証として、一つ、ご提案がございます」


「……申してみよ」


「はい。……聖女エルフィリア様を、陛下の第二妃として、帝国へお迎えいただきたく。……聖女と皇帝の結びつきは、大陸に神聖なる安寧をもたらしましょう。無論、皇后セシリア様のお立場は、そのままに……」


 ――ぴしり、と。

 空気が、凍りつきました。


 私が何かを言うより先に。

 レオンハルト様が、ゆっくりと、グラスを置きました。……そのグラスに、ぴき、と、ひびが入る音がしました。彼が、無意識に握り潰しかけたのです。


「……もう一度、言ってみろ」


 地の底から響くような、絶対零度の声。

 司教の顔が、みるみる青ざめていきます。


「い、いえ、その、これは、両国のためを思い……」

「セシリア以外の女を、私の妃に、だと?」


 陛下が、立ち上がりました。その身から放たれる覇気に、会談の間にいた全員が、息を呑みます。……かつて、泥の中でマリアベルを「汚らわしい」と一蹴した、あの時と同じ。いいえ、あの時よりも、ずっと深い怒りでした。


「よく聞け、司教。……私は、この世で、たった一人の女しか、必要としていない。国のためだろうが、神のためだろうが、大陸の安寧のためだろうが、関係ない。……セシリアの隣に、他の誰かを並べるなど、天地がひっくり返っても、あり得ん」


「で、ですが、皇帝ともあろうお方が、皇后お一人では、後継や、外聞の問題も……」


「外聞?」


 陛下が、鼻で笑いました。


「私が『血塗られた皇帝』と呼ばれ、恐れられていた頃、誰も私の"外聞"など気にしなかった。……その私を、"正しく働く国の皇帝"に変えたのは、セシリア、ただ一人だ。……私にとっての外聞とは、セシリアの隣に立つに相応しい男であること、ただそれだけだ。他は、すべて些事さじよ」


 私は、思わず、扇子で口元を隠しました。……頬が、熱い。皇后という身になっても、この方は、いつも私の予想を超えて、まっすぐに愛を叩きつけてくるのです。


 そして、エルフィリアが、静かに口を開きました。


「……司教様。私を、政略の道具に使うのは、おやめください」


 彼女の声には、もう、かつての頼りなさはありませんでした。


「私は、聖女です。……ですが、それ以前に、一人の人間です。……誰かの妃になるために、生まれてきたのではありません。……私は、これから、この国の民のために、生きていくと決めました。……セシリア様が、教えてくださったように。自分の足で、立って」


 司教は、ぐうの音も出ず、俯きました。……もう、彼の言葉に、耳を貸す者は、誰もいませんでした。


 会談の後。

 私は、陛下と二人、聖都のバルコニーに立ちました。


「……陛下。先ほどは、少し、格好つけすぎではございませんこと?」

「事実を述べたまでだ。……不服か」

「いいえ。……嬉しくて、困っておりますの」


 私が正直に言うと、陛下は、少しだけ、決まり悪そうに視線を逸らしました。……この、冷酷無比と恐れられた皇帝の、こういう不器用なところを、私は、世界で一番、愛おしく思うのです。


「セシリア。……早く、帝国へ帰ろう。……お前の執務室が、お前の帰りを待っている」


「……ええ。……帰りましょう、陛下。私たちの、ホワイトな国へ」


第46話、お読みいただきありがとうございました!

"聖女を第二妃に"という政略に対する、陛下の絶対零度の拒絶。第一部のマリアベル撃退を彷彿とさせる、けれどより深い愛情の吐露でした。「私にとっての外聞とは、セシリアの隣に立つに相応しい男であること、ただそれだけだ」――書いていて、こちらが照れてしまいましたわ(笑)。


そして、政略の道具にされかけたエルフィリアが、自らの意志でそれを拒む。彼女の成長が、ここでも光りますわ。


次回、第47話「光を取り戻した聖都」。

教国の再建と、エルフィリアの新しい歩みを描きますわ。セシリアが残した"改革の置き土産"とは……?


もし「陛下の溺愛にやられた」と思ったら、ブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。皆様の応援が、二人の帰路を照らしますの!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ