ディメンション
「……何?……」
ドロイの声が震える。目の前。確かに核は破壊した。完全に停止したはずだった。なのに。エイリプラは再び動いている。脚を引きずりながら。砕けた外殻を軋ませながら。濁った目で、ジエル達を見つめていた。
鬼爆が顔をしかめる。民家の奥。エイリワスが静かに歩み出る。床に散らばる瓦礫を踏みながら、淡々と口を開いた。
「ネクロマンサーは便利でね」
その目は冷たい。研究対象を見るようだった。
「せっかくの優秀な個体を、ただ捨てるのは勿体ないだろう、私の管轄のエイリ星人には消滅しないよう細工している」
エイリプラが一歩前へ出る。脚が地面を削る。死んでいる。なのに動いている。その異様さに、亜爆ですら表情を強張らせた。
「……気味悪ぃな」
エイリプラが脚を振り上げる。巨大な脚が振り下ろされる。
「おっと!!」
鬼爆が前へ出た。拳で受け止める。衝撃で地面が砕けた。
「ぐっ……!!」
鬼爆の腕が軋む。先ほどの戦闘ダメージが残っている。ジエルは叫ぶ。
「全員、走るぞ!!」
撤退。その判断と同時に、ドロイが両手を前に突き出す。
「鉄鋼製作」
大量の鉄骨を生成して。エイリプラの動きを妨害する。エイリプラが暴れる。鉄が軋む。
「長くは持ちません!!」
「停止」
ポトスが能力を重ねる。エイリプラの動きが止まる。
「今だよ~!」
全員が一斉に駆け出した。路地を抜ける。瓦礫を飛び越える。後ろから、鉄が破壊される音が響いた。
「速っ……!」
亜爆が振り返る。エイリプラが拘束を引きちぎっていた。蜘蛛のような脚で、高速接近してくる。
「しつけぇ!!」
ジエルが振り返る。両腕に雷を集中。
「発電機!!」
雷撃が放たれる。轟音。電撃がエイリプラを包み込み、一瞬だけ動きが止まる。
「今のうちです!!」
ドロイの声。全員がさらに加速する。その時。後方から。静かな声が響いた。
「もういい」
ピタリ。エイリプラの動きが止まる。エイリワスだった。民家の前で、静かに立っている。
「今回はここまでだ」
エイリプラは不気味に身体を揺らしながら、その場で停止した。エイリワスは遠ざかっていくジエル達を見つめる。そして、小さく呟く。
「……なるほど」
目が細くなる。
「想像以上に面白い」
エリア・オズ。レインダ村から離れた荒野を、ジエル達は重い空気のまま進んでいた。空は曇っている。風も冷たい。だが、それ以上に空気を重くしているのは、誰もが感じている敗北感だった。誰も口数が多くない。ポトスも珍しく静かで、ドロイも何かを考え込むように歩いている。そんな中。ジエルだけは、ずっと苛立っていた。
「……クソ」
小さく吐き捨てる。握った拳から、バチッと微弱な雷が漏れた。エイリワス。兄を殺した存在。やっと辿り着いた仇。なのに、何もできなかった。攻撃は当たらず、逆に追い詰められ、最後は撤退。思い返すほど腹の奥が煮えくり返る。
「今の俺じゃ……倒せねぇ……」
悔しさを噛み殺すように呟く。その横で、鬼爆が小さく漏らす。
「……ここにもいない」
その声は小さく、誰にも聞こえないほどだった。亜爆がちらりと鬼爆を見る。だが、特に何も言わなかった。
その数日後。ECOアモリス支部の病室。
消毒液の匂いが漂う病室で、エデンはベッドに腰掛けていた。療養中とはいえ、怪我はかなり回復している。窓から差し込む夕方の光が、白い病室を淡く染めていた。その病室には、ジエルと亜爆の姿があった。
「……それでな」
ジエルが壁に寄りかかりながら話をしている。レインダ村での出来事。エイリワスの存在。そして――兄のこと。
「俺の兄貴を殺したのは、エイリワスだった」
その言葉には、強い怒気が滲んでいた。エデンは静かに聞いている。ジエルは続けた。
「アイツの能力は、死体を操って……死体に乗り移る能力で」
そこで一瞬、言葉が止まる。少しだけ視線が下がった。
「……レインダ村で会った“親父”も、本物じゃなかった」
低い声。
「エイリワスが、親父の死体に乗り移ってたんだ」
病室の空気が静かになる。エデンは言葉を失った。自分の父親の死体を使われる。想像しただけでも最悪だった。ジエルは小さく舌打ちし、自分の頭を軽く押さえた。
「……?」
その仕草に、亜爆が気付く。
「頭でも痛いんですか?」
「ん……?」
ジエルは少し眉をひそめた。
「いや……」
頭を押さえたまま、どこか妙な顔をする。
「なんか知らねぇけど……レインダ村行って、アイツの話聞いてから違和感あんだよ」
「違和感?」
エデンが聞き返す。
ジエルは少し考えるように目を細めた。
「……何か、大事なこと忘れてる気がする」
その言葉に、亜爆が首を傾げる。
「大事なこと?」
「分かんねぇ」
ジエルは苛立ったように頭を掻く。
「思い出せそうで思い出せねぇんだよ……」
ぼんやりとした感覚。頭の奥に何か引っかかっている。だが、形にならない。エデンはそんなジエルを見て、少し苦笑した。
「ジエルも疲れてるんだよ」
静かな声。
「休んだ方がいいんじゃない?」
「……かもな」
ジエルはため息を吐く。ここ数日はまともに休めていない。精神的にも限界に近かった。
「寮戻って寝るわ」
そう言って壁から身体を離す。亜爆も「じゃあ私も戻ります」と軽く手を振った。二人は病室を出ていく。扉が閉まる。静かになった病室で、エデンは小さく息を吐いた。レインダ村。エイリワス。死体を操る能力。そして、ジエル・ゲートの能力。嫌な予感しかしなかった。
一方その頃。
ライサム北部――ECO本部。
司令室では、一人の男が資料へ目を通していた。ビユー・ジード。ECO本部司令官。机の上には、レインダ村での報告書が並べられている。職員から説明を受け終えたジードは、静かに目を閉じた。
「……アモリス支部襲撃事件の主犯のエイリ星人か」
低い声が響く。
「レインダ村での過去の事件に出現していた進化個体と、同一と見て間違いないだろう」
そして。ジードの目が、ある資料で止まる。そこに記されているのは――
ジエル・ゲート。 能力名、《次元》。
「本題は……」
ジードの表情がわずかに険しくなる。
「奴が、ジエル・ゲートの能力を使用している点だ」
室内の空気が張り詰めた。資料を閉じる。
「もし本当に、能力まで完全に扱えるのだとすれば……」
その先を、すぐには口にしなかった。だが。その目には明確な危機感が浮かんでいる。
「……早急に対策を練る必要がある」




