連鎖
白い糸が、一直線に鬼爆の手へと迫る。避けずにそのまま触れる。
――次の瞬間。爆発が起きる。至近距離で炸裂した衝撃が、空気を押し潰すように広がった。爆風が巻き上がり、視界が一気に白く染まる。ジエルは思わず腕で顔を庇う。
「……っ!」
風圧が通り過ぎる。だが、その“直後”。爆音が連続に聞こえる。エイリプラの脚が、数本爆発した。
「……っ、何が……!」
拘束されたままの亜爆が目を見開く。ドロイも状況把握を試みるが、視界はまだ不完全。
「……視認ができない……」
爆煙がゆっくりと晴れていく。そして、その中から姿を現したのは――エイリプラの“後ろ”に立つ鬼爆だった。何事もなかったかのように、軽く手を振っている。
「いやー、ちょっと固いなこれ」
軽い口調。だが、その位置がすべてを物語っていた。ドロイの思考が即座に組み上がる。
「……爆風を利用して視界を遮断」
小さく呟く。
「その間に接近、脚部へ接触……」
結論。
「爆風に隠れて、足を触ったのか……」
鬼爆の能力。触れた対象を爆発させる。それを、あの一瞬でやった。
ドロイの視線が、エイリプラへ向く。爆発を受けたはずの脚。だが──
「……欠損なし」
損傷はある。だが、破壊には至っていない。今までのエイリ星人とは、明らかに違う耐久性。鬼爆もそれを感じ取っていた。
エイリプラの残った脚が、一斉に鬼爆へと向かう。鋭い刃のように振り下ろされる。
「はいはい」
鬼爆は、一本の脚を掴み、止め、そして、離す。
「ドカン」
爆発。脚が弾かれる。さらにもう一本。掴む。離す。爆破。その動作は、あまりにも単純で、あまりにも速い。攻撃と爆破が、一つの流れとして成立していた。エイリプラの動きが、わずかに鈍る。その隙。ジエルはすでに動いていた。
「ドロイ!亜爆!」
一直線に駆ける。捕らえられた二人の元へ。白い糸は、未だ強固に絡みついている。
「今外す!」
拳に電気を集中させる。だが、殴れば二人ごと傷つける。
「……これで!」
腕を振る。電気が収束し、形を変える。刃。
「怒雷刃!」
鋭い雷の刃が、糸へと振り下ろされる。次の瞬間、糸が切れる。
「……っ!」
ドロイの身体が自由になる。続けて亜爆の拘束も断ち切る。焦げた糸が、地面へと落ちる。
「助かりました……!」
亜爆がすぐに距離を取る。ドロイも体勢を立て直す。
前方では、鬼爆とエイリプラの攻防が続いていた。爆発と衝撃。だが、決定打には至っていない。ジエルは歯を食いしばる。
「……タフすぎんだろ」
今まで戦ってきたエイリ星人とは明らかに違う耐久力。その実感が、全員の中に広がっていた。
エイリプラが、再び体勢を整える。胴体の穴が、ゆっくりと開く。
激しい攻防の中で、ポトスだけは一歩引いた位置から全体を見ていた。爆発。斬撃。金属音。戦場の音が重なり合う中でも、その視線は冷静だった。
(……あれは多分、Aランク相当だね~)
エイリプラの動き。耐久。反応速度。
(しかも上澄みの)
鬼爆の爆発を受けてもなお崩れない構造。単純な火力だけでは削りきれない。
(ボクは近づけないな~)
接触が前提の自分の能力では、あの脚の間合いに入るのはリスクが高い。そう考えたポトスは──
(……じゃあ、アレやるか)
小さく結論を出す。その直後、ポトスはいつもの調子で声を張った。
「みんな~、3、2、1の合図で地面から離れてくれる~?」
「は?」
ジエルが眉をひそめる。何を言っているのか分からない。亜爆も同様に、訝しげな視線を向けた。だが、その間にも戦闘は続いている。鬼爆はエイリプラの脚を掴み、爆破し、また避ける。エイリプラはそれに応じて攻撃を重ねる。拮抗。だが、長くは持たない。
「行くよ~」
ポトスの声が、わずかにトーンを変える。
「3、2」
その瞬間。ポトスはゆっくりと、前髪をかき上げた。普段は隠れている左目。そこには──“インターフェース”。その中心に、ラベジニウムがはめ込まれている。淡く、そして強く、光る。
「過剰適応」
静かに告げられる言葉。空気が一瞬で変わる。
「1」
ポトスが地面に触れた。その瞬間。
「連鎖停止」
その瞬間、ジエル達は地面から飛んで離れる。鬼爆は軽くエイリプラの上へと回り込み、そのまま――
「はい、ドカン」
真上からの爆発。エイリプラの体が地面へと叩きつけられる。そして。ポトスの足元から、異変が広がる。地面が、灰色へと変色していく。数メートルの範囲。空気すら止まっているかのような静寂。その中に触れたエイリプラの脚が――完全に動きを失った。ジエルがそれを見下ろす。
「……これが……」
息を呑む。
「支部長のオーバーダプト……?」
触れていない。それなのに、止まっている。範囲。連鎖。概念ごと固定しているような異様な力。
「触れなくても……止めれんのかよ……」
その声には、驚きが滲んでいた。ポトスは軽く振り返る。少しだけ息が荒いが、いつもの笑みは崩していない。
「今のうちに叩き込んで~」
その声に、明確な焦りが混じる。
「すぐ解けちゃうから~」
制限時間は長くは持たない。その一言で、全員の意識が一気に切り替わる。
「行くぞ!!」
ジエルが叫ぶ。空中から一気に踏み込む。拳に電気を集中。ドロイは即座に複数の鉄塊を生成。軌道を計算し、一斉に射出。亜爆は最大出力の爆弾を生成し、投げ込む。鬼爆はすでに至近距離。触れる。離す。爆破。一斉攻撃。停止したエイリプラに、容赦なく叩き込まれる。異なる攻撃が重なり、衝撃が連鎖する。動けない標的に対する、最大火力の集中。
レインダ村の中心で――決着へ向けた一撃が、放たれていた。




