第14話:マリアベル、どん底の婚約発表
アウグスト帝国の「経済制裁」という名の死刑台に、アウグスト王国の首筋が据えられたその週末。
王城のメインホールでは、信じがたいことに、きらびやかな……いえ、どこか不自然に殺風景なパーティーの準備が進められていました。
ルイス王太子と、マリアベル・シュトラウス男爵令嬢。
二人の「真実の愛」を祝う正式な婚約発表パーティー――ですが、それを祝うために集まったのは、もはや逃げ場を失った小貴族たちと、事態を静観しに来た少数の不吉な顔色をした文官たちだけでした。
「ルイス様! 見てください、マリアベル、このドレスとっても素敵でしょう?」
マリアベル、得意げに裾を広げて微笑みます。
ですが、そのドレス。……よく見れば、かつて私が「王室の財産」として厳重に保管リストに載せていた、数代前の王妃の形見を強引に仕立て直したものでした。
しかも、縫製が甘い。……セシリアが雇っていた一流の針子たちが、給料の未払いを理由に全員ボイコットした結果、素人の侍女が夜なべして仕上げたものだからです。
「ああ、美しいよマリアベル。……だが、なんだか会場が少し寒くないか?」
「……。殿下、申し訳ございません。帝国の制裁により、暖房用の魔石が通常の十分の一しか届いておらず、客室への供給を停止しております……」
給仕係が、青ざめた顔で報告しました。
五月の夜。……窓の外は涼やかですが、巨大な石造りのホールは、魔力供給がなければ冷蔵庫も同然です。
そして、パーティーの開始を告げるファンファーレが鳴り響きました。
……が、その音色が、何とも情けない。
高名な宮廷楽団は既に「帝国の国立音楽学校への研修(という名の亡命)」に全員が向かっており、残ったのは楽器を持ったばかりの見習いたち。
外れた音程が、冷え切ったホールに虚しく反響しました。
「皆、聴け! 不吉な『悪役』は去り、この国に真の愛の光が……」
ルイス王子が、ガタガタと震える脚を隠しながら、演説を始めました。
ですが、その演説がピークに達する前に、ホールの扉が乱暴に蹴破られました。
「おい、ルイス殿下! 婚約おめでとう! ……で、この三ヶ月分の肉と酒の代金、いつ払ってくれるんだい!?」
現れたのは、王宮に食材を納入していた商会の親方たち。
普段なら衛兵に阻まれるはずの彼らが、今や王族の威厳を微塵も恐れることなく、壇上へと詰め寄りました。
「ぶ、無礼者! 神聖な儀式の最中だぞ!」
「神聖だぁ? こっちの生活は泥沼だ! セシリア様がいなくなった途端、役人の書類チェックが止まり、支払いが一銭もなされねぇ! あんたが連れているその小娘の飾り代を、俺たちの血税で払おうとしてるんだってな!?」
「だ、誰がそんなことを言った!」
「帝国のラジオ……魔導放送だよ! 『王太子、国費を横領して愛妾に宝飾品を贈呈。内訳は以下の通り』……セシリア様が、わざわざ分かりやすい図解付きで放送してたぜ!」
(あら。陛下、いつの間にラジオなんて始めたんですの? ……あ。いえ、そういえば先日、帝国広報局の電波出力を強化する案に、私がサインしましたわね)
広場は一瞬で、怒号と悲鳴の渦へと飲み込まれました。
招待客たちは、自分たちに火の粉が降りかかるのを恐れて、料理(と言っても、保存食の肉を焼いただけの貧相なもの)を口にする間もなく、裏口から一斉に逃げ出しました。
「あ、あり得ん……! なぜ、王家の、僕の結婚が、こんな屈辱に塗れるんだ……!」
「ル、ルイス様ぁ……マリアベル、怖い、怖いですぅ……!」
しなだれかかるマリアベル。
ですが、ルイス王子に彼女を支える余裕はありません。
商人の一人が、彼女の首にかかった豪華なペンダントを指差しました。
「それは俺の店の在庫だ! 返せ、この泥棒令嬢!」
「ひっ、……や、やめてぇ!!」
真実の愛、その結晶であったはずの婚約パーティーは。
セシリアが去った後に残された「無能」と「負債」のツケを払わされる、あまりに無惨な『没落の始まり』へと姿を変えたのでした。
第14話、お読みいただきありがとうございました!
王国の没落が隠しきれなくなった様子を、残酷かつ滑稽な「婚約パーティー」でお届けしました(笑)。
セシリアの「魔導放送(情報戦)」という追い打ち、効いていますわね。あの日、彼女を追い出したことがどれほど致命的なシステム崩壊を招いたのか、王子たちはようやく身を以て体験し始めたようですわ。
次回、第15話「帝国の「真の月」」。
帝都のバルコニーでの、陛下からの正式な「求婚」。甘酸っぱいイチャイチャと王国の崩壊を対照的に描く、第一章の大きな区切りとなりますわ!
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