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第16話:秒読みの崩壊

 アウグスト王国が「崩壊」から「消滅」へとその歩みを加速させるのに、そう時間はかかりませんでした。

 かつての私の祖国は今、帝国の経済制裁という名の真綿で首を絞められ、断末魔の悲鳴を上げていました。


 王都の時計塔。……私がかつて、魔力回路の不調を見つけて一晩で修理したあの塔が、今は哀れにも十五分ほど傾いて止まっています。

 街灯の魔石は尽き、夜の王都は文字通りの『暗闇』に沈んでいました。


「……陛下。あそこの時計塔、もうすぐ倒れますわね。あの中のスプリング、私が特注した合金製だったのですが、定期的に油を差していなかったのでしょう」


 国境の帝国軍宿営地。

 私は、レオンハルト陛下が自ら用意してくれた最高級のアイスクリーム(※帝都から魔法冷却装置で運ばれた特注品)を、銀のスプーンで掬いながら、望遠鏡を覗いていました。


「……セシリア。貴様は、あのような廃墟を眺めながらでも、食欲が落ちないのだな」


 陛下が、どこか感心した(呆れた)ような声で私の横顔を覗き込みました。


「落ちるわけがありませんわ。……私があの日、必死にサインを求め回った補修予算を、殿下が『ドレス代に回せ』と却下した結果がこれですもの。……自業自得、という言葉の生きた見本を観賞しながらいただくアイスクリームは、この上なく絶品ですわ」


 私の言葉は、かつての私自身が味わった絶望の裏返しでした。

 あの日、私がどれほど説明しても、ルイス王子は「街灯なんて、少し暗くても恋人たちの語らいにはちょうどいいじゃないか」と笑って流しました。

 その結果、今や王都の治安は崩壊し、夜に外歩きをできる者はいなくなりました。


 一方、王宮内では……。


「な、……なんだ、これは! なぜ蛇口をひねっても水が出ない! 魔法ポンプはどうした!」


「殿下……。ポンプを動かすための魔導師たちに給料が払えず、彼らは一昨日、機材を持って全員いなくなりました。……最後の一人が残した書き置きには、『帝国の土木工事の方が、王宮の政務よりよっぽどホワイトだ』と……」


「あり得ん! 魔導師は王家に忠誠を誓うべき特別な身分のはずだぞ!」


 ルイス王子が、埃の積まった執務室で絶叫しました。

 書類は整理されることなく、もはや山というよりは「雪崩」となって部屋の半分を埋め尽くしています。

 その頂点に並んでいるのは、帝国からの「宣戦布告に近い最後通牒」ではなく……各地の商人たちからの、あまりにもリアルな「支払い催促状」の束でした。


「ル、ルイス様ぁ……。マリアベル、お風呂に入りたいですぅ……。お水が出ないなんて、セシリアの嫌がらせですわ、絶対に!」


 マリアベルが、かつての輝きを失ったドレスを翻してしなだれかかります。

 ですが、ルイス王子に彼女を支える余裕はありません。

 既に彼の脳内にあるのは「愛」ではなく、どうすれば「かつての、すべてが完璧に回っていた日々」に戻れるかという、もはや不可能な願望だけでした。


「……セシリア。……セシリアさえいれば、こんなことには……」


 気づくのが、一ヶ月遅すぎましたわね。ルイス殿下。

 私は今、陛下が「あ。口に付いているぞ」と、アイスクリームを指で拭ってくれるという、甘々すぎて胸焼けするような時間を過ごしておりますの。

 あなたの不幸を最高のスパイスに、私はますます幸福になってしまいますわ。

第16話、お読みいただきありがとうございました!

祖国の崩壊を安全圏(アイスを食べながら)眺める、セシリアの豪快(?)な回でした。


彼女の冷徹なまでの「自業自得」への追求……いかに王国を一人で支えていたか、その異常な有能さが、崩壊の描写を通じて際立ちますわね。ルイス殿下、今さら後悔しても「有給休暇」は返しませんわよ。


次回、第17話「難民の波と、セシリアの聖女伝説」。

国境に押し寄せる難民に対し、セシリアが「事務」の力で救済と選別を行う「聖女伝説」編を開始いたしますわ!


もし「アイスを食べるセシリアが可愛すぎる」と思ったら、最後にブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。

皆様の魔力供給(評価)が、セシリアのホワイトな「労働環境」をさらに充実させますの!

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