表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデン  作者: ko-da
6章 エリア・オズ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/93

同じ境遇

「……やっぱり、まだきついか?」

低い声。エデンの肩が、わずかに揺れる。ジエルは続ける。

「二人のこと」

その言葉は、訓練室の静寂にゆっくりと落ちた。ECOとして初めて出来た仲間。共に戦い、支え合い、そして――失った存在。その事実は、傷としてまだ生々しくエデンの中に残っている。エデンはすぐには答えなかった。拳が、膝の上で小さく握られる。胸の奥が、また鈍く痛んだ。

「……大丈夫じゃない……」

かすれた声だった。強がりでも、見栄でもない。ただ、正直な言葉。

「苦しい」

短い一言。だが、その中に詰まった重さは軽くない。ジエルは黙って聞く。エデンは俯いたまま、けれど言葉を止めなかった。

「でも……」

呼吸を整える。

「この苦しみを、忘れないって決めたから」

その言葉には、痛みと共に意志があった。忘れて楽になるつもりはない。なかったことにもしたくない。苦しみごと抱えて、自分の中に残す。それが、今のエデンなりの答えだった。ジエルはその横顔を見つめる。未熟だ。危うい。けれど――真っ直ぐだった。

「……そうか」

短く返す。それ以上、軽々しく何かを言うことはしなかった。だが、その返事の裏で、ジエル自身もまた思い返していた。“大切な誰かを失うこと”。その喪失を抱えたまま、生きること。そして――戦うこと。

(……分かる)

心の中で、静かにそう思う。エデンだけじゃない。自分も、知っている。失った後に残る、どうしようもない痛みを。そんな沈黙の中。不意に、エデンが顔を上げた。

「……ジエルは」

少しだけ迷うような間。

「どうしてECOに入隊したの?」

唐突な問いだった。だが、軽い興味本位ではないことは分かる。“知りたい”のだ。目の前にいるこの男が、何を抱えてここにいるのか。ジエルは、一瞬だけ視線を逸らした。訓練室の床。遠い記憶。沈黙。普段なら適当に流してもおかしくない問い。だが、今日はそうしなかった。

「……どうして、って」

小さく息を吐く。

「俺の兄貴も、ECOだったから」

その言葉に、エデンがわずかに目を瞬く。ジエルは壁にもたれながら、ぽつりぽつりと続けた。

「……それに、憧れてたんだ」

その声音は、いつもより少しだけ静かだった。

「……俺が10歳ぐらいの頃に、死んじまったけど」

空気が、少しだけ重くなる。エデンは何も言わない。ただ、聞く。ジエルも、続ける。

「兄貴はすごかったんだぞ」

その言葉には、誇りがあった。

「アモリス支部の今までの隊員の中で、一番の天才だって言われてたらしい」

少しだけ笑う。懐かしむような、でも寂しさの混じる笑み。

「ランクだってAだった」

ECOにおけるAランク。それがどれだけの実力を意味するか、エデンにも分かる。

「天記さんと、よく任務に行ってたらしい」

その名前に、エデンは小さく反応する。ジエルは続けた。

「兄貴が死んだ後……ECOに入りたいって言ったら」

一拍。

「天記さんが鍛えてくれた」

その言葉に、エデンは少しだけ納得したように呟く。

「……だから、天記さんには“さん付け”なんだ」

ジエルは一瞬きょとんとして。

「……そこかよ」

少し呆れたように言う。だが、そのやり取りが逆に空気をほんの少し和らげた。それから。ジエルは、改めてエデンを見る。真っ直ぐに。

「俺にも、お前の気持ちは分かる」

その一言は、軽くなかった。同情ではない。理解しようとしている者の言葉だった。ジエルは少しだけ眉を寄せる。

「だから」

一歩、エデンに近づく。

「無理すんな」

短い。だが、強い。

「きつかったら言え」

その言葉には、不器用な優しさがあった。

「出来ることは、やってやるよ」

訓練室は静かだった。だがその静けさは、さっきまでの重苦しいものとは少し違った。失った痛みは消えない。苦しみも、簡単にはなくならない。それでも。その苦しみを知っている誰かが、隣にいる。その事実だけで。ほんの少しだけ、エデンの中の何かが軽くなった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ