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第20話:土下座のカウントダウン

 泥だらけの地面に尻餅をついたルイス王子は、今、自分を包囲する漆黒の鎧――帝国の精鋭騎士たちがまといし死の気配に、魂の底から震えていました。

 かつて彼が王宮で、私に対して「貴様の代わりなどいくらでもいる」と傲岸不遜に言い放っていた頃の面影は、もはや影も形もありません。


「ひ……、ひいぃぃっ! な、何なんだ……この、人ではないような威圧感は……!」


「人ではないだと? ……そうだな。貴様のような、他人の血と汗を吸って肥え太ることしか知らぬ寄生虫にとって、私はさぞかし恐ろしい怪物に見えることだろう」


 レオンハルト陛下が、ゆっくりと、一歩、また一歩と崖を降りるように壇上から歩み寄ります。

 彼が足を地面に下ろすごとに、泥濘が「パキィ、パキィ」という音を立てて凍り付き、王子の逃げ場を凍土で執拗に囲い込んでいきました。


「……セシリアを『返す』だと? 貴様、自分の立場がまだ分かっていないようだな」


「な、……分かっている! 僕はアウグスト王国の主権者だ! 不当に我が国の令嬢を拘束するのは、国際法違反……っ!」


「国際法、か。……よろしい、ならば法に則って教えてやろう。……三日前、貴様の国が我が帝国の商業ギルドに負っている『不渡り手形』が、我が国の土地購入の担保として執行された」


 陛下が、無造作に懐から一通の文書を取り出し、王子の顔の前に放り投げました。

 泥を被ったその書面には、帝国の公正公証役場の巨大な真っ赤な印影。……私が先週、徹夜して(陛下に隠れて)作成した、『対王国不当債務処理スキーム』の最終報告書でした。


「……現在、貴様の国の公式な主権……つまり、土地、王城、そして貴様の身分証に至るまで、すべては我がアウグスト帝国の『債押さえ物件』だ。……貴様は既に、一国の主権者ではない。……ただの、無一文の債務者だ」


「な……!?!? そ、そんな……あり得ない! 誰が、誰がこんな、一晩で国を丸ごと差し押さえるような魔法を……っ!」


 王子は、信じられないものを見る目で、私を凝視しました。

 私は、扇子の端で、そっと目を伏せました。


(……魔法ではありませんわ、殿下。……それは、あなたが『面倒だから』とサインを放置していた、数万枚の支払い通知書の写しを一箇所に統合しただけの、純粋な『算数』の結果ですわ)


「……膝を付け、ルイス」


 陛下の声に、もはや怒りはなく。ただ、絶対的な真理を告げるような虚無の響きがありました。


「……貴様がセシリアに強いた二十年の苦苦を、今、この泥の中で一時間かけて反省しろ。……できなければ、この場で貴様の首を帝国(の事務の肥やし)にしてやる」


「ひっ、……っ! う、うわぁぁぁぁ!!」


 王子のプライドが、最後に「パキリ」と音を立てて砕けました。

 彼は、かつて私に「婚約破棄だ! 跪いて感謝しろ!」と叫んだその時と同じような、奇妙な、しかし無様な体勢で――

 ズル、ズルと。

 冷たい、凍り付いた泥の中に、その華美な正装を沈めていきました。


 帝都の民衆が、国境越しにその様子を見て、一斉に歓喜の声を上げました。

 かつてセシリアを「悪役」と呼んで石を投げた人々も、今、自分たちを見捨てて逃げ惑う王子の醜態に、怒りと嘲笑をぶつけています。


「第一段階、完了ですわね。陛下」


 私は、陛下の隣に並びました。

 ……さあ、ここからは、理不尽な労働を強いた者への、本格的な「事務的断罪」の始まりです。

第20話、お読みいただきありがとうございました!

ついにルイス王子の膝が折れ、泥の中に沈む「土下座」回でした。


「魔法」ではなく、セシリアが積み上げた「算数(債務整理)」によって国ごと差し押さえられるという、この作品らしい知的なざまぁ(笑)。陛下の慈悲のない絶対的強者感と、泥の中で無様に泣く王子の対比、いかがでしたでしょうか。


次回、第21話「泥の中の「再会」」。

泥沼の中での「再会」と、ルイスの聞き苦しい言い訳をセシリアが論理的に粉砕(監査)するシーンを描きますの。ざまぁのボルテージは、いよいよ最高潮へ!


もし「債務整理ざまぁが最高にスカッとした」と思ったら、最後にブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。

皆様の魔力供給(評価)が、セシリアのホワイト帝国での「業績」をさらに輝かせますの!

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