第26話:本当の「有給休暇」
国家統合という、事務官にとって最大の「ビッグプロジェクト」を無事に完遂した私は、ついに人生二度目の『有給休暇』を言い渡されました。
「……セシリア。いいか、三度目は言わないぞ。……この三日間、貴様は城から一歩も出ず、さらにペンに触れることさえ禁ずる。……もし違反すれば、貴様の『最高顧問デスク』を一ヶ月間、没収する」
レオンハルト陛下の、それは恐ろしい……けれど、どこか心配そうな瞳を前に、私は渋々と頷きました。
「……分かりましたわ、レオンハルト様。……せっかくの新婚(予定)生活ですもの。……あなたの言う通り、何もしない『無駄な時間』を楽しんでみせますわ」
そう言って私は、陛下の庇護のもと、帝都を一望できる静かな別邸へと運ばれました。
庭には色とりどりの花が咲き、小鳥が囀り、執事たちが「何かお困りですか?」と、やはり爽やかな笑顔(威圧感100%)で待機しています。
一日目。
私は、庭のガゼボでハーブティーを飲みながら、ぼーっと空を眺めました。
雲が流れる様子、風に揺れる木々。……確かに美しい。
ですが、私の脳は、無意識に雲の流速から『明日の降水確率による物流遅延リスク』を算出し始め、木々の揺れ方から『庭園管理の人員削減の可能性』を模索し始めていました。
(……はっ! いけないわ、セシリア! 今は休暇なのよ! 効率のことを考えては駄目!!)
二日目。
私は、読書(※専門書代わりの恋愛小説)に耽ることにしました。
ですが、登場人物たちの「すれ違い」や「勘違い」が深まれば深まるほど、私のストレスは限界に達しました。
「……なんでそこで、たった一通の『確認書面』を送らないの!? 口頭での約束なんて、証拠能力が著しく低いですわよ! あと、この騎士様のセリフ、あらかじめ公証役場で認証を受けていれば、この悲劇は三ページで終わっていたのに……!」
もはや、私の脳は『事務的な最適化』なしでは、物語すら楽しめない身体(社畜)になっていたのでした。
三日目。
私はついに、禁断症状のあまり、別邸の納戸から一本の「古ぼけた羽ペン」を見つけ出してしまいました。
そして、白紙の便箋(ゲスト用)を広げた瞬間。
(……ああ。……インクの匂い。紙が擦れる音。……これよ、これこそが、私の魂の安らぎ……!)
私が夢中で、「別邸の備品管理システムの自動化スキーム」を書き上げ、満足げに承認印(代わりにリップマークを付けようとしました)を押そうとした、その時。
「…………セシリア」
背後から、氷河期が訪れたかのような低い声が響きました。
「ひぃっ!?!? れ、レオンハルト様……!?」
振り返ると、そこには抜き放たれた剣――ではなく、それ以上に恐ろしい「深い失望」を瞳に宿らせた、皇帝陛下の姿がありました。
「……貴様。……あれほど約束したのに、また『仕事』をしていたのか」
「ち、……違いますわ、陛下! これは、その、……未来の私たち(・ ・ ・)の生活を豊かにするための、いわば『愛の設計図』ですのよ……!」
「愛の設計図が、なぜ『棚卸資産の圧縮率』から始まっているのだ?」
陛下の、冷徹なツッコミ。
私は、あまりに論理的な追求の前に、ついにその場で降参しました。
「……陛下。……私は、やっぱり、仕事をしていないと自分が自分でなくなるような気がして……」
陛下の、厳しい表情が、ふっと溶けました。
彼は私の手から羽ペンを優しく奪い取ると、私を強く抱き締めました。
「……仕方ない女だ。……だが、それほどまでに我が国の未来に情熱を注ぐ貴様を、……私は、誰よりも誇りに思っている」
「……陛下」
「休暇は、今日で終わりだ。……明日からは、私の隣で、気の済むまでその才能を振るえ。……ただし、夜の十二時を過ぎたら、私が力ずくで貴様を寝かしつけてやるからな」
ホワイトな皇帝の、最高の「就業規則」の提示。
私は、彼の広い胸の中で、ようやく本当の意味でリラックスした溜息をついたのでした。
第26話、お読みいただきありがとうございました!
セシリアの「休暇中の暴走」を通じて、彼女がいかに事務作業の快感に染まりきっているか(笑)を描いたコミカル回でした。
恋愛小説を読みながら「法的な認証」を気にするあたり、彼女の社畜脳は筋金入りですわね。それを見守る陛下の深い包容力……二人の関係が対等なパートナーシップへと進化している様子を感じていただければ幸いです。
次回、第27話「皇帝陛下の「ホワイト」な野望」。
陛下がセシリアへのさらなるご褒美として、帝国の労働環境そのものを変えようとする、文字通りの『ホワイトな野望』を描きますわ!お楽しみに!
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皆様の魔力供給(評価)が、セシリアの「有給休暇」をより充実したものにしますの!




