ネクロマンサー
「ジエルさん!」
ドロイの声が、室内に鋭く響く。
「撤退してください!」
珍しく強い口調だった。冷静なドロイが、ここまではっきり危険を訴えるのは珍しい。だが。
「はぁ!?」
ジエルは振り返る。怒りに染まった目。
「ここで逃げろってのか!?」
雷が身体から漏れ続ける。感情が、完全に前に出ている。エイリワスを前にして、引くという選択肢が頭にない。
「攻撃が通らないんですよ!」
ドロイも声を荒げる。
「このままでは――」
ドロイの視界の奥で、亜爆は外へ駆け出している。吹き飛ばされた鬼爆の様子を確認するためだ。民家の外では、崩れた壁の向こうから煙が立ち上っている。一方、ポトスは周囲を見ながら小さく呟いた。
「これはまずいね~」
その瞬間だった。屋根が破壊される。
「!?」
上から、巨大な影が落ちてきた。エイリ星人の死体。しかも一体ではない。弾丸のような勢いで降ってくる。ポトスは即座に反応した。
「停止」
手をかざす。落下してきた死体が、空中で停止する。しかし──
「っ!」
横の死角からもう一体。エイリワスが投げたエイリ星人の死体が、凄まじい速度で飛来する。回避が間に合わないず、ポトスに直撃する。ポトスの身体が壁へ叩きつけられる。木材が砕け、壁がひしゃげた。
「……っ!」
ドロイの表情が変わる。今まで以上に、切迫した声で叫んだ。
「ジエルさん!! 本気で言っています!!」
鉄を生成しながら、前へ出る。
「ここは撤退です!!」
その言葉。その必死さで――ようやく。ジエルの頭が少し冷える。
「……っ」
怒りで見えていなかった現実が、一気に押し寄せる。攻撃は当たらない。ポトスは壁にたたきつけられ、Sランクの鬼爆でさえも吹き飛ばされている。このままでは、本当に全滅する。ジエルは歯を食いしばりながら、ポトスの元へ駆け寄った。
「大丈夫か、支部長!」
壁際。崩れた木材の中で、ポトスがゆっくり身体を起こす。口元には少し血が滲んでいた。
「ボクは大丈夫さ~」
いつもの調子で笑う。無理をしているのが分かる笑顔。
「それより、今はここから撤退しよう」
ポトスの視線が、エイリワスへ向く。
「攻撃が当たらないんじゃ、どうにもできない」
冷静な判断だった。悔しさはあった。だが、ここで無理をすれば終わる。ジエルは拳を握る。悔しい。逃げたくない。それでも――
「……くそっ」
撤退を受け入れるしかなかった。その様子を。エイリワスは静かに見ていた。まるで観察結果を整理するように。
「逃げるつもりか……」
低い声。そして、わずかに笑う。
「まぁ、いいだろう……」
目が細くなる。
「いいデータが取れた」
その言葉に、ジエルの怒りがまた揺れる。だが、今は戦えない。ジエルはポトスを支え、ドロイと共に家の外へ出る。外には、鬼爆と亜爆がいた。鬼爆は頭を押さえながら立ち上がっている。
「いや~びっくりした」
普通に生きている。亜爆は呆れたようにため息をついた。
「本当に丈夫なんですね……」
だが、その空気も一瞬だった。民家の中から。エイリワスの声が響く。
「ただで逃がすとは、言っていないがね……」
嫌な予感が走る。次の瞬間。
「──ネクロマンサー」
空気が変わった。巨大な影が、ジエル達の前へ現れる。
「……は?」
ジエルの目が見開かれる。蜘蛛のような八本脚。異形の身体。見間違えるはずがない。
「……エイリプラ……?」
さっき。確かに倒したはず。核も破壊したはずなのに、エイリプラは、傷だらけの身体を引きずりながら、再び立っていた。




