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エデン  作者: ko-da
5章 エリア・アスタロス編

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79/90

もっと強く

亜爆が病室を出ていき、室内には再び静けさが戻っていた。機械の音だけが、淡々と時間を刻んでいる。エデンはまだベッドの上にいた。呼吸は落ち着いている。だが、その目の奥には消えきらない痛みが残っていた。ドアの外で、わずかな気配が動く。

「……会ってやれ」

ジエルの声だった。ゆっくりとドアが少しだけ開く。その隙間から、小さな影が入ってくる。オルだった。一歩、二歩と慎重に病室へ入るその姿は、どこか緊張しているようだった。ジエルはそのまま扉の近くに立ち、奥までは入ってこない。空気を読んでいるようでもあり、何かを見届けるようでもあった。オルはエデンの方を見る。視線が、ぶつかる。エデンもまた、オルを見た。沈黙。

――オルがいたから。

――あの時、判断が揺れた。

エイリポルを信じた理由の一つに、オルの存在があった。そう捉えることもできたはずだった。だが、エデンの中にその発想はなかった。責めるという選択肢が、最初から存在していない。ただ、目の前の現実だけを見ている。オルは少しだけ唇を開きかけて、言葉を探すように視線を揺らした。だが、エデンの方が先に口を開いた。

「……オル」

静かな声だった。責める色はない。ただ、確かめるような呼びかけ。オルの肩が、わずかに跳ねる。エデンは続ける。

「俺……もっと強くなる」

短く、はっきりとした言葉。そこに迷いはなかった。オルの目が揺れる。

「強く...ですぞ?」

エデンは視線を逸らさずに続けた。

「もう、同じことはしない。誰も、死なせない」

その言葉は宣言だった。誰かを責めるためでも、過去を否定するためでもない。ただ、自分のこれからを縛るための言葉。オルは小さく息を吸う。何かを言おうとして、やめる。言葉が見つからないまま、視線を落とした。その様子を見ながら、ジエルは扉のところで静かに息を吐く。何も口出しはしない。ただ、この場の空気を見守っていた。エデンはそれ以上何も言わなかった。代わりに、ゆっくりと視線を窓の外へ向ける。エデンはゆっくりと息を吐いた。そして、静かに言葉を落とす。

「……そのためにも」

わずかに間を置く。

「俺、修行する」

声は小さいが、迷いはなかった。ベッドの縁に手をかける。軋むように身体を起こし、そのまま立ち上がろうとする。だが――次の瞬間。

「馬鹿やろう」

鋭くも、どこか呆れた声が飛んだ。ジエルだった。扉の近くから、一歩前に出る。

「お前、まだ疲れてんだろ」

視線は真っ直ぐエデンに向いている。エデンの動きが止まる。ジエルはそのまま続ける。

「体ボロボロのまま何やろうとしてんだ」

少しだけ息を吐く。

「休んどけ」

それは命令ではない。だが、拒否を前提としない言葉だった。エデンはジエルを見る。視線が交わる。数秒の沈黙。その間に、エデンの中で何かが揺れる。

(休む……)

その言葉が、妙に遠い。今までの自分にはなかった選択肢のように感じる。だが、すぐに首を振る。

「でも……」

言いかける。ジエルは被せるように言った。

「でもじゃねぇ」

一拍。

「今のお前が無理して動いても、意味ねぇ」

その言葉は厳しいが、冷たくはない。ただ現実をそのまま置いている。エデンは唇を結ぶ。握った拳に、わずかに力が入る。

ジエルはそれを見て、少しだけ表情を緩めた。呆れと、心配が混ざったような顔。

「ほんとにさ」

小さく吐き出す。

「お前、そういうとこ真面目すぎんだよ」

一歩近づく。そして、短く言った。

「休め」

それだけ。だが、そこには押し返せない重さがあった。エデンはしばらく動かなかった。立ち上がりかけたまま、その場で止まる。やがて、ゆっくりと力が抜けるようにベッドへと戻る。完全な納得ではない。それでも――今は、それ以上動けなかった。ジエルはそれを見て、小さく息を吐く。

「……ったく」

ぼそりと呟く。そして、オルの方を一瞬だけ見てから、何も言わずに部屋の空気をそのまま残していく。病室には再び静けさが戻る。だがその静けさは、さっきまでとは少し違っていた。少なくともそこには、ひとりで抱え込むだけの空気ではなくなっていた。

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