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エデン  作者: ko-da
6章 エリア・オズ編

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88/91

規格外

山道に一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。舗装の切れた土の道。両脇を覆う木々は深く、枝葉が空を狭めている。その隙間から吹き抜けてくる風は、どこかひんやりとしていた。海が近いからか――涼しい。だが、その涼しさは心地よいものではなく、肌の奥にじわりと染み込むような、妙な感触を伴っていた。

「……懐かしいな」

ジエルが小さく呟く。記憶の中のレインダ村も、こんな風が吹いていた気がする。だが今、その感覚はどこか歪んでいる。同じ場所のはずなのに、何かが違う。

ポトスがゆっくりと口を開いた。

「みんな、気をつけてね~」

その声は相変わらず柔らかい。だが、言っている内容は軽くない。

「まだエリア・オズの中には入ってないけど~……この辺りにもエイリ星人はいるかもしれないからね~」

その一言で、全員の意識が一気に引き締まる。ジエルは拳を軽く握る。ドロイは周囲の気配を探るように視線を巡らせる。亜爆は無言で立ち位置を微調整した。

「……来る」

ドロイが低く告げた、その直後。木々の奥から、影が飛び出した。黒く歪な体。人型をしているが、その動きは明らかに人間ではない。エイリ星人。

「……!」

ジエルが構える。だが次の瞬間、その姿が視界から消えた。

「速――」

言い終わる前に、空気が裂ける。目にも止まらぬ速度で、エイリ星人が間合いを詰めてくる。一直線。

「分析。速度、危険域」

ドロイの声が割り込む。

「個体戦闘力、Aランク相当」

その言葉に、ジエルの神経がさらに研ぎ澄まされる。速い。今までの敵とは明らかに違う。だが──

「……あー、はいはい」

場違いなほど気の抜けた声が響いた。鬼爆だった。動き出すでもなく、構えるでもなく、ただ一歩前に出る。そして、迫り来るエイリ星人の腕を、無造作に掴んだ。

「――は?」

ジエルの目が見開かれる。あの速度を、見てから、掴んだ。勢いは完全に殺され、エイリ星人の動きが強制的に止まる。

「ほい」

軽い動作で、鬼爆はそのまま体をひねて、投げる。エイリ星人の体が宙を舞い、数十メートル先の地面へ叩きつけられた。衝撃音。土が舞い上がる。そして鬼爆は、まるで子どもに遊びを見せるような軽さで言った。

「はい、ドカン」

その瞬間。叩きつけられた地点を中心に、空気が膨張し、地面が抉れ、衝撃波が周囲へ叩きつけられる。それは“爆発”という言葉で片付けていいものではなかった。木々が大きく揺れ、葉が一斉に散る。爆炎が一瞬で広がり、そして消えた。残ったのは――抉れた地面と、完全に消し飛んだエイリ星人の痕跡。静寂。風の音すら、一瞬遅れて戻ってくる。

「……」

ジエルは、言葉を失っていた。何が起きたのか、理解はできる。だが、納得ができない。速さも、力も、規格外。

「……」

ドロイもまた、沈黙していた。その機械的な思考ですら、一瞬だけ処理が遅れるほどの現象。Aランク相当の敵が、触れられ、投げられ、そして――爆散した。

亜爆ですら、珍しく表情が固まっている。

三人の視線が、ゆっくりと鬼爆へ向く。当の本人は、まるで何事もなかったかのように、指についた埃を軽く払っていた。

「ん? なに?」

軽い。あまりにも軽い。その温度差が、逆に異常だった。

「……いや」

ジエルがようやく声を出す。

「なんだよ今の……」

鬼爆は首をかしげる。

「んー? ただの投げだけど」


「いや違うだろ! 最後のやつだよ!」


「ああ、あれ?」

鬼爆は、少しだけ考えるような仕草をして――

「触ったやつ、爆発させただけ」

さらっと言った。

「……」

再び沈黙。Sランク。その意味をジエル達は今、初めて実感していた。ポトスはそんな様子を見て、いつもの調子で笑う。

「ね~、頼もしいでしょ~?」

誰も否定できなかった。山道の奥から、また風が吹く。その先にあるのは、レインダ村。そして、エリア・オズ。だが今、ジエル達の中で一つだけ確かなことがあった。

この任務――想像していたより、ずっと“規格が違う”。

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