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第21話:泥の中の「再会」

「せ、セシリア! 頼む、戻ってくれ! 君への婚約破棄は……そう、マリアベルに呪いをかけられていたんだ! 君も分かってくれるだろう!? 君は僕を一番理解しているはずだ!」


 泥濘に跪き、震えながらルイス王子が放ったのは、聞くに堪えない言い訳の数々でした。

 彼の目には、かつて私を冷遇していた頃の傲慢さは欠片もなく、ただ「自分の生活が脅かされている」という矮小な恐怖だけが、醜く淀んでいました。

 自分を捨てたセシリアに、今さら「理解」を求める厚顔無恥さ。……私は、レオンハルト陛下の腕に寄り添ったまま、これまでの人生で最も冷ややかな、監査官のような視線を彼へと向けました。


「呪い、ですか。……ルイス殿下、その診断書はどちらの医師が書いたものです? 魔法医師の公式な署名は、印影登録がなされていますか? もし証拠のない虚偽であれば、帝国の法律においては『公務執行妨害および偽証罪』となり、即座に身柄が拘束されますが」


「な……!? なんだ、その、冷たい……事務的な言い草は!」


「事務官ですから。……さて、殿下。私が戻れば、この国が救われるとお考えのようですが……。まずは、この三週間分の『王国決算予測』をご覧ください」


 私は、手にしていた一通の分厚い資料を、陛下の許可を得て、彼の目の前の泥の中に無造作に放り投げました。


「これは……なんだ、この赤い数字の羅列は!?」


「殿下がマリアベル様とお茶会を楽しまれていた間に、我が国の信用格付けは『ゴミ以下ジャンク』に落ちました。現在の債務総額は、王家の資産をすべて売却し、あなたが一生をかけて開拓地で働いたとしても返却に百五十年かかります。……つまり、私が今この瞬間に戻ったとしても、私にできる仕事は『破産宣告』の書類にサインすることだけですのよ」


 私のロジカルな宣告に、ルイス王子は絶句しました。

 彼は泥を被った資料を震える手で見つめ、そこに刻まれた「逃れられない現実」に初めて直面したようでした。


「そ、そんなはずはない! マリアベルが、君がいなくても国はキラキラ輝くと言っていたんだ! 君は嘘を吐いている! 僕を脅して楽しんでいるんだ!」


「……マリアベル様の言う『キラキラ』は、国庫から流出した金貨の輝きだったようですわね。……残念ですが、殿下。無能な主君と、無能な愛妾。その無自覚な搾取によって死にゆく国に、私が救いの手を差し伸べる『コスト的メリット』は、今の私には一切ございませんわ」


「ぐ、……う、うあぁぁぁ!」


 ルイス王子が、泥の上に額をこすりつけて泣き叫び始めました。

 その隣で、泥だらけのドレスで腰を抜かしていたマリアベルが、意を決したように陛下を見上げました。

 彼女なりの、最後の一手――「ヒロイン」としての最強の武器を繰り出そうとして。

第21話、お読みいただきありがとうございました!

泥沼の中での再会(と実務監査)回でした。


ルイス王子の「呪い」という見苦しい言い訳を、セシリアが冷徹なロジックで粉砕する……。「事務官ですから」という決め台詞に、彼女のプライドを詰め込みましたわ(笑)。


次回、第22話「自称ヒロイン、皇帝に挑む」。

いよいよマリアベルが陛下に挑みますが、そこには「絶対零度の拒絶」が待っておりますの. ざまぁの総仕上げ、お見逃しなく!


もし「セシリアの監査スキルがキレキレだ」と思ったら、最後にブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。

皆様の応援という名の「福利厚生」が、セシリアのホワイトな日々を支えますの!

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