強さの格差
ジエル達が山道を抜けた先――視界がひらける。そこにあったのは、レインダ村だった。
「……レインダ村」
ジエルの足が、わずかに止まる。見覚えのある景色。家々の配置、道の形、遠くに見える海の気配。
だが――
「……なんか、おかしくねぇか」
ぽつりと漏れる。荒らされているわけではなかった。建物は崩れていない上に、焼け跡も、破壊の痕跡もない。ただ一つ。
「人が生活出来る施設は残っているようですが……」
ドロイが静かに言う。その通りだった。生活の気配は残っているのに、そこに“人”だけがいない。扉は閉じられ、物はそのまま。まるで、ある瞬間に全員が消えたかのような不自然さ。
そして何より――
「静かすぎる……」
亜爆の低い声。エイリ星人が大量にいる気配もない。だが、安全とも思えない。普通すぎる。それが逆に、異様だった。ジエル達は警戒を強めながら、村の中へと足を踏み入れる。
その瞬間だった。物陰から、影が飛び出す。エイリ星人。
「来たか!」
ジエルが即座に構える。だが、今回は一体ではない。もう一体、別方向から現れる。
「二体……!」
ドロイが短く告げる。その瞬間、鬼爆が軽く手を挙げた。
「じゃ、片方もらうね」
軽い調子。まるで取り分を決めるような口ぶりだった。ポトスも一歩前に出る。
「じゃあ、もう一体はボクがやるよ~」
その声も穏やかだ。だが――
「いや、待て」
ジエルが前に出る。ドロイと亜爆も、それに続いた。
「俺らもやる」
その一言に、ポトスは少しだけ目を細める。
「……いいの~?」
試すような声音。ジエルは拳を握った。
「当たり前だろ」
ジエルがここで引く理由はない。戦うために来たのだから。ドロイも頷く。
「戦力分散は可能。問題ありません」
亜爆は無言のまま、手の中に小さな爆弾を生成していた。その意思は明確だった。ポトスは小さく笑う。
「……じゃあ、お願いしようかな~」
その言葉と同時に――三人が動いた。ジエルが地面を蹴る。一気に距離を詰める。
「はぁっ!」
拳を振り抜く。鈍い手応え。
だが――
「……っ、硬ぇ!」
効いていない。確かな手応えはあるのに、ダメージが浅い。
エイリ星人が腕を振り上げる。反撃。その瞬間。
「支援します」
ドロイの声。空間に鉄の塊が生成される。それをそのまま投げつける。直撃。だが――
「威力不足」
冷静な分析。体勢は崩れたが、致命打には程遠い。
「下がってください」
亜爆の声が響く。ジエルとドロイが一瞬で後退。その間に、亜爆の手の中に生まれる爆弾。投げる。爆発し、衝撃と煙が起きる。エイリ星人の体が、わずかによろめく。
「……効いた!」
ジエルの目が鋭くなる。その瞬間、体内の電流が一気に加速する。電気が拳へと集中していく。
「行くぜ……!発電機」
新しい感覚。溜めた電気を、一点に叩き込む。
「新技!」
踏み込み。拳を振り抜く。
「雷打!!」
殴打と同時に、電流が一気に放出される。閃光。衝撃。空気が震える。
「……やったか?」
息を吐くジエル。
「まだです」
ドロイの声。煙の中から、エイリ星人がゆっくりと動く。
「まずいな……」
ジエルの背筋に冷たいものが走る。その時だった。
「はいはい~」
間延びした声と共に、ポトスがすっと前に出る。そして、エイリ星人に触れた。
「停止」
その一言。次の瞬間。エイリ星人の体が灰色へと変色する。動きが――止まった。完全に。
「……は?」
ジエルが思わず声を漏らす。さっきまで動いていた存在が、まるで時間ごと切り取られたように静止している。ポトスはいつもの調子で振り返る。
「ボクの力さ~。触った物体の動きを、数秒だけ止められるんだ~」
あまりにもあっさりした説明。だが、その効果は絶大だった。
「……なんだそれ」
理解が追いつかない。その時。
「あ、ジエル君。そこ危ないよ~」
ポトスが軽く言う。そして、自分はさっと後ろへ下がる。
「……あ?」
ジエルは反応が一瞬遅れた。何が危ないのか分からない。周囲を見る。その瞬間。
「うおっ!?」
視界の端から、何かが高速で飛んでくる。エイリ星人。もう一体の方だ。
「アブねぇ!」
反射的に身体を捻る。ギリギリで回避。地面を転がるようにして距離を取る。その直後。とんでもない規模の爆発が、村の一角を飲み込む。さっきまで三人が戦っていたエイリ星人も、ポトスが止めていた個体も――まとめて、吹き飛んだ。衝撃波が襲う。土が舞い、視界が白くなる。数秒遅れて、静寂が戻る。
「……っはぁ……」
ジエルが息を整える。目の前には、巨大なクレーター。何も残っていない。エイリ星人の影すら。
「……今の……」
ドロイも、珍しく言葉を失っていた。亜爆も無言のまま、その光景を見ている。その中心で、鬼爆が軽く肩を回していた。
「いやー、まとめてやった方が早いじゃん?」
いつも通りの軽さ。その一言で片付けるには、あまりにも規格外だった。ジエルは、乾いた笑いを漏らす。
「……めちゃくちゃだろ」
だが、その“めちゃくちゃ”が、今は頼もしくもあった。レインダ村。その静けさの裏にあるもの。それは、まだほんの一端に過ぎない。




