第13話:皇帝の「経済制裁」
使者ケビンさんが逃げ出してからというもの、レオンハルト陛下の「不機嫌」は加速する一方でした。
というのも、彼は、あのアホの王子がセシリアを「特赦(許してやる)」と言ったこと、そして彼女を「ただの有益な道具」として扱っていたことに、心の底から腹を立てていたからです。
「セシリア。……私は決めたぞ。……あの不潔な鼠(王子)が二度と貴様の名を口にできぬよう、物理的に喉元を締め上げてやる」
帝国の最高会議。
陛下は、ずらりと並んだ軍務官や文官たちを前に、氷のような冷徹さで宣言しました。
「これより、アウグスト王国とのすべての経済特約を撤廃し、食糧および魔石の輸出を無期限で停止する。……さらには、彼らが帝国の商業網を利用する際の関税を現在の十倍に引き上げる」
会議場に激震が走りました。
それは、ただの不仲による対立ではありません。
アウグスト王国の食糧の四割、そしてあらゆる魔導装置の動力源である魔石の六割は、帝国からの輸入に頼っていたからです。
これが行われれば、あの国は一ヶ月と持たずに暗闇と飢餓に沈むことでしょう。
「陛下! よろしいのですか!? これほど大規模な制裁を行えば、我が帝国の商人たちからも不満が出る可能性が……」
クリスさんが必死に食い下がります。陛下は冷たく、その声を遮りました。
「不満があるなら、私の前に来い。……それとも何か、クリス。……貴様は、あの不潔な男が再びセシリアを拉致しようと画策するのを、黙って見守れと言うのか?」
「い、いいえ! 断じて! ……ですが、あまりにも展開が急すぎて、実務上の混乱が……」
そこで、私の出番です。
私は、陛下の隣に用意された「最高顧問」の席で、静かに立ち上がりました。
私の前には、昨夜クリスさんが胃を抑えながら運んできた、帝国の通商資料が並んでいます。
「クリス様。……ご心配なく。……商人の不満については、こちらで代替の通商ルート――西方の海洋都市との新規契約案を策定済みです。……制裁で浮いた分の魔石は、彼らが適正な市場価格で買い取ってくれますわ」
私は、クリスさん、そして広間の文官たちへ向けて、一枚の「完全無欠な資料」を提示しました。
「これを見なさい。……制裁をかけた際、王国側で最もダメージが大きく、かつ帝国側に最も利益が出る『ピンポイントの攻撃ポイント』を三箇所、特定しました。……まずは奢侈品(高級ワインやドレスの生地)の関税を三十倍にします。……これで、王子とマリアベル様の私腹を直接肥やしている商会が、一晩で倒産しますわ」
広間が、静まり返りました。
私の言葉は、軍隊の突撃命令よりも鋭く、かつ残酷なまでに「合理的」でした。
「……セシリア。貴様、いつの間にこれを?」
レオンハルト陛下が、驚きと、それ以上の喜びを隠せない様子で私を見つめました。
「昨夜、陛下が寝静まった後に……いえ、陛下に『早く寝ろ』と窘められてから、寝室のキャンドルの灯りで、こっそりと……」
「…………寝ろと言っただろう」
陛下が深い溜息をつきました。
ですが、その手は優しく私の頭を撫でました。
「だが、よくやった。……クリス、聞いたな。……セシリアの組んだ『経済的包囲網』を即刻執行しろ。……一滴の魔力も、一粒の麦も、あの薄汚れた男の手には渡すな」
「……は、拝承……いたしました……」
こうして、宣戦布告なき『処刑』が始まりました。
私がかつて守り抜こうとした祖国の命脈を、皮肉にも私の手が、最も効率的で慈悲のない方法で断ち切ろうとしている。
ですが、私の心に痛みはありませんでした。
腐敗し、有能な者を使い潰し、国民を飢えに晒しながら贅沢を貪る。……そんな『壊れたシステム』は、一度完全にリセットされるべきなのですから。
(……ルイス殿下、マリアベル様。……せいぜい、冷え始めた王城で、温かなお茶でも楽しんでくださいな。……あの日、私から奪った『平穏な時間』を、たっぷりとお返しして差し上げますわ)
第13話、お読みいただきありがとうございました!
皇帝の怒りをセシリアが「合理的かつ最強の経済制裁」へと昇華させる展開、いかがでしたでしょうか。
セシリアの「恩讐を超えた、あまりにも理知的なざまぁ」が、彼女の有能さを際立たせていますわね。そして陛下、怒りつつもセシリアの有能さにメロメロなんですの(笑)。
次回、第14話「マリアベル、どん底の婚約発表」。
制裁が始まった祖国での、王子とマリアベルの滑稽な「婚約発表パーティー」を地獄絵図でお届けしますわ!
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皆様の評価が、セシリアの「ホワイトな野望」をさらに加速させますわよ!




