第45話:白い聖都の「ざまぁ」
大枢機卿バルタザールと、その一党の枢機卿たちは、捕らえられました。
審問官グレゴールは、真っ先に主を見限り、命乞いをしながら逃げようとしたところを、レオンハルト様の兵に取り押さえられました。
「セシリア。……こやつらの処遇、どうする」
陛下が、縄を打たれ、地に膝をつくバルタザールを、氷のような眼で見下ろしました。
「望むなら、今すぐ首を刎ねてやってもいい。……民から二百四十万枚を盗んだ罪、火刑でも軽いくらいだ」
「ひっ……お、お許しを……! わ、私は、ただ、教国の繁栄のために……!」
バルタザールが、無様に許しを乞います。かつての威厳は、もう欠片もありませんでした。
(……ええ。かつての、あのルイス殿下と、そっくりですわ。追い詰められて初めて、命乞いをする。……自分が奪った側であることを、最後まで理解しない)
「陛下。……火刑は、なしにいたしましょう」
私は、静かに言いました。
「なに?」
「火で焼けば、一瞬で終わってしまいますもの。……それでは、彼らが盗んだ"金貨二百四十万枚"の重みを、その身で理解する時間が、ありませんわ」
私は、一枚の"人事配置案"を取り出しました。……ええ、また、作ってしまいましたの。相手が悪党だと、つい、筆が乗ってしまって。
「バルタザール猊下。……あなたには、これから、"帳簿つけ"をしていただきますわ」
「……ちょ、帳簿……?」
「ええ。あなたがこの十年で横領した、金貨二百四十万枚。……これを、一枚残らず、あなた自身の手で、聖都の全民衆に"返済"していただきます。……もちろん、あなたの隠し財産は、すべて没収して原資に充てますが、それでも到底足りません。……不足分は、あなたが死ぬまで、開拓地で働いて返していただきますわ」
私は、微笑みました。
「返済の記録は、あなた自身が、毎日、帳簿につけるのです。……誰に幾ら返したか。あと幾ら残っているか。……一日も休まず、金貨一枚の誤魔化しも許さず。……あなたが、これまで潰してきた会計修道士たちが味わった苦しみを、その身で、一生かけて、味わっていただきます」
「そ、そんな……二百四十万枚など、何百年かかっても……!」
「ええ。返し終わりませんわね。……ですから、"一生"、と申し上げましたのよ」
バルタザールが、絶望の表情で崩れ落ちました。
……剣で殺されるより、火で焼かれるより、彼にとっては地獄でしょう。自分が卑しいと蔑んできた"金勘定"を、返せぬと分かっている借金のために、死ぬまで続けさせられるのですから。
「……そして、審問官グレゴール。あなたには、聖都の"贖罪券の全回収と焼却"を担当していただきますわ。あなたが恫喝で売りつけた券を、あなた自身の足で、一枚ずつ、民に頭を下げて回収して回るのです。……民が、あなたに何を言うかは、あなたが一番、よくご存じでしょう」
グレゴールが、真っ青になって震えました。
「……セシリア」
陛下が、傍らで、深く、満足げに息をつきました。そして、私にだけ聞こえる声で、囁きました。
「……お前は、やはり最高に、性格が良いな」
「あら。効率を求めたら、ここに辿り着いただけですわ」
私は、かつてと同じ答えを返し、くすりと笑いました。
「剣は、一瞬。……ですが、"帳簿"は、一生。……悪党への一番の罰は、彼らが最も軽んじたものを、一生、背負わせることですわ」
白い聖都に、新しい夜明けが訪れようとしていました。
搾取の象徴だった黄金の屋根は、剥がされ、売却され、その金は民への返済に充てられることが決まりました。
――そして、そのすべての"帳簿"を、これから、バルタザール自身が、死ぬまでつけ続けるのです。
第45話、お読みいただきありがとうございました!
バルタザールへの罰は、火刑ではなく「死ぬまで返せない借金の帳簿つけ」。第一部の"下水清掃"に続く、セシリア流"実務的ざまぁ"の進化形ですわ。「剣は一瞬、帳簿は一生」――悪党が最も軽んじた金勘定を、一生背負わせる。この理詰めの報いこそ、本作の醍醐味ですの。
「効率を求めたら、ここに辿り着いただけ」――第一部と同じこの台詞、覚えていてくださった方は、にやりとしていただけたなら幸いですわ。
次回、第46話「冷酷皇帝の絶対拒絶・再び」。
教国の混乱に乗じた"ある政略"が、二人の絆を試しますわ。陛下の独占欲、健在ですのよ?
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