再会
レインダ村の中を進むにつれて、静けさはより濃くなっていった。風は相変わらず吹いている。家々もそのまま残っている。だが、その“普通さ”の中に、確実に異質なものが混じっていた。そして――敵は、確かに存在していた。何度かエイリ星人が姿を現した。路地の奥から。家屋の影から。気配もなく、突然。
「来るぞ!」
ジエルが叫ぶ。戦闘が始まる。だが、その展開はこれまでと大きく変わらなかった。
「ドカン」
鬼爆の軽い声と共に、爆発が起きる。ポトスが触れれば、敵は一瞬で停止する。その間に処理される。圧倒的だった。だが──
「くっ……!」
ジエルもまた、食らいついていた。拳に電気を纏い、踏み込む。ドロイは鉄塊を生成し、軌道を読んで投げる。亜爆は爆弾を精密に制御し、確実に隙を作る。三人とも、確実に戦えていた。決して足手まといではない。だが同時に、痛感していた。――二人との差。
それでも、止まるわけにはいかない。ジエルは故郷の中を進む。すると、ジエルの動きが不意に止まった。
「……?」
誰かが気配に気づいたわけではない。だが、全員が同時に感じた。“何かいる‘‘。前方。道の先に――人影があった。
「……人か?」
ジエルが眉をひそめる。この村には、誰もいないはずだった。そのはずなのに、そこに“人”が立っている。ゆっくりと、近づいてくる。一歩ずつ。足音は小さい。だが、その姿がはっきり見えた瞬間。
「……っ!?」
ジエルの目が大きく見開かれた。呼吸が止まる。心臓が一瞬、跳ね上がる。
「……なんで」
声が漏れる。理解が追いつかない。あり得ない。だが、見間違えるはずがない。
そこにいたのは――
「……親父?」
かすれた声。その人物は、確かに“父”だった。ジエル・レートの父。死んだはずの存在。その人物は、ゆっくりと口を開く。
「……ジエル・レート……来ていたのか……」
小さく、低く。どこか感情の薄い声。ジエルの背筋に、冷たいものが走る。懐かしさではない。違和感。明らかに“何かが違う”。
「……親父、なのか?」
問いかける。確認するように。信じたいのか、疑いたいのか、自分でも分からないまま。周囲もざわめく。ドロイの視線が鋭くなる。亜爆は即座に警戒態勢に入っていた。鬼爆は興味深そうにその様子を見ている。ポトスだけが、わずかに表情を変えた。その人物は、ゆっくりとジエルを見つめる。
そして――
「レート」
その呼び方。間違いなく、家族だけが使うもの。
「会えて嬉しいよ」
口元が、わずかに歪む。笑み。だが、その笑みには温度がなかった。
「親父!」
声が弾けるように出た。 考えるより先に、ジエルの身体が前へ出る。 距離を詰めようと踏み出した、その瞬間――
「ジエルさん」
低く、鋭い制止。 ドロイの手が、ジエルの腕を強く掴んでいた。
「……離せ!」 振り払おうとする。だが、その手は離れない。 ドロイの視線は、目の前の“父”に固定されている。
「エイリ星人の反応です」
その一言が、空気を凍らせた。
「……は?」
ジエルの足が止まる。 目の前にいるのは、自分の父のはずだ。 見間違えるはずがない。間違うわけがない。 だが、ドロイは迷いなく続ける。
「外見、声紋、一致。しかし内部反応は完全に異質。エイリ星人と断定します」
冷静で、無機質な断言。 ジエルの中で、何かが大きく軋む。
「……親父、だろ……?」
かすれた声。 信じたい気持ちが、まだ残っている。
「……くく」
低い笑いが漏れた。 “父”の口元が、ゆっくりと歪む。
「騙すことは……かなわなかったか……」
声が、変わる。 ほんの僅かに。
「しかし、会えて嬉しいという部分は……嘘ではないよ……」
歪んだ言葉。 それは父の声を借りながらも、全く別の意思を持っている その違和感が、記憶を呼び起こす。
――アモリス支部襲撃事件。
――人に化けるエイリ星人。
ジエルの瞳が見開かれる。
「……お前……」
思い出す。
「……エイリワス……!」
その名を、絞り出すように口にする。 空気が、一瞬で張り詰めた。 “父”の姿をしたそれは、ゆっくりと笑みを深める。
「……フフフ」
低く、愉悦を含んだ声。 完全に“別の存在”のものだった。 ジエルの背筋を、冷たいものが走る。 目の前にいるのは父ではない。 父の体に擬態しているエイリワス。 ドロイの手が、さらに強くジエルを引き止める。
「危険です。ジエルさん」
亜爆は無言で爆弾を構え、間合いを測る。 鬼爆は目を細めている。 ポトスは、その様子を静かに見据えていた。 エイリワスは一歩、また一歩と進む。 その動きはゆっくりなのに、確実に圧が増していく。 「……ジエル・レート」
名を呼ばれる。 それだけで、心臓が強く打つ。
「君の進化を……この目で確かめさせてもらおう」 その言葉は宣告だった。 再会ではない。 対峙。 レインダ村の中心で―― エイリワスが、今、牙を剥いた。




