第27話:皇帝陛下の「ホワイト」な野望
セシリアが休暇中の「仕事禁断症状」で悶絶していた、その三日間。
レオンハルト陛下もまた、一人の統治者として、ある壮大なプロジェクトを一人で(セシリアに内緒で)進めていました。
それは帝国の軍事力強化でも、領土拡大でもありません。
「クリス。セシリアが、安心して『適度な仕事』に励め、かつ『十分に休める』環境を完遂させる。それが、この帝国の向こう百年の安定を約束する唯一の道だ」
皇帝城、陛下専用の作戦会議室。
そこには戦時下でも見せないような、鬼気迫る表情をした陛下と、もはや魂が半分抜けているクリス様の姿がありました。
「へ、陛下。それは、つまり……帝国の全公務員の就業規則を、セシリア様が望まれる『ホワイト基準』に一斉に書き換える、ということですか?」
「…………。書き換えるのではない。すべての非効率を焼き払い、合理性という名の新しい秩序を打ち立てるのだ」
陛下の「ホワイトな野望」。
それはセシリアが夜な夜な趣味で作成していた『理想の職場環境(帝国版)』のメモを、彼が勝手に持ち出し、国家予算を湯水のように注ぎ込んで具現化しようとするものでした。
そして休暇が明けた翌朝。
私が一週間ぶりに「私の戦場(執務室)」へ足を踏み入れた瞬間、私は目を見開きました。
「あら。陛下? これ、どういうことですの?」
執務室の窓が倍の大きさに拡充され、そこには最新の『自動調光式魔導ガラス』が嵌め込まれていました。
さらにはデスクの隣に、見たこともない複雑な魔法回路を持つ巨大な棚が設置されています。
「気づいたか、セシリア。それは、クリスと共に開発させた『自動公文書スキャナー』の初号機だ。貴様が手書きでする必要のない単純なコピー作業は、すべてこの魔導具が肩代わりする」
「ま、魔導具による自動化!? これがあれば、これまで手動で行っていた写本作業が、0.003%の誤差範囲で数秒に短縮されますわ!」
私はその機械に駆け寄り、愛おしそうに撫でました。
普通の女性なら、宝石やドレスのプレゼントに喜ぶのでしょう。
ですが私にとって、この「労働時間を削減するための、論理的に裏打ちされた技術」こそが、世界で最も美しい贈り物でした。
「陛下。これ、私の『休暇の寂しさ』を埋めて余りあるほど素晴らしいですわ!!」
「フッ。喜んでくれて何よりだ。だが、驚くのはまだ早いぞ。帝国府の全支局に、この技術を導入する契約書に……さあ、貴様の『最高顧問印』を押せ」
陛下が差し出したのは、帝国全土の働き方を一変させる、歴史的な契約書。
私は震える手で自分の印章を握りしめました。
「陛下。これは、ただの事務作業の改善ではありませんわ。この帝国を世界で唯一の『正当な努力が、正当な余暇を生む』理想郷にするための、第一歩ですわね?」
「ああ。貴様が笑って仕事をし、笑って私に甘えられる世界を、私が作ってみせよう」
陛下。
あなたは冷酷皇帝と呼ばれていましたが。
今のあなたほど、一人の女性の「幸せ」の定義をロジカルに理解し、それを全力で叶えようとする誠実な方は他におりません。
私は陛下が見守る中で力強く、そして誇らしげに、その契約書にサインを叩きつけたのでした。
こうして、アウグスト帝国は一人の社畜令嬢の情熱と、一人の皇帝の溺愛によって、歴史上類を見ない『超ホワイト帝国』へとその姿を変え始めたのです。
ただ、ひとつだけ。
陛下は「貴様が笑って私に甘えられる世界を」と仰いました。
甘える。その項目だけは、私の業務マニュアルのどこを探しても載っておりません。
(陛下。それは、どなたに教われば習得できますの?)
プレゼントが「自動公文書スキャナー」という回ですの。お読みくださりありがとうございました!
この作品ならではの溺愛の形を描きましたわ。
宝石よりも「労働時間の短縮」を喜ぶヒロイン。そしてそれをドヤ顔でプレゼントする皇帝……。二人の価値観が一般常識を超えた次元で一致している様子、いかがでしたでしょうか。
次回、第28話「帝国の「真の月」と、仕事の天使」。
帝国の民が、セシリアをどう呼び始めたのか。そしてその呼び名を、陛下がどう思っていらっしゃるか。
もし「自動スキャナーが自分も欲しい」と思ったら、最後にブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。
皆様の評価が、帝国の「事務効率」をさらに向上させますの!




